直接見て、聞いて、感じた朝鮮の人々の生活
朝鮮民主主義人民共和国を訪ねて


 10月下旬、新社会党の訪朝団に参加し、日本帝国の植民地支配からの解放70年となった朝鮮民主主義人民共和国(以後、「朝鮮」とする)を訪問した。
 午前の羽田発の便で中国・北京に入る。朝鮮大使館でビザの交付を受け、北京で1泊してから平壌着は翌日の午後だ。日本政府による朝鮮「制裁」前の1990年代には名古屋空港から平壌へのチャーター便が運航していた。平壌に行くのも北京経由だと旅費も高い。
 ありとあらゆる罵詈雑言、出所不明の映像を使っての朝鮮バッシングが巷にあふれている。訪朝前に、最近図書館で手にした本の中に、「日本で流される朝鮮に関する情報の98%はウソである」と書かれている本もある。
 朝鮮滞在は実質四日間の短い期間であったが、訪問した所を中心に労働者・人民の生活に絞って直接「見て」「聞いて」「感じた」ことを報告したい。
 平壌空港から車で平壌市内に向かう。道路が広く、きれいな風景が続く。「きれい」の意味は、質素だが雑然としていない、道路の脇の清掃が行き届いている、ガラクタがない、企業の宣伝広告物がない。20分ほど走って市内に近づくと高層住宅が見えてきた。

老人と子どもを大事にする政策に感激

 平壌市内にある新しくできた養老院を訪ねた。今年2月に竣工、8月に完成したばかりと言う。この養老院は、日本帝国による植民地支配下での生活、ほぼ全土が廃墟となった朝鮮戦争、社会主義国の崩壊により支援がなくなった1990年代の「苦難の行軍」と苦労の連続であった年代の方々が、安心な生活を送れるようにとの金正恩第一書記の指導で短期間のうちに作られた。医務室があり医者が常駐、歯医室があり治療が受けられる、配膳室と食堂、掘りこたつ式の集会室、サウナ付の広い浴室、運動器具がそろったジム、映画鑑賞ルーム(20人が大きなイスに座れる)、図書室、ゲーム部屋、等々すべてにわたって設備がそろっている。生活する部屋は、その人の状況によって四畳半くらいの畳の個室、10畳くらいに3人の共同部屋(ベッド)がある。入居者数は160名とのこと。入居費も生活費も無料だ。介護職員による虐待事件が頻発している日本の有料老人ホームを考えると、老人に対する政府の考え方の落差にびっくりさせられた。
 王流子供総合病院は、2013年7月に着工し翌年3月には完成。短期間の完成には朝鮮人民軍の兵士が労働力として建設に関わっている。総敷地面積は32,800平米。緊急用にヘリポートもある。24時間態勢の緊急対応が可能。ベッド数が300床、医師が150人、看護師180人。子供病院の中核として、全国の子供病院や児童館とネット回線でつながり治療を指導している。手術室、CTスキャン、レントゲン設備、電子機器による治療管理、集中治療態勢、病室などの医療機器と治療設備は、何度も検査・入院・手術を受けたわたしが経験した日本の病院と同じかそれ以上である。運営は子供の健康回復のみに焦点があてられている。病院内に、小・中学校の学校教室がある。治療費、入院費はもちろん無料である。日本ではこのような児童病院の存在を聞いたことがない。社会主義国でなければできない施設だと思った。

資本家による搾取がない朝鮮の生活

 通訳の李さんから聞いたことやわたしが見たことから、平均的な都市労働者の生活と労働の一端をご報告する。
 男女共働きの月収は約5000ウォン(50ドル、6250円)。日本ではこの収入では生活できないのは明らか。ところが朝鮮では、医療、教育はすべて無料である。住宅も、ガス・水道・電気代以外は無償。高層住宅1戸あたりの広さは2~3LDK。食糧の大半は供給制度で入手しているがその価格は驚くほど廉価という。供給制度では足りない食料・野菜、日用雑貨などは総合市場で購入しているが、約5000ウォンで、共働き子ども2人の生活費は事足りている。その他の物価については、タバコ朝鮮国産20本入り1箱が30ウォン(0.3ドル、約38円)、焼酎500mlも30ウォン(0.3ドル、約38円)。バスなどの定期代は無料同然。
 日常生活品の購買単価は日本円の10分の1以下だろう。
 テレビとラジオの普及率は100%、都市部でのパソコンの普及率は40%くらいと李さんは言っていた。もちろんこの国では、税金(所得税・消費税)、厚生年金、健康保険などを労働者・人民が支払うことはない。資本主義国で必要な医療保険、生命保険、火災保険などの支出もない。
 朝鮮の労働者の1日の労働時間は8時間(月~金)、土曜日は午前の労働と午後は自主学習、日曜は休日。計画経済なので残業はなし。勤務地の近いところに住むことになっているので長距離通勤はない。通勤の手段は、市街電車、トロリーバス、市内バス、それと自転車、徒歩。歩道を自転車と徒歩で移動している人が多いのは、職住が接近しているからだろう。自動車が通勤手段になっているかどうかを聞くことはできなかったが、平壌では自動車の通行量は思ったより多い。タクシーも相当な台数が走っている。訪問中に空中ブランコなどハラハラ・ドキドキのサーカスを観劇した。広い劇場では多くの観客が歓声をあげていた。入場料は80ウォン(0.8ドル、約100円)とのことだった。
 大学進学率は約30%とのこと。16歳までの義務教育終了後、進学希望者は検定試験に合格し、さらに希望大学の入試試験に合格する必要がある。大学(4年~6年)は総合大学、単科大学、工場大学、夜間大学がある。義務教育終了後にストレートに大学に進学する他に、軍を除隊後に大学に入学するケースも多い。大学の学費は無料。奨学金は生活費への援助として支給される。日本では多くの大学生が高い学費に加え奨学金と称するローン(借金)を抱えて卒業しているのとは大違いだ。
 日本では、「北朝鮮は軍事独裁国家、人びとは飢えに苦しみ自由がない」との反朝鮮宣伝が政府とマスコミ一体となってくり広げられている。わたしが今回、短い期間ではあったが朝鮮に行って見聞きしたことから言えるのは、朝鮮の労働者・人民は米国による国潰し攻撃が続くなか、金正恩第一書記の指導に敬意と信頼をおいて、民族の存続と生活向上のために働いていることである。朝鮮の人びとは、ネオンと宣伝が充満し金銭がすべてに優先する資本主義国とは異なり質素ではあるが堅実に生活していると感じた。
 滞在したホテルでは、旅行に来ている日本人と出会った。朝鮮には旅行会社を通して、だれでも行くことが可能だ。資本主義とは違う、社会主義の国・朝鮮を一度訪ねてみることをおすすめします。
 なお、今回の訪朝団は、上述のほか、朝鮮労働党国際部副部長(朝日親善友好協会会長)の朴根光氏らとの会談、錦繍山太陽宮殿(金日成主席と金正日総書記の霊廟)、祖国解放戦争(朝鮮戦争)勝利記念館、板門店軍事境界線など約17に及ぶ訪問と行事を行なっている。 【田沼久男】

(『思想運動』969号 2015年11月15日号)