「慰安婦」問題日韓合意は無効
日米韓の戦争政策と対決しよう!
昨年12月28日、日本政府は、「慰安婦」問題の日韓「合意」によって、「日本政府が軍の関与と政府の責任を認め、韓国政府があらたに設立する財団に10億円拠出する」と表明した。「国交50年、歴史的決断」「日韓、苦心の着地点」「日韓関係、新たな時代」とマスコミは書きたて、朝日新聞社が1月16日、17日に行なった全国世論調査では、この「最終的かつ不可逆的」な「合意」を評価する回答が63%にも上った。安倍内閣の支持率は、前月比4ポイント上がり、4か月連続上昇で45.2%になった。
日米韓軍事同盟の強化にとって目の上のたんこぶであった「慰安婦」問題を「決着」させたことによって、安倍政権は集団的自衛権行使・戦争する国体制へ大きく歩を進めた。安倍首相にとって「合意」にある「軍の関与、責任を痛感」「心からのお詫び反省の気持ち」のような口先だけの表明など、これから晴れて堂々と憲法を変え「日本の誇り」を取り戻し軍事体制構築にむかうことに比べればなんでもない。
戦後70年安倍談話と同様、見せかけ、うわべだけのただの言葉の羅列にすぎず、譲歩したとの見方をする人たちもいるが、決して「批判を鑑みた」ものでもないし「姿勢を改めた」ものでもない。ましてや「大きな意味がある」ものでもない。
法的責任を回避する日本政府
日本政府は、一貫して戦争責任をあいまいにし、戦後補償を二国間条約・協定で解決済みとして被害者の国家賠償請求から逃げまわってきた。「慰安婦」問題にかんして、1995年、国民基金=女性のためのアジア平和国民基金を発足させ、民間から「償い金」を集め、本来は当然にも日本政府がとるべき法的責任を日本「国民」全体へと責任転嫁した。この国民基金は、被害当事者や、支援団体と協議することなく始められ、日本軍「慰安婦」制度が、天皇を頂点とした国家が犯した戦争犯罪であるという事実をぼかすものとなった。そしてそれは、「慰安婦」被害者、および支援する団体・個人の間に「償い金」の授受などをめぐって分裂、動揺を起こし傷を残した。今回の「合意」は、国民基金と同じように国家の責任逃れを「国民」に認めさせようとしている。
朴槿恵政権および親日勢力である韓国の独占資本は、韓国国内での反日感情を何とか「正常化」させ、経済発展・貿易発展に結びつけたいとやっきになっている。韓国史教科書を国定化して、植民地正当化=近代化イデオロギーを植え付け、反対派を弾圧しながら強行している。
日本では3分の2の回答が「合意」を評価したが、韓国では支配層の執拗な攻撃にもめげず、3分の2の66%が「合意」に反対している。50年前の日韓条約の時と同じように日本政府の態度は、植民地支配に対する根本的反省がみられず、むしろ植民地支配を清算・正当化していることに韓国人民は怒り心頭に発している。
国際社会と被害者たちの闘い
日本政府は、「合意」にある「新たに設立する財団は、事業であり賠償ではない」ことを強調し、10億円の拠出と引き換えにソウルの日本大使館前の少女像(平和の碑)撤去を繰り返し迫っている。この像は、韓国挺身隊問題対策協議会(以下、挺対協)が設置した「慰安婦」制度被害者たちのたたかいの象徴である。挺対協は発足から26年、被害者を支えながら「被害者たちへの謝罪と賠償」のために韓国国内ばかりでなく世界各国へ渡り、地道に活動してきた。この行動は、国連や、欧米をはじめとした各国議会に受け入れられ、数々の勧告や決議の採択を導きだした。挺対協は、これから387団体に及ぶ賛同団体とともに「韓日日本軍慰安婦合意の無効化と正義のための全国行動」を発足させ、日本政府の10億円を拒否して募金運動を始める。
日本軍「慰安婦」制度は、非人道的な性奴隷制であり、国際法違反、政府に法的責任ありという認識が国際社会では定着している。しかしながら、日本政府はこれらの動きに逆行して一貫して責任をとらない。このような政府を、植民地支配・戦後補償に対して無自覚であり、無責任な日本人が支えている。教科書から記述がなくなっても、日本政府が、デマ・ごまかしで意識操作をしようとも、日本帝国主義が起こした戦争犯罪の事実は変わらない。戦争責任はなくならない。
「責任者、天皇を処罰せよ」と叫び、無念に亡くなっていった大勢の日本軍「慰安婦」制度の被害者たちに、謝罪と補償は応えるものでなければならない。毎週水曜、凍てつくソウルの地で「わたしたちの若い学生(支援の高校生、大学生)や子孫に苦痛が戻ってくる」と公式賠償と法的責任を日本政府に迫る高齢(90歳前後)の被害者たち。彼女たちは戦争がふたたび引き起こされることを誰よりも危惧しているのだ(1992年1月から韓国日本大使館前での抗議行動が行なわれている。毎週水曜日に行なわれるので「水曜デモ」と呼ばれている)。
敢然と日本政府に立ち向かい、人権の歴史を前進させてきた被害者たちとともに闘おう。韓国のみならず、アジア諸国の日本の侵略戦争と植民地支配の責任を追及する人民と連帯しよう。
【倉田智恵子】
(『思想運動』973号 2016年2月1日号)
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