安倍政権が目論む「働き方改革」の正体
徹頭徹尾、独占資本のための改革だ!


 九月二十六日に始まった臨時国会の冒頭、安倍首相は所信表明演説で、一億総活躍の「未来」実現の鍵は「働き方改革」であり、労働制度の改革プラン、「働き方改革実行計画」を今年度内にまとめる、とぶちあげた。
 「働き方改革」は、六月に閣議決定された「ニッポン一億総活躍プラン」において成長と分配の好循環を実現するための最大のチャレンジと位置づけられた。八月に発足した第三次安倍改造内閣では働き方改革担当相が新設された。
 さらに九月二十七日には、安倍首相肝いりの「働き方改革実現会議」がスタートした。
 実現会議について『日本経済新聞』は「同一労働同一賃金の実現や長時間労働の是正など、雇われている側が望む労働条件の改善に軸足を置いたのが特徴」と報じ「当初めざした生産性の向上を置き去りにしたようにみえる」と苦言を呈してみせた。安倍政権が「労働者寄り」で女性や非正規労働者の味方だ、というイメージをブルジョワ・ジャーナリズムはふりまいている。
 だが、果たして本当にそうか?

経済同友会、日商の労働政策提言

 なぜいま「働き方改革」なのか、再確認しよう。
 「ニッポン一億総活躍プラン」は、「経済成長の隘路である少子高齢化への対応」と正直に述べている。労働力人口の継続的な減少に対応するため、企業はこれまでの男性正規職労働者を中心とする採用戦略から多様な人材(女性、高齢者、外国人など)に転換する必要に迫られている。長時間労働の是正や正規・非正規の格差縮小に取り組まざるを得ない所以だ。もっとも、ダイバーシティー(多様性)マネジメントは生産性向上、利潤に結びつく。企業にとって、損な取り引きではないのだ。
 経済同友会は、八月の提言『新産業革命による労働市場のパラダイムシフトへの対応』において、将来の労働市場を〈「正規」「非正規」の二元論ではなく、多様な雇用形態が混在し、企業は自社における働き方を提示し、個人は主体的に選択する〉ものとして描いたが、そこへ至るための当面の課題として、市場価値ベースの人事制度の構築(筆者注:同一労働同一賃金と読め)、長時間労働の是正、多様な正社員制度の積極的な導入・活用、働く場所や時間のフレキシビリティの確保(テレワークの推進、一律的な管理からの脱却など)等を掲げている。「働き方改革」そのものだ。
 日本商工会議所(日商)はもっと単刀直入だ。四月の『雇用・労働政策に関する意見』で「長く産業界の足かせとなっていた超円高や高い法人税等が解消の方向に向かい」「事業拡大をするうえで人手不足がネックになっている」「労働力の量(労働者数増加、労働参加率上昇)、質(労働生産性向上)の両面から、労働市場の改革に取り組まなければならない」としている。安倍政権が推し進めようとしているのは、徹頭徹尾、独占資本のための「働き方改革」にほかならない。

政策決定から労働組合を排除

 「安倍政権は労働者寄りだ」というイデオロギー操作が功を奏しているとするならば、それは政権の巧みな「争点隠し」戦略やマスコミの情報操作とともに、一九八〇年代から続く労働運動の弱体化にその物質的基礎があるだろう。安倍政権への「期待」は労働者人民の労働運動への失望、そして無関心の裏返しだ。そして安倍政権は一貫して、政策決定においても、春闘においてすらも、労働運動、労働組合の影響力や存在意義を消し去ろうとしてきた。
 厚労省が七月に「働き方に関する政策決定プロセス有識者会議」を設置し労働政策審議会(労政審)のあり方の見直しを始めたことも、その延長線上にある。非正規など多様な立場の声が反映されていない、時間がかかりすぎる等を口実に、三者(公労使)構成原則による労政審の仕組みそのものの変質・破壊が狙われている。われわれは三者構成に過剰な期待を持つものではないが、これは資本と労働という対立する当事者同士の集団的自治に法的拘束力を持たせる仕組みとして歴史的に獲得されてきた原則だ。これまでも批判してきたとおり、労働者代表抜きの規制改革会議や産業競争力会議などで労働分野を含む政策を決定し閣議決定した後、その枠内で労政審に審議をさせるという安倍政権の手法こそ不当なのだ。労働政策の決定プロセスから労働組合、労働者を排除しようとする安倍政権の策動を断じて許してはならない。

ストライキを背景にした闘いを!

 直近の法人企業統計によると二〇一五年度の労働分配率は六六・一%でリーマンショック前の二〇〇七年度(六五・八%)以来の低水準を記録した。一方、企業の内部留保は三七七兆円と四年連続で過去最高を更新。独占資本とその政治的代弁者たちは笑いが止まらないに違いない。労働組合が、経済整合性論や支払能力論の軛(くびき)から脱して、ストライキを背景として賃上げを闘わないかぎり、独占の賃金抑制を打ち破ることはできず、格差是正も単なる低位平準化にとどまるだろう。長時間労働の是正(労基法三六条の特別条項廃止や労働時間の上限規制、勤務間インターバル制度の法制化)、性別・年齢・雇用形態による差別・格差の撤廃、企業横断的な同一労働同一賃金実現等の課題も、「働き方改革」などではなく、労働者、労働組合自身の組織と運動によって勝ち取るべきものだ。
 われわれは、こうした運動を職場、地域で強めつつ、国会で継続審議中の労働基準法改悪案(高度プロフェッショナル制度による労働時間規制の撤廃、裁量労働制の拡大)や外国人技能実習法・入管法、さらに厚労省の有識者検討会が検討中の解雇の金銭解決制度等を葬り去っていこう。【吉良 寛・自治体労働者】

(『思想運動』988号 2016年10月1日号)