日韓軍事情報保護協定の締結を糾弾する!
東アジアの平和を脅かす日米軍事同盟

沖縄の基地強化と日米韓軍事同盟に反対する共同の闘いを


 米国で政権交代が近づき韓国では朴槿恵退陣要求が高まるこの時期に、日・米両政府は東アジアにおける軍事展開の足場を確実にするいくつものくさびを打ち込みつつある。一つは沖縄における基地・訓練場の強化と日米一体化の推進であり、二つ目は日韓軍事情報保護協定(GSOMIA)の締結である。
 九月十六日、福岡高裁那覇支部の多見谷寿郎裁判長は、辺野古埋め立てをめぐる「不作為違法確認訴訟」の判決で、国側の主張を全面的に認める国側勝訴の判決を下した。この不当判決にたいして沖縄県は二十三日に上告したが、それにたいして国は二十七日までに(日付は沖縄県の上告より早い二十一日付)、最高裁にたいして県の上告を退けるようもとめる異例の意見書を提出したのである。あからさまな政治的圧力であり、断じて許されない。

高江工事強行の狙い

 日・米両政府はキャロライン‐ケネディ駐日米大使の退任時期に合わせて、十二月二十日に首相官邸で、二十二日には那覇市で、九六年SACO合意にもとづく普天間飛行場返還プログラムの一環として「北部訓練場の過半の返還」を行なうための「返還」式典を開催する。だがこの「返還」は、新たな六つのヘリパッド建設を条件とするもので、実際にはオスプレイの使用するオスプレイパッドであり、辺野古新基地建設と同じ機能強化と恒久化を狙ったものだ。海兵隊は二〇一三年に太平洋地域の戦略や基地運用計画をまとめた「戦略展望二〇二五」で、「最大で約五一%の使用不可能な北部訓練場を日本政府に返還し、新たな訓練場の新設などで土地の最大限の活用が可能になる」とみずから明らかにしている(『沖縄タイムス』七月二十五日付)。
 東村高江を取り囲むように新設される六つのヘリパッドのうちN4といわれる二つはすでに完成して先行提供され、オスプレイが地域の住民に騒音・低周波音による甚大な健康被害と危険を撒き散らしている。そして参議院選で辺野古新基地とオスプレイに反対する伊波洋一氏が、当時現職の島尻アイ子沖縄担当相に一〇万票もの大差で圧勝した翌日の七月十一日、防衛省沖縄防衛局はヘリパッド建設を再開した。同二十二日には、五〇〇人もの機動隊を全国六都府県から動員して訓練場のゲート前に座り込む住民らの暴力的な排除に乗り出した。残る四つのヘリパッド建設を強引に同時に進めるためだ。現場では式典日程に合わせ、
 ずさんな工事が急ピッチで強行されている。そのなかで、運動の萎縮と分断を狙った不当拘束が相次ぎ、現在もリーダーを含め六人が勾留され、うち一人が刑特法違反、三人が起訴されている。
 反対する市民への「黙れ、こら、シナ人」、目取真俊さんへの「触るな、どこつかんどんじゃ、ボケ、土人が」という差別語による暴力もその過程でのものだ。やんばるの森の破壊も深刻だ。数万年かけて育った二万四〇〇〇本もの樹木が生物もろとも伐採され、直径七五メートルのヘリパッドが森を乾燥させ、そこに外部から異なる土質の土砂が投げ込まれている。
 高江ヘリパッド工事で数多くある問題の一つがG地区のヘリパッドと国頭村の宇嘉川河口を結ぶ全長約二キロの米軍歩行ルートだ。この工事による森林伐採だけでなく、道路の完成により、米軍の海からの上陸作戦が可能になる。伊江島では現在もMV22オスプレイの離発着訓練が行なわれ深刻な被害をもたらしているが、さらに空軍特殊作戦用のCV22オスプレイに対応する演習場拡張工事が始まっている。米軍は伊江島、高江、そして辺野古新基地を合わせたオスプレイの運用と空・海・陸の基地展開を狙っている。それは安倍政権にとっては自衛隊の共同訓練地の確保であり、宮古・石垣・与那国をはじめとする島じまの自衛隊強化の狙いと一体的なものだ。安保法制の整備による日米同盟の強化が、基地の整備でも急ピッチで強行されている。
 その野望を挫かせるもっとも有効なたたかいこそ、高江ヘリパッド建設の現地闘争だ。現地行動参加と連帯強化を意識的にすすめよう。

進む日韓軍事同盟

 一方安倍政権は、韓国政府との間で長い間懸案となっていた軍事情報保護協定(GSOMIA)を十一月十四日に仮署名し、二十三日に締結した。朴槿恵政権は、大統領が大疑獄事件で国民から退陣要求を突きつけられ、百数十万人単位の街頭抗議行動が次は二〇〇万人をめざし取り組まれている時期に、国民の過半数と野党三党が激しく反対するなかGSOMIA締結を強行した。
 韓国の反戦平和団体である平和統一研究所のパク‐キハク所長は、この協定は韓国にとって有害無益であり、「朝鮮を共通の敵とした情報交換を約束する国家間条約という意味で、韓・日軍事同盟のスタートを意味する」と厳しく批判している(「〔時論〕朝鮮半島の再侵略をよぶ“韓・日軍事協定”」『ハンギョレ新聞』HP掲載、十一月二十三日付)。日本の集団的自衛権行使においては、より正確な朝鮮のミサイル等にかんする軍事情報が韓国から日本にわたれば、「朝鮮のミサイルが米国に発射される」事態が起きた場合に自衛隊がミサイルを迎撃したりミサイル基地への先制攻撃を行なう可能性が高まる。また新たな安保法制のもと、米軍の武器保護の名目で朝鮮半島領域に自衛隊が進出でき、万一朝鮮半島で政治的混乱や南北間衝突が発生した場合にはこれを重要影響事態とみて軍事支援や失踪した米軍人の捜索および韓国に駐留する日本人や米国人避難などの名目で自衛隊を朝鮮半島に派遣できる――こうした自衛隊の想定する多様なプログラムに、日本はより正確な韓国からの軍事情報を有利に活用できると指摘する。また韓国国防部は否定しているが日・韓の物品役務相互協定(ACSA)締結になれば、日本にたいする韓国軍の従属は避けられないと警鐘を鳴らしている。
 より重要なことは、米国が日・韓軍事同盟を望んでいることであり、自衛隊の朝鮮半島侵攻は韓国の戦時作戦統制権をもつ米国に事実上の決定権があるという点だ。パク‐キハク平和統一研究所長は、日韓GSOMIA締結は、地上配備型の高高度ミサイル防衛システム(THAAD)の韓国配備と併せて「対朝鮮の戦争遂行のため、究極的には中国包囲網のため」の「韓・米・日同盟の信号弾」だと糾弾する。それは協定が、日米の共同開発する洋上の艦船配備型弾道ミサイル防衛迎撃ミサイルSM3ブロックⅡAやF35の韓国への情報移転に道をひらく知的財産権保護条項を含んでいることと関連する(パク‐キハク「︿協定反対主張-二編﹀韓日軍事情報保護協定、事実上統合MD編入を招くことも」、「平和と統一をひらく人びと」HP掲載、十一月十六日付)。

韓国平和運動貫く歴史のリアリズム

 韓国の平和運動は日本による植民地支配の歴史を踏まえ、日韓軍事情報保護協定締結を日本の再度の侵略の兆候と見ている。そして日・韓の軍事同盟を掌握するのは米国であり、日・米が韓国の同意なしに朝鮮を攻撃する事態もありうると見る。その見方は、韓国にあって、歴史を貫くリアリズムだ。日本の植民地支配から米軍政へ、四・三事件、南北分断、朝鮮戦争と連合軍の派遣・駐留、親米軍事独裁政権、光州事件と民主化抗争と、日本の植民地支配が原因で解放後は米国の関与と軍事統制のもとにおかれ、国が引き裂かれ、朝鮮戦争は休戦状態のまま、朝鮮有事を想定した韓米合同軍事演習が米軍の指揮下で例年行なわれ、米軍の共同使用が確実視される海軍基地建設が強行された。「慰安婦」問題では被害者抜きの日・韓「和解」がごり押しされ、米ミサイル防衛システムTHAAD配備が強行され、今回は大疑獄事件解明のさなかで日韓軍事情報保護協定締結が強行された。
 日韓軍事情報保護協定に関する報道は、韓国では賛否二つに割れている。日本の報道は、「共通の脅威への備え」(『毎日新聞』)、「米国に対する日韓の発言権の強化にもつながりそう」(『朝日』)、「日韓の対北連携効果が高まる」(『読売』)、日本の「ミサイル防衛(MD)能力を強化」「韓国にいる日本人の安全を守るための一歩」(『産経』)と、総じて“朝鮮の脅威への対処”という日本政府の主張する「国益」にたつ報道といえる。日本のメディアの多くは朝鮮
 半島危機は朝鮮の挑発が引き起こすものという認識にたち、米国への言及はあっても協定は対等な日・韓両国の問題ととらえている。そこには日本の植民地支配の歴史を踏まえてこんにち安保法制下の自衛隊の武力行使と米国との関係を追究する姿勢が欠落している。これまで日本の反戦平和運動のなかでも、在日朝鮮人や日韓連帯に取り組む人びとを除いて、日韓軍事情報保護協定反対の声は大きくなっていない。メディアの全体的な状況に運動が絡め取られてはならない。
 沖縄・琉球弧における自衛隊と米軍強化に抗するたたかいと、日・米・韓軍事同盟強化を止めるたたかいを共同でつよく推し進めねばならない。それは課題であると同時にたたかいに希望をもたらすものだ。敵のもっとも恐れる団結をかちとろう。 【日向よう子】

(『思想運動』992号 2016年12月1日号)