高浜原発を停止させた大津地裁の画期的勝利判決
「新規制基準は公共の安寧の基礎とならない」
大津地裁決定の意義と民間規制委運動


 大津地方裁判所(山本善彦裁判長)は滋賀県住民の申し立てを認め、高浜原発3・4号機運転差し止め仮処分を決定した(3月9日)。関西電力は、決定を受け、11日、運転中の高浜3号機を停止(4号機は発電開始時トラブルですでに停止)したが、14日、「到底承服できない」と不服申し立て、18日、社長が「上級審で逆転勝訴した場合、申し立てた住民への損害賠償請求もありうる」と恫喝発言(住民側弁護団は社長へ抗議文)と、えげつなさをエスカレートさせている。関西電力は、40年前の老朽原発高浜1・2号機の運転延長を申請しているが、今年7月7日の期限までにすべての審査が終了しなければ廃炉となる。原子力規制委員会は関電に訴えられないよう大急ぎで審査している。

関西電力と原子力規制委員会の姿勢を批判

 大津地裁は「(概略)福島第1の事故で原発の危険性を実際に体験した現段階においては、債務者が原発の設計や運転のための規制がどう強化され、それにどう応えたかの説明が尽くされない限りは、原発の運転によって債権者らの人格権が侵害されるおそれがある」との判断を示し、過酷事故対策について「(概略)二度と同様の事故発生を防ぐとの見地から安全確保対策を講ずるには、原因究明を徹底的に行うことが不可欠である。この点に意を払わないのであれば、そもそも新規制基準策定に向かう原子力規制委員会の姿勢に非常に不安を覚える」とし、新規制基準と審査について、公共の安寧の基礎となるとは考えにくいと批判した。新規制基準は東電福島第一事故の再発防止という見地に立っていないので、これに適合したからといって原発が安全だとは言えず、住民の権利侵害のおそれが高いので運転してはならないと断じたことは画期的だ(画期的な点はいくつもあるが、本稿ではこの点にしぼる)。
 山本裁判長は、2014年11月に同じ高浜3・4号機運転差し止め仮処分申請を却下したが、その理由は、「規制委がいたずらに早急に、新規制基準に適合すると判断して再稼働を容認するとは到底考えがたい」、すなわち、時間がかかるはずと考えたからで、「(概略)田中俊一委員長は、新規制基準への適合は審査したが安全だとは言わないなどとも発言しており、発言内容は、新規制基準の合理性に疑問を呈するもの」としていて、趣旨は今回の決定と基本的に同じである。
 ところが、却下後すぐに規制委が「いたずらに早急に」再稼働を許可したので(2015年2月)、差し止め仮処分が再申請され、今回の決定となった。

規制委員会に代わり民間規制委員会が規制勧告

 新規制基準は、これに適合しても安全とは言えないどころか、重大な誤りがある。たとえば、①「事故になったら逃し弁を開放して減圧し、消防車で給水せよ」としているが、そうすると原子炉の水は沸騰して原子炉は空焚きとなり、消防車の吐出圧では給水できない、②「原子炉の冷却には海水を用いる」としているが、海水は燃料被覆管を酸化して灰化し、また、蒸発して食塩を残し、食塩は冷却を阻害、加熱された溶融塩はウラン燃料を溶かすので、放射能漏れを防ぐ五重の壁の第一・第二の壁を崩す、などである。
 このように、新規制基準はデタラメなので、規制委に代わるものとして、原子力民間規制委員会が、現在、川内原発・伊方原発現地と東京の三か所に設立され、九州電力と四国電力会社に対し規制勧告を行なっている(顧問:槌田敦)。大津地裁決定が疎明不十分と指摘した事故の原因究明と再発防止対策について、わたしたち民間規制委では、スリーマイル島事故、美浜事故、福島事故等の原因を究明し、これらの過酷事故の再発防止のために最低必要な対策(18項目)の実施を直接電力会社に勧告し、採算を理由に実施しないなら、事故再発の危険性を知りつつ欠陥を放置し対策を怠ることは未必の故意の犯罪であると追及し、欠陥原発の運転禁止を求める運動を展開している。
 因みに、放射線防護に関する勧告を行なう国際放射線防護委員会(ICRP)も民間の組織である。民間で規制勧告を行なうので命令権はないが、科学的根拠に基づく勧告と未必の故意の犯罪を電力会社に突き付けて経営判断をさせる新しい取り組みである。大津地裁決定はわたしたちに勇気を与えてくれた。今回の決定を引き出した井戸謙一弁護団長(北陸電力志賀原発二号機の運転差し止め判決を出した元金沢地裁裁判長)をはじめ申立人団の人々に敬意を表したい。そして、向かう方向が同じなので、今後、関西電力に対する取り組み等で協力関係を築いてゆきたい。
 なお、民間規制委・いかたと同・東京は、1月に四国電力に規制勧告を手交し、その回答と質疑の公開ヒアリングを4月25日に松山市で行なう設定をしたが、目下、四国電力は出席を拒んでいる。もし四国電力が出席しなければ、模擬公開ヒアリング(四電回答者の代役をこちらで立てて、マスコミと一般市民に向けに、質疑形式でわかりやすく解説)を行なう予定である。
 【中村泰子・「原子力民間規制委員会・東京」事務局】

(『思想運動』977号 2016年4月1日号)