米韓日は朝鮮から手を引け!
戦争で平和は実現できない 
                     
 3月7日から、米韓合同軍事演習「キー・リゾルブ」と「フォール・イーグル16」が米軍による朝鮮核先制攻撃をも想定した、史上最大規模で実施されている(韓国全土で4月30日まで)。1976年から始まったこの軍事演習は、演習とは言いながらも、1953年の朝鮮戦争の停戦協定=「撃ち方やめ」という戦争状況下で行なわれてきた。まさにこれは、米韓による、朝鮮民主主義人民共和国(以下、朝鮮)を敵国と明示した、戦争行為そのものである。朝鮮政府は、一貫して、この停戦協定を平和協定にすることを望んでいる。
 1956年以降、米国が韓国に持ち込んだ核兵器、横須賀をはじめ在日米軍基地に配備した核ミサイルの照準は、常時、朝鮮にむけられてきた。そして日本国は、日米安保条約体制の下、圧倒的な米国の核の傘の下にある。
 そうした恒常的な核による脅威に加え、とりわけ今年の演習は、平壌占領と体制転覆を目標とした「5015作戦」を実戦的に試行している。このなかには、朝鮮最高指導部の抹殺=「斬首作戦」も含まれている。この訓練には、米軍2万7000人、韓国軍30万人が参加。米軍の陸・海・空・海兵隊の、すべての特殊作戦部隊が参加し、米軍の核装備がすべて導入されるという。そしてもちろん、この演習には沖縄をはじめとする日本全土の在日米軍が組み込まれているし、当然、日本・自衛隊との連携も行なわれている。
 さらに日本国は、今年1月から2月にかけて行なわれた合同軍事演習「コブラゴールド」など、日米あるいは複数国による軍事演習に参加し、自衛隊の軍事作戦の強化を図るとともに、日米軍事一体化の精度を上げてきた。今月末から適用されようとしている戦争法制・集団的自衛権の行使が、まさに現実味を帯びてきている。安倍政権は、一触即発とも言えるこうした朝鮮半島情勢を奇貨として、明文改憲の策動を一気に押し進めようとしている。
 しかし、日本人民の大部分は今回の米韓軍事演習に対する日本国の責任を問うことがない。そしてそれゆえにこの問題への関心、危機感がきわめて希薄である。それは各種メディアによる「朝鮮先悪者論」流布に影響され、反戦・反改憲闘争に取り組む運動の内部においても例外とは言えない。本紙前号に掲載した日韓民衆連帯全国ネットワークの駐日米大使館への申し入れ書に見られるような取り組みを除いて、戦争法・改憲反対をめぐる情勢認識のなかに、現在の朝鮮半島で起きている事態の正確な認識は形成されていない。
 一方、多くの在日朝鮮人の危機意識は、強く鋭敏である。2月22日には、在日韓国民主統一連合、在日韓国民主女性会、在日韓国青年同盟、在日韓国人学生協議会が、3月7日には在日本朝鮮青年同盟が、9日には在日本朝鮮留学生同盟が、駐日米大使館前で米韓合同軍事演習の中止を要求する行動を起こした。
 「北朝鮮の脅威」を口実にした日本政府による在日朝鮮人への弾圧は、「核・ミサイル・拉致問題」を口実に、さらに2010年以降の朝鮮高校無償化除外に加えて、このたびの朝鮮に対する「独自制裁」の強化にもみられるように苛酷さをきわめるばかりである。それは戦前から、そして1945年の日本敗戦以降も執拗につづけられてきた、日本政府・米・GHQ権力による在日朝鮮人敵視政策(その自主独立、社会主義志向を治安・弾圧の対象にした政策)の延長線上にある。そのことへの問題意識が、どれだけ日本人民の運動において自覚・検証されてきただろうか。
 こんにちの状況は、まさに朝鮮戦争前夜、在日朝鮮人弾圧が吹き荒れた時代を彷彿させる厳しいものである。1950年6月に勃発した朝鮮戦争に、日本は民間の船舶に従事する労働者2000余人をはじめとして、人的にも物的にも米韓側に立って参戦し、その最中に単独講和(サンフランシスコ条約)を強行し、同時に日米安保条約を結んだ。そして朝鮮戦争を契機に、日本はその特需によって敗戦後の経済を復活させた。さらに朝鮮戦争勃発から2か月後の50年8月には、日本駐留米軍が朝鮮に派兵される空白を埋めるためとして、憲法九条に違反する自衛隊の前身である警察予備隊をつくるなど、朝鮮戦争と密接不可分に関わりながら、日本の再軍備・軍事大国化は押し進められてきた。在日朝鮮人、アジア人民のこんにちの日本に対する危機意識は、こうした日本戦後史の展開をも踏まえた認識である。
 敗戦から70年、平和憲法と戦後民主主義の解体を公言する安倍政権との闘いは、在日朝鮮人、さらにアジア人民と、われわれ日本人民とのアジア・太平洋戦争をめぐる認識の乖離を埋めていく課題でもある。このことは、繰り返して言うが「70年間に及ぶ平和国家としての歩み」などという「安倍談話」の欺瞞を暴き、戦争法反対・改憲阻止の闘いの思想的核心とならなければならない。
 朝鮮の報道によると15日、弾道ミサイルの大気圏再突入の模擬実験に成功し、金正恩第一書記が「核弾頭爆発実験と、核弾頭装着可能な弾道ミサイルの発射実験を早い時期に断行する」と語ったと伝えられている。これに対し朴槿惠韓国大統領は「北朝鮮が再び挑発すれば、政府と軍が即刻応酬する」と対決姿勢を強めている。国連安全保障理事会は過去最も厳しい「制裁」決議を朝鮮に適用しているが、朝鮮は自主独立のために核とミサイル開発を決して手放さない姿勢を貫いている。武力では平和はつくれない。
 今回の事態は、武力によらない平和を求める日本人民に、その闘いの意味と現実を厳しく問うている。 【米丸かさね】

(『思想運動』976号 2016年3月15日号)