熊本地震を政治的に利用する安倍政権
改憲と自衛隊強化策動に反対しよう!


 4月14日午後9時26分のマグニチュード6.5震度7の前震、16日午前1時25分のマグニチュード7.3震度7の本震からもうすぐ1か月が経つ。5月10日現在、震度4以上の地震が104回、震度1以上は1351回を数える。熊本(大分)地震はまだ一向におさまる気配がない。地震学者は、今後さらに本震レベルの地震が続く可能性を否定していない。

大地震は日本のどこでも起こる

 5月9日現在の熊本、大分両県における被害状況は死者49人、関連死疑い18人、安否不明1人、避難者1万1993人、住宅の全壊・半壊・一部破損7万1014棟となっている。一時20万人を超えた避難者は「激減」したが、それは避難所の住環境の悪さから域外への避難、また危険を承知で損壊家屋へ戻る住民が多いためともいわれている。
 屋外避難所のテント生活は、これから梅雨の季節に入り、雨と土砂災害などの不安のなかで、さらに過酷なものとなっていくことが危惧される。
 大地震は日本全国どこにでも起こる。今回の地震で熊本の多くの地場産業、進出企業が被害を受けた。地震の前、熊本県のホームページには、熊本は「東北と違って」地震の危険はほとんどないから、どうぞたくさんの企業が進出してください、と企業誘致のアピールが掲載されていた。震災後、県は自ら恥じたのか過ちを認めたのか、このアピールを削除した。日本は地震大国といわれているのに自分のところだけは安全と錯誤する、その錯誤の上に、日本全国50基以上の危険な原子力発電所の立地がある。
 さて、復興は九州新幹線の全線開通、九州高速道の全復旧と続いている。今後一般道路、水道、ガス、電気とインフラそして企業の復旧復興が続くだろう。これらに政府のなにがしかの補正予算がつぎ込まれるだろうが、その復興予算に群がるのはまた建設土木大手資本になるにちがいない。熊本県は、家屋が全壊した人へ20万円支給など集まった義援金の配布をきめた。
 ないよりましとはいえ、被害住民の未来への不安を払拭させるだけの政府の復興策は、必ず後回しであり不十分なのである。政府は、東北でも熊本、大分でも被害住民の個人的復興には無関心で、相変わらず自助努力を求めるにちがいない。安倍自公政権はそのような政権であることを住民はよく自覚する必要がある。

震災に便乗し反動政策を推進

 一方、大地震対策を国家防衛と見立てて、憲法改悪上の「緊急事態条項」の必要性を我田引水的に強調する自民党や菅官房長官など政府関係者の便乗的・政略的発言が相次いでいる。全国から数千人の自衛隊員を交替で出動させ、その輸送に多数の自衛隊ヘリを動員した。初期の災害派遣医療チーム(DMAT)の輸送にも自衛隊ヘリが多数動員されている。さらに米軍に要請して必要もない危険なオスプレイまで人員と物資輸送など「救援活動」に投入して訓練と宣撫工作を行なった。4月21日、海上自衛隊で最大艦艇となるヘリコプター搭載型護衛艦「いづも」(1万9500トン)が、熊本地震の被災地支援と称して福岡市の博多港に入港した。「いづも」は事実上のヘリ空母であり「攻撃型」である。北海道の陸上自衛隊員約160人と車両約40台を九州に輸送するのが目的というが、陸自幹部は「(陸自、海自の)統合運用で博多港を使うのは初めて。有事に博多港を使うことを想定した訓練の要素もある」と臆面もなく話す。緊急事態を先取りし、憲法に違反する日本全国を戦場に見立てる訓練を震災の被災地支援を口実に自衛隊が勝手に行なっているのか、政府が後押ししているのか、どちらにしても決して許されるものではない。被災地が早急にと求め続けた熊本地震への激甚災害指定の閣議決定は4月25日、特定非常災害指定の閣議決定は4月28日と、その遅さが批判されている。一方で震災を口実とした「緊急事態」の軍事訓練の初動は俊敏であった。
 東北大震災の復興も、熊本震災の復興も、被災住民の生活再建を最優先に迅速に行なわれるべきである。政府が、復興を大企業優先で行ない、また軍事優先で行なうなら、われわれはこれを声高く指弾すべきだ。【岡本茂樹・福岡】

(『思想運動』980号 2016年5月15日号)