国際政治時評 キューバと米国が国交を再開
社会主義の旗を守り抜く
                       

 7月20日、米国が1961年にキューバに国交断絶を通告して以来途絶えていたキューバと米国間の国交が再開した。実に54年ぶりの再開である。
 昨年12月に両国間の国交正常化交渉の開始が発表されたが、発表以後の動きを追ってみよう。
 昨年12月17日、キューバのラウル‐カストロ国家評議会議長と米国のオバマ大統領がそれぞれ両国間の国交正常化交渉の開始を発表した。この国交正常化交渉の開始は一年半にわたる水面下での交渉の末と報じられている。
 以後、キューバと米国は、今年1月のキューバの首都ハバナでの第1回会議を皮切りに5月までに合計4回の国交正常化交渉を行なってきた。
 4月にはパナマで開催された第7回米州サミットにキューバは初めて参加した。サミット会場で、ラウル議長とオバマ大統領は約1時間にわたり会談を行なった。両国首脳の会談は1959年のキューバ革命以後初めてである。
 この第7回米州サミット開催の直後、オバマ大統領はキューバに対するテロ支援国家指定解除を承認し議会に通告した。この大統領承認から45日経た5月下旬、米国はキューバに対するテロ支援国家指定を正式に解除した。米国は、キューバに対して言いがかりとしか言いようのない理由を並べ立て1982年にキューバをテロ支援国家と指定し、以来実に33年間にわたりキューバに対し経済援助の停止や、金融規制などを実施し続けてきた。
 7月1日、キューバと米国の両政府は、国交を回復し相互に大使館を再開することで合意したと正式に発表した。キューバ外務省は声明のなかで「外交関係の再確立と大使館再開は、関係正常化に向けた長く複雑な過程の第一段階である」と指摘し、主権の平等、政治経済制度を選ぶ権利、内政不干渉などの原則の重要性を述べたあと、①米国が半世紀以上続けているキューバに対する経済封鎖の解除、②グアンタナモ米軍基地の返還、③キューバの「民主化」推進のためと称して米国がキューバ向けに行なっているラジオ・テレビ放送の中止を要求した。
 昨年末の国交正常化交渉開始の発表以降、米国を始めEUそして日本も含め各国から観光、農業、エネルギーなどさまざまな分野で投資を検討する政府関係者や企業幹部のキューバ訪問が相次ぎ、キューバ政府との投資案件での合意も増えている。
 また、キューバへの観光客は今年に入り前年比16%増と大きく増加している。これらの効果もあり、今年上半期のキューバの経済成長率は、4.7%となり、前年の1.3%から大きく伸びている。

「目的は変えていない」と公言する米国

 キューバと米国の国交正常化交渉は水面下での交渉を含めれば2年を越す。この2年有余の両国の動向、そして四回におよぶ国交正常化交渉の公表内容や両国の声明を見れば、キューバがプロレタリア国際主義に強く彩られた社会主義の旗を高く掲げ歩み続けていること、他方、米国が社会主義キューバを打倒し、帝国主義に抗し闘う諸国人民を圧殺しようと策謀し行動し続けていることが鮮明にうかびあがってくる。
 国交正常化交渉の米国代表であるジェーコブソン国務次官補(西半球担当)は、第1回国交正常化交渉の直後、「交渉の目的はキューバを自由で民主的な国にすることであり目的は従来と変わらない」とあからさまに述べている。
 米国は、トリセリ法(1992年)とヘルムズ・バートン法(1996年)で、キューバに対する経済封鎖を強化するとともに、キューバ「民主化」のために非政府組織を通じての支援、政治的抑圧の犠牲者やその家族への支援などを定めている。
 ロイター電によると米国務省は2016年度のキューバ「民主化」のための予算として2000万ドルを計上している。またA‐アーグストによると、同上の目的で米国各州および上下両院などで集められた寄付3000万ドルが米国国際開発庁(USAID)などの諸組織に配布が予定されている(『グローバル・リサーチ』7月18日)。米国は、中南米に限って見ても、ベネズエラ、エクアドルなどに繰り返し反革命の干渉を現時点も含め実施し続けている。
 米国は、この2月、英国、カナダと連携し、ベネズエラで反革命クーデターを計画した。マドゥーロ大統領は米国が主導したクーデター策動を直前で阻止したことを発表し、ベネズエラ人民に引き続き厳重な警戒を呼びかけた。オバマ大統領は3月、クーデターが失敗したため、「ベネズエラが米国の安全保障と外交上の大きな脅威だ」と宣言し、ベネズエラに対し制裁を科した。
 エクアドルでは、この6月以降、首都キトとグアヤキルで、米国に支援された右翼が独占資本と連携し、コレア政権打倒策動を活発化させている。エクアドルのセラノ内務大臣は、保安軍攻撃、大統領官邸の占拠、コロンビアおよびペルー国境付近の空港と橋を占拠しようとしたクーデター計画を直前で阻止したことを明らかにしている。右翼は、コレア政権が実施した相続税率増や資産運用に対する課税(キャピタルゲイン税)を中止するよう要求している。
 ではキューバは米国に対しどう対応してきたのであろうか。
 キューバは4回の国交正常化交渉を含め、一貫して社会主義を堅持することを明示し、米国が主張する「人権と民主化」の欺瞞性を暴露し、米国の諸国人民に対する反革命の干渉に対し強い抗議と諸国人民との団結を訴えてきた。
 ラウル‐カストロ国家評議会議長は、4月の第7回米州サミットで、50分にわたるその演説の多くを具体的な事実を明示しながら帝国主義の本質の暴露に費やし、中南米諸国人民とりわけベネズエラ人民との団結を訴えた。
 7月15日、ラウル議長は人民権力全国会議の閉幕演説で、米国との国交再開について「大使館再開後は新段階に入る。今後は長く複雑な段階となる」と述べ、経済制裁の解除やグアンタナモ米軍基地の返還などが実現するまでは両国関係が正常化したとは言えないと強調している。そして、この間の国際情勢を概括し、そのなかで特にベネズエラ人民との団結、エクアドルでの反革命策動への警戒と団結を訴えている。

党による主導のもと前進していく

 キューバは半世紀におよぶ米国の経済封鎖のもとでいかなる緊急事態にも対処する必要にせまられ過剰な在庫の保持などで経済構造が歪み、さらに社会主義世界体制の解体により1990年には「平和時の非常時」宣言を余儀なくされた。国内総生産の回復はようやく2004年になってのことである。
 かつて米国は「キューバ経済を弱体化させ、飢餓と絶望と苦しみをつくりだし政権を打倒する」(1960年)と述べた。いま、米国は国交再開によりキューバの「民主化」を後押しし社会主義を堅持する政権を打倒しようと目論んでいる。
 来年2016年4月16日からキューバ共産党第7回党大会が開催される。
 先に紹介した7月の人民権力全国会議の閉幕演説でラウル議長はこの党大会で「繁栄し持続可能な社会を建設するために、2030年に向けた経済・社会政策」が論議されると述べている。
 キューバは、生き延びる経済戦略で「平和時の非常時」を乗り越え、現在進めている持続可能な発展のための条件を創設する経済戦略から、第7回共産党大会では繁栄し持続可能な社会を建設するための経済戦略を策定するのである。
 キューバは米国による経済封鎖で累積損失が1兆1253億ドル(昨年10月時点)に達することを明らかにし、米国に対しその保障を要求している。
 また、キューバが強く要求しているグアンタナモ米軍基地の返還について、米国は「返還する計画はない」と繰り返し述べている。
 キューバと米国の関係正常化は長い厳しい闘いが避けがたい。キューバ人民は社会主義だけが解決の道であることを確信し、党の主導のもと前進していく決意を固めている。【沖江和博】

(『思想運動』963号 2015年8月1日・15日号)