少女像設置に日本政府が恥ずべき対応
「慰安婦」問題日韓「合意」を破棄せよ
 

 昨年十二月二十八日、韓国・釜山の日本総領事館前の歩道に平和の碑(平和の少女像)が建てられた後、市によって四時間後に強制撤去された。
 が、韓国全土から市民らの抗議の電話が殺到したことによって三十日に戻された。この像は、一昨年末の日韓「慰安婦」問題合意以後、釜山市の学生・青少年が中心になって「未来世代が建てる少女像推進委員会」を作り、総領事館前で届け出のいらない一人デモをおこなって各大学や市民団体に制作資金の寄付を呼び掛け、設置したものだ。一六八団体、一九学校、五一三八人から設立目標額七五〇〇万ウォンを大きく上回る八五〇〇万ウォン(八二〇万円)が寄せられた。
 日本政府はこれまでも再三、「一〇億円を拠出したのだから韓国政府は、少女像を撤去させ、合意の履行」をと要求してきた。そして一月六日、釜山の少女像設置に対して駐韓大使、釜山総領事を一時帰国させること、外貨を融通し合う日韓通貨スワップ協定の協議中断、日韓次官級による経済協議延長等の対抗措置をとった。日本政府が、韓国からの軍事情報を有利に活用するために、昨年十一月に締結した日韓軍事情報保護協定(GSOMIA)についてはそのまま強行する。日米韓軍事同盟の強化に直結するこの協定の中断を対抗措置に入れない日本政府の狙いがいかに姑息なものか、こういう点にもあらわれている。
 若い世代を中心とした市民団体が建てた追悼碑、平和を祈念する碑の設置に対して大使を帰国させるという異例ともいえる強硬措置を日本政府がとること自体が常軌を逸している。
 日本政府は、少女像を平和を祈念するものどころか、「日本を批判するシンボル」としてしか見ていない。少女像は、ウィーン条約二二条二項(接受国は侵入または損壊に対し使節団の公館を保護するため、および公館の安寧の妨害または公館の威厳の役割を防止するため適当なすべての措置を執る)に違反すると繰り返し非難している通り、あの少女像を日本政府は、安寧の妨害、威厳をそぐものとしてとらえている。この条約二二条は暴力を伴った過激な行為に及ぶ場合を安寧の妨害というのが世界的には通常の解釈である。芸術的な平和の像を威厳をそぐものと日本政府が認めること自体、恥ずべきことだ。少女像をそれほど恐れ、影響のあるものとすることは、日本軍「慰安婦」制度が非道で重大な戦争犯罪・人権侵害であり、その解決に向けて法的補償も「心からのお詫び」も一切したくないという日本政府の本来の姿勢を暴露しているようなものだ。
 日本の団体の日本軍「慰安婦」問題解決全国行動が、一月八日にいち早く出した抗議声明のなかで、「日本のメディアが、なぜ韓国の市民がこれほど怒り、自費で平和の碑を建てるのか、その根本的背景や理由についてまったく言及していない」とメディアの日本政府に追随する偏った姿勢を指摘した。『朝日新聞』は、一貫して「慰安婦問題を象徴する少女像」と表現し、韓国民が平和を祈念した像であるとの報道をまったくしていない。右派のマスコミは、もっと露骨である。
 韓国政府は、釜山の少女像に対して「関連当事者が適切な知恵を絞ることを期待する」との見解を示しただけで具体的な動きはない。釜山市の少女像推進委員会の若いメンバーが、「日本はいまだに日本軍慰安婦問題など戦争犯罪に対して心から謝罪していない。加害国の日本が大声をあげている。慰安婦問題はわたしたちの歴史の癒えることのない傷だ。韓国政府も日本のこのような態度を強く批判し、国民の意志を尊ぶべきだ」と語っているように、韓国の調査では六〇パーセントが、「慰安婦」問題日韓「合意」の破棄・再協議を要求している
 平和の少女像は、「慰安婦」という歴史的な問題を継承するだけでなく生存者たちが正義の実現を追求してきたことを象徴している。現在ソウル市の九か所を含む韓国内四五か所、海外一一か所合計五六か所に建てられている。今後も、設置が世界的に広がっていく。日本政府が被害者の納得する公式謝罪、法的補償、真相究明、正しい政治教育等、再発を防止するためのあらゆる努力を徹底して行なわないかぎり「慰安婦」問題の解決への道は開かれはしない。
【倉田智恵子】

(『思想運動』995号 2017年2月1日号)