日米韓の朝鮮敵視政策の転換が唯一の解決策
朝鮮の人工衛星発射とマスコミ報道
2月7日、朝鮮民主主義人民共和国(以下、朝鮮)の国家宇宙開発局は、《国家宇宙開発5か年計画の2016年計画に従って新たに研究、開発した地球観測衛星「光明星4」号を軌道に進入させることに完全に成功した》と発表した。この人工衛星の発射は、あらかじめ朝鮮側から国際海事機関ならびに国際民間航空機関に通告していたものである。
「ミサイル」キャンペーンの虚構
この朝鮮の人工衛星発射前の段階から日本政府とマスメディアは、2012年12月12日の「光明星3」号2号機の発射のときと同様の、長たらしい舌を噛むような「北朝鮮の『人工衛星』と称する事実上の長距離弾道ミサイル」という一大キャンペーンをはって朝鮮バッシングに走っている。この大気圏に再突入した情報もなく、「着弾点」も明らかにしない(できない)飛翔体をもって「弾道ミサイル」と強弁する政府やマスメディアの狂騒はとどまるところを知らない。2月17日に種子島宇宙センターから発射されるという日本の基幹ロケットH2A30号機(軍事企業の三菱重工とJAXAが共同開発)を日本のマスメディアは何と形容するのだろう。宇宙の平和利用は国連安保理決議には縛られない万国に認められた権利なのである。
「制裁」叫ぶ日米韓と対話を強調する中国
日米韓政府はこれを国連安保理事会に持ち込み対朝鮮「追加制裁」決議を引き出そうとしており、10日には「独自制裁」と称して、「ヒト、モノ、カネ」の往来・流通の制限・禁止(日本)、開城工業団地の操業中断(韓国)などの措置を発表した。これに対して朝鮮政府は、11日に開城工団を「軍事統制区域」に指定し、12日に日朝ストックホルム合意にもとづく特別調査委員会の解体を宣言した。
いっぽう、アメリカ政府のケリー国務長官は1月27日の訪中につづき、2月12日のドイツ「ミュンヘン安全保障会議」の場でも王毅・中国外交部長にたいして「北朝鮮追加制裁」への協調を指嗾したが、王毅外交部長の態度は一貫している。それは、《(1)朝鮮半島の北・南に関わらず、また自国による製造あるいは他国からの導入配備に関わらず、いかなる状況であっても半島に核があってはならない。(2)武力によって問題を解決してはならない。そうなれば半島に戦乱を引き起こすことになり、中国はこれを認めない。(3)中国の正当な国家安全利益は必ず効果的に保護・保障されなければならない》《半島核問題の焦点は米朝の両国にある。われわれは米朝両国が交渉の席に着くよううながし、それぞれの合理的な関心事を解決し、最終的に各国が望む目標を達成することを望んでいる》(人民網日本語版2月14日付「王毅外交部長、朝鮮の核問題について3つのボトムラインを発表」より)。
このように中国の朝鮮半島政策は、朝米が朝鮮半島の核問題を話し合いで解決すべきだという点で一貫している。
日米韓がすすめる対朝鮮「制裁」強化では朝鮮半島の核問題はなにひとつ解決しないことは、20年以上にわたって合意と破綻を繰り返してきた朝米交渉や六者会談の経過が示している。「北朝鮮の核問題」ではなく、朝鮮戦争の停戦以降、朝鮮が一貫して主張している朝鮮半島の核問題解決のために、核保有の当事者である朝米当局が話し合いの場につき、停戦協定を平和協定に替える交渉を早急に開始すべきである。
マスコミはどのように報じたか
今回の朝鮮の人工衛星発射に対して、日本のマスメディアが横ならびで対朝鮮「制裁」を声高に主張したのに対し、JアラートやPAC3の配備で準戦時的雰囲気が醸し出された沖縄で発行する『琉球新報』二月八日付社説は次のように主張した。いわく《米国は友好国である中国に圧力を強めるよう求め続けながら、北朝鮮との対話を閉ざし、暴走の一因になっている。米国は直接対話の方策を探らねばならない。制裁強化一辺倒に映る日本も米国に対話を促すべきではないか。/今回の発射を機に、北朝鮮の核を抑止する上でほとんど機能しない在沖米軍基地の必要性が、ことさら強調されることがあってはならない》。また『朝日新聞』2月8日付も美根慶樹・元日朝国交正常化交渉政府代表に取材して、《本質に立ち返り、北朝鮮の行動の根本にある問題にメスを入れる必要がある。具体的には1953年以来、休戦状態にある朝鮮戦争の終結について米国に北朝鮮との交渉を促すことだ》との記事を掲載した。これらの記事は、相対的にまともな反応であった。とりわけ『琉球新報』が準戦時的雰囲気のなかで、冷静さを保ちこのような社説を出したことは評価されるべきだ。
反面、《政府は3月に安全保障関連法を施行する。集団的自衛権を限定的に使えるようになるほか、米軍などへのより本格的な後方支援も可能になる。朝鮮半島有事に際し、この法律に基づいて何をどこまでやるのか。検討を急いでほしい》(『日本経済新聞』2月8日付社説)のような安倍政権への幇間記事もあった。われわれは、このような違憲・無効の戦争法と朝鮮半島「有事」を連動させる危険極まる主張を断固排撃し、本紙前号につづき再度主張する。《問題の核心は「朝米平和協定」の締結だ。2016年を「朝米平和協定」締結の国際的機運を高める年とすべく闘っていこう》と。
【土松克典】
(『思想運動』974号 2016年2月15日号)
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