福島原発被ばく労災 損害賠償裁判(あらかぶさん裁判)始まる
使い捨て重層下請け構造を温存したい国の意思を打ち砕こう


裁判に至る経過

 北九州市の四二歳「あらかぶさん」(ニックネーム、「あらかぶ」はカサゴの地方名)は、二〇一一年十月~一三年十二月、東電福島第一、第二、九電玄海原発で働き、記録上、二年余りで約二〇ミリシーベルトを被ばくした。そして、事故収束作業員として初めて、被ばくにより白血病を発症したとして労災認定を受けた(二〇一五年十月)。その後、死の恐怖に苛まれてうつ病になり、うつ病についても労災認定された(二〇一六年五月)。
 労災認定されたとき東電が「作業員の労災申請や認定状況について当社はコメントする立場にない」と述べたことにカチンときたあらかぶさん。謝罪はおろか、自らの責任に触れることは一切なく、労災被害者を愚弄するような東電・九電に対し、「被ばく労働による病気に苦しむ労働者が泣き寝入りすることなく、労災認定と損害賠償を求めて声をあげる先例になろう」という思いで、二〇一六年十一月に約六〇〇〇万円の損害賠償請求訴訟を起こした。労災補償では補われない被害、計り知れない精神的・肉体的苦痛に対しては、原子力損害賠償法により原子力事業者に賠償責任がある。
 被ばく労働を考えるネットワークでは、提訴の翌日、あらかぶさんにも参加いただき、国と東電に対し被ばくの責任を問い損害賠償を求める集会を開催、その後、第一回口頭弁論の日程と連動させ「あらかぶさんを支える会」を立ち上げ傍聴支援を呼びかけた。

第一回口頭弁論と支援集会

 本年二月二日の第一回口頭弁論(東京地裁六一五法廷)には、全国から支援者が駆けつけ、傍聴席、記者席とも満席、控室まで埋めつくされた。あらかぶさんは証言台に立ち、まっすぐ裁判長の目をみて、力強く意見陳述を行なった。被告電力側は、業務と白血病発症との因果関係を否認し、全面的に争う姿勢を示している。
 支援集会には約六〇人が参加。あらかぶさんと弁護団から裁判を闘う決意が述べられ、各方面から連帯アピールがあった。あらかぶさんが属する全国一般ユニオン北九州の本村真委員長は「相手は国家的方針のもとに対応してくるので、全国的な支援と資金が必要。今後も廃炉作業を含め多くの被ばく労働者が生み出される状況下で、日本の労働運動の本質が問われる。あらかぶさん裁判支援を全国の労組に発信し、ともに闘っていきたい。東電と九電には団体交渉を申し入れ、拒否するなら労働委員会の場に引きずり出す」とあらゆる形で組織的に闘う方針を述べた。
 本村委員長が言うように、本裁判は、被ばくによる健康被害の因果関係を絶対に認めないという国家権力の一貫した方針との闘いである。被ばく労働者の使い捨てと住民被ばくの受忍強要で初めて成り立つ原子力政策維持のために、国は当事者が立ちあがることを断固阻止してくる。これまで被ばくによるがんや白血病の労災認定は一六件(JCO臨界事故の急性放射線症を入れても一九件)しかなく、裁判は数件である(岩佐嘉寿幸さん一九九一年敗訴、長尾光明さん二〇一〇年敗訴、梅田隆亮さん係争中、札幌の元事故収束作業員係争中)。

本裁判の意義

 あらかぶさん裁判でも、被告は決着のつかない因果関係論争に持ち込み、判例にならった結論に導くねらいのようだ。国家的被ばく被害者切り捨て策を許してはならない。韓国のイ‐ジンソプ裁判では、「被ばくと疾病の因果関係はないことを被告が立証できない限り責任は被告にある」という画期的判決が出された(二〇一四年十月)。また、チェルノブイリ法は「被ばくによる健康被害のリスクを負わされたことへの補償」という概念に基づいている。このような日本政府が認めない考え方を、本裁判支援を通して広く定着させ、労働者が声をあげられる環境を作ることが「あらかぶさんを支える会」の運動であると思う。支える会への参加、カンパなど、物心両面からのご支援をお願いしたい。 【中村泰子】
●次回 第二回口頭弁論:四月二十七日(木)一一時~東京地裁(被告側反論)

(『思想運動』996号 2017年2月15日号)