《労働者通信― 郵政》 過重労働が生みだす「事件」
闇夜のマイナンバー配達
わが家にマイナンバーの番号通知カードが配達されたのは11月中旬である。その日、わたしは泊り勤務で、家で夕食をすませて出勤の支度をしていた。夜7時を過ぎている。
まだ若い、小柄な男性配達員だった。かれは、外勤と内勤の違いはあるにしてもわたしもかれと同業だということを知っているだろうか。
「土田 宏樹さんですね」暗がりの中で、ペンライトをかざして宛名を確認する。わたしも簡易書留に印字されてある自分の名を確認した。ものすごく小さな字である。隣町で配達をしている友人によれば、当初はペンライトも自費で購入していたという。会社の費用でヘルメット装着のLEDライトが配置されたのは途中からだ。また通知は世帯主宛てになっているけれども、在宅して受け取るのは世帯主ではなく同居人の場合もある。配達の時間帯には世帯主は勤務等で不在というケースのほうがむしろ多いだろう。これも配達(受け取り)ミスを誘発する。大体、真っ暗になっても郵便バイクが駆けずり回っているというのが異常である。マイナンバーの配達期間中、集配課では連日3時間前後の超勤が常態化した。都内で配達をしている友人は、連日超勤をやりながら廃休も求められて12日間連続勤務となった。書留は受け取りを必ず確認してハンコ(またはサイン)をもらう。
だから誰もいなければ持ち帰って再配達になる。配達の開始は10月23日で、当初は11月末までに完了するはずだった。ところが11月25日の時点で、総通数5672万7千通のうち配達に出たのが4千万6千通、そのうち配達完了が83.0%、不在持ち戻りが12.2%、還付等が4.8%。会社は当初の目論見を諦め、配達が12月までずれこむことを認めた。
石川県では配達員が受け取りサインを偽造するという事件まで起きてしまった。書留にしたのは紛失事故を絶対に起こさないためだ。査数して必ず通数を合わせる。しかるに、時間が無くて不符合のまま配達に出たというケースが出ている。計算違いが原因ならいい。もし紛失だったなら個人情報はどうなるのか。マイナンバー制度そのものの危険がここに顔を出している。
同業の不祥事ばかり述べるのは気がさす。マイナンバーとは別の話だけれど、四国で23歳の配達員が2年間にわたって約2万9千通の郵便物を自宅などに隠匿していた。配りきれず、しかし局に持ち戻れば「仕事のできないヤツ」と謗られる。それが嫌だったのであろう。4年前には静岡で、配りきれなかった郵便物をこれは局長の指示によってシュレッダーで裁断破棄してしまうという事件があった。
もちろんとんでもないことである。しかし、そういうことが起きるほど労働現場は疲弊している。そこに、きわめて杜撰な計画でマイナンバー配達が持ち込まれたのである。配達開始前から会社は「超勤で対応する」と言っていた。
この頃にわかに言い始めた「ワーク・ライフ・バランス」とやらはどこにいったのか。【土田宏樹】
(『思想運動』971号 2015年12月15日号)
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