〈沖縄・高江ルポ〉
高江を守る「N1裏テント」に行こう 

 八月七日から九日まで、市民グループ「辺野古アクションむさしの」の一員として、沖縄の高江へ行ってきた。メンバーの一人、武蔵野市議の内山智子氏の呼びかけで、大学生をはじめ幅広い世代の七人が集まった。TVで見た七月二十二日の強制撤去、機動隊がふるう暴力は衝撃的だった。
 ヘリパッド基地に反対する住民の会が監視のために立て守り続けてきた「N1テント」は、昨年わたしたちも訪れたが、すでに跡形もなく撤去され、工事車両が続々と搬入されていた。さらに権力側はもう一つの「N1裏テント」をも撤去しようとしている。
 七日夕刻に現地に着くと、N1裏テントを守るため県内のみならず全国から続々と市民が集まっていた。現場は半ば山林の中にあり、これだけの人びとと車が集まっていることに驚いた。二〇〇人近く入れる大きなテントが設営されているが、これはわずか一日で増設されたものだという。仮設トイレまである。さらにはコーヒーのサービスも。
 薄暗い照明の下、辺野古から駆けつけている山城博治氏の司会でミニ・コンサートが始まった。前日には安倍総理の夫人・昭恵氏が来訪するという珍事もあったが、その波乱を払拭するような山城氏の軽妙かつ熱いトーク、懐かしの反戦フォークや京都から来たパンクスの叫び、沖縄民謡などを聴き、結束を固める。辺野古の座りこみと比べると若い層の参加が目立つが、これまでの地道な宣伝活動の成果だろう。映像とインターネットを活用して権力を監視し、問題を周知することが有効だ。辺野古に比べると高江についての報道はまだまだ少ない。いざとなれば車を並べて機動隊を阻止するしかないという状況ではあるが、山城氏をはじめとしたテントの運営メンバーに悲壮感はない。

違法な弾圧に抗して

 集会後、車中泊で明日に備える。蚊は意外と少ないが、暑さと、足を伸ばせないのがつらく、一睡もできない。外は断続的に激しい雨が降る。被災地などで車中泊している人びとのつらさが思われる。ふと空を見上げると雲間からまばゆい星が見え、一同は車外に出て高江の夜を体感した。
 翌朝、まずテントでの集会に参加。各地からやってきた参加者のあいさつからは、近年の安保法反対の運動などから、こういう場所へやってくる個人が出てきていることが感じられる。国会議員や弁護士のあいさつもあり、心強い。辺野古アクションむさしのを代表して内山市議もあいさつ。沖縄の問題ではなく全国のわたしたち自身の問題として取り組み、帰京後には報告会もすることを表明。最後に住民の会の女性が「わたしたちは普通の暮らしを守りたいだけなんです。そのためにここに集まってくださった皆さんの暮らしを犠牲にしてしまって……」と涙ながらに訴えたのには、こちらこそ申し訳ない気持ちになったが、村落のなかで国策に反対する住民の苦境も想像した。
 その後、N1に作られた工事用ゲートの見学と、その向かいに作られた住民側の新たな監視テントの激励に向かうが、機動隊が車両を規制しているとかで、車がノロノロとしか進まない。しかたなく車を降りて徒歩で向かう。すると機動隊員がわたしたち一人ずつにくっついてきて、並んで歩きながら「反対車線に渡るな、歩道を示す白線から出るな」と言ってくる。危ないからなどと言うが、砂利運搬のトラックをじゃまさせないためだ。山道での異様な光景だが、国会前や官邸前の集会でいつも行なわれている通行規制と同じであり、法的な根拠などない。機動隊員は大半が高校球児のように若い。後方からカメラで撮影する係もいる。道中、激しく抗議する反対派の市民も見かけたが、機動隊員も命令でここに来ているにすぎないことを考えると、真の責任者はどこにいるのか、やり場のない虚しさをおぼえる。

基地・軍隊のなかの沖縄

 作られてしまったN1ゲートを確認し、反対派住民のテントにカンパを届けて、帰途につく。ふと前を見ると米軍のトラックが足止めされており、白人の米兵が幌の隙間から様子をうかがっている。車両のタイヤが巨大だ。前方に回り込むと、なぜか自動車が駐車してあり車道を塞いでいる。すると、十数人の機動隊が車に群がり、タイヤの下に器具を挟みこんで、手で押して反対車線の奥に移動させる。その様を撮影しようとカメラマンが立ちふさがるが、たちまち機動隊が群がって押しのけてしまう。ここは米軍の訓練場の近隣であり、住民はこのような軍事化された日常のなかで暮らしている。そこで米軍に懸命に仕える日本の警察。怒りよりも理不尽さに当惑してしまう。
 この日は名護に行き、宿に一泊。翌朝未明に出発して、九日も再び高江に。さいわいテントに異変はなかった。現われた亀に子どもが興奮したり、どこからか飼い犬が迷い込んだりと、ほほえましい一幕も。反対派は村民に迷惑をかけないよう細心の注意を払っているが、本来は静かな生活の場であり、今の事態は異常だ。国は一刻も早く建設強行をやめよ。 【野田光太郎】

(『思想運動』986号 2016年9月1日号)