イギリス労働党党首選でコービン氏再選
激しさを増す階級闘争の現出

　九月二十四日、イギリス労働党党首選挙の結果が発表され、ジェレミー‐コービン党首が右派統一候補オーウェン‐スミス議員を大差で破り再選された。
　英国人民がＥＵ（欧州連合）離脱を決めた六月の国民投票直後、議会労働党（ＰＬＰ）は「投票結果は党首が残留推進に積極的に取り組まなかった結果である」としてコービン党首不信任動議を一七二対四〇で可決した。この議決を受け、昨年九月のコービン新党首就任からわずか一年で労働党党首選挙が実施された。
　得票は、コービン三一・三万票（六一・八％）、スミス一九・三万票（三八・二％）で、得票の内訳は、党員二八・五万票（コービン一六・八万票、五九・〇％）、登録サポーター一二・二万票（コービン八・五万票、六九・九％）、労組など関連団体サポーター一〇万票（コービン六万票、六〇・二％）であった。
　選出方法は、労働党議員、党員、登録サポーター（二五ポンド＝約三五〇〇円を支払った支持者）、労組など関連団体のサポーターによる一人一票制である。
　二〇一五年五月総選挙敗北でエド‐ミリバンド労働党党首は、党首選出方法を従来の議会労働党、党員、労組など関連団体がそれぞれ三分の一ずつの票を持つ仕組みから上記の党員・支持者を含めた一人一票制に変更し辞任した。
　昨年五月以降、労働党左派はコービン支持キャンペーンを展開し、労働党入党者が急増した。今回の党首選有資格者数は党員三五万人、登録サポーター一三万人、労組等サポーター一八万人であったが、党員数は昨年五月の一八万人から三五万人とほぼ倍増している。八月末の「ＹｏｕＧｏｖ」の支持調査では昨年五月以前からの有資格者はコービン三二％／スミス六八％、昨年五月～九月に有資格になった人はコービン七二％／スミス二八％であった。
　今回の党首選では最近入党した人と登録サポーターのまさに圧倒的多数がコービンを支持したのである。労働党内右派はコービン党首への抵抗を続けている。
　労働党全国執行委員会は今年一月十二日以降の入党者・登録サポーター一三万人を党首選無資格とした。
　この議論では、トム‐ワトソン副党首は「大量のトロツキストたちが労働党に潜入し、労働党を乗っ取ろうとしている」と述べた。そして、全国執行委員会に、党首選出方法をかつての議会労働党、党員、労組など関連組織がそれぞれ三分の一ずつ票を持つ制度への復帰を提案している。そしてコービン再選後に、党員選挙によらない地方議員任命の二名を全国執行委員に追加することに成功している。

労働党の社会主義復興の大会

　コービン党首は勝利演説で「保守党メイ政権は新しい政府ではない。キャメロン右派政権の焼き直しである。学校の隔離政策は間違っている。貧困レベルは許容できるものではない。富はもっと平等に公平に分かち合わなければならない。労働党は政権を奪取できる」と述べ、最低賃金時給一〇ポンドへの引き上げ、ＮＨＳ（国民保険サービス）再建、貧困層の教育の機会均等と無償化、法人税二〇％以上への引き上げ、鉄道などの再国有化、シリア空爆の中止などを訴えた。
　イギリス共産党はコービン勝利について「労働者のため、平和と安全のために労働党が闘ってほしいと願う人びとの勝利であり、攻撃を続けるメディアに対する勝利である」と述べた。そして、「コービン演説は社会主義者の提案である。提案は社会主義へ向けての全体計画ではない。しかし、根本的な変化へ向けて土台となる提案である。今年のリバプール労働党大会は労働党で社会主義が復興した大会として記憶されるだろう」と指摘している。
　一方、十月初めの保守党大会でメイ首相は「人びとは労働党を不愉快な政党として見ている。弱い者のため強い者に立ち向かえるのは保守党だけである」と述べ、「保守党は労働者のための党であり、ＮＨＳを守る党であり、公務員のための党である」と訴えた。しかし、勤労人民への攻撃はよりその矛先を鋭くしている。
　政府はＮＨＳで増資なし・医療労働者の増員なしのまま休日なしへの移行を強行しようとしている。最近の調査では医師の半分が希望をなくし国外移住を検討している。研修医たちは医師を含め幅広い支持のもと今年六回ストを決行し、政府に交渉要求を続けている。
　メイ政権はキャメロン政権で決めた二〇二〇年までに法人税を一七％にする政策の続行を決めている。九月発行の「新ガイド」では地方自治体に対し「年金基金投資で国内外の防衛産業への投資禁止は不適切」と指導し、数十億ポンドの武器貿易推進への介入を強めている。
　イギリス共産党は国民投票の翌日「左翼はいま、この国民投票の結果をＥＵ・ＩＭＦ・ＮＡＴＯ枢軸全体の敗北へと転化する取り組みを旧に倍して強めなければならない」と訴えた。
　昨年九月の労働党大会でコービン新党首が選出された際、保守党キャメロン首相は「労働党新党首は国の安全保障、経済そしてすべての家族にとって脅威」であると述べた。その一週間前『タイムズ』紙は軍幹部たちの談話「コービンが首相に選出されても認めない。反乱を起こす」を掲載した。今回の労働党大会でワトソン副党首は党大会での主論調や新自由主義を推進したニューレーバー政策への批判に対し「労働党はあまりに容易に大企業を略奪者として名指ししている。資本主義や労働党同僚は敵ではない」と反論している。
　支配階級は階級意識を堅持し労働者人民の動向に鋭敏である。それに労働党内右派も自らの存続強化のため連動している。
　ＥＵ離脱への闘いは支配階級との全面対決が不可避である。英国の共産主義者たちは、生活を、そして安全と命を守るためストライキ権を堅持し団体交渉を続ける労働組合の闘いの広がりを土台に闘いを進めていこうとしている。【沖江和博】

（『思想運動』989号　2016年10月15日号）