安倍政権の労働法制改悪と闘おう!
労働者派遣法「改正」案を参議院で廃案に
採決の委員会を数十人が立って傍聴
厚労省による条文ミスや衆院解散で、昨年二度にわたり廃案となった労働者派遣法「改正」案が、6月19日の午前中に衆議院厚生労働委員会で採決、午後には衆議院本会議に緊急上程され、与党の賛成多数で可決した。
わたしはこの衆院厚生労働委員会を、労働法制改悪反対の取り組みとして傍聴した。60席ほどある傍聴席は報道陣のほか派遣労働者や労働組合員らが詰めかけて満席、わたしを含め数十人が立ったままでの審議傍聴だった。質疑応答の中で安倍首相は、「今回の改正案は、派遣労働の道を選ぶ人には待遇を改善し、正社員の道を希望する人には道を開いていくためのものだ」と現実を無視した空理空論を繰り返した。安倍が退席した後、議場では予定されていたかのように「改正」案の採決に移った。わたしは(多くの傍聴者も)、採決に際しては委員長席辺りで与野党委員による「攻防戦」があるのではと緊張しながら見守っていたのだが、さしたる混乱もなく労働者派遣法「改正」案が採択・成立してしまった。18日の厚生労働委員会の理事懇談会で与野党が、「改正」案を19日の委員会で採決することに合意していたとは言え、落胆の溜息が傍聴席に流れた。
生涯派遣と正社員の置き換えが狙い
労働者派遣法は、賃金の中間搾取などを防ぐため「労働者供給事業」を禁じていた職業安定法の例外として1985年に制定され、1986年7月に施行された。派遣対象業務は最初は「専門性の高い13の業務」のみ(ポジティブリスト)であったが、1996年には「26の業務」に拡大、1999年には除外業務以外は派遣が原則自由化となる(ネガティブリスト)。2003年には製造業への派遣が解禁になった。現行の労働者派遣法は、企業が同じ職場で派遣労働者を受け入れることができる期間を原則1年、最長3年(通訳など専門26業務は無期限)と定めている。
派遣労働者の首を斬る「改正」案
これに対し、衆議院を通過し参議院に送られた派遣法「改正」案は専門26業務の無制限を廃止し、派遣期間の上限を一律に3年に設定している。現行では3年を超えて同一の仕事で派遣労働者を使うことはできないが、「改正」案では、労働組合などの意見を聞けば(同意は必要ない)派遣労働者の人を替えることで、同じ仕事で派遣労働者を3年以上何年でも使い続けることが可能になる。3年目を迎えると、現行制度では派遣先企業を離れなければならない派遣労働者でも、同じ派遣先企業の部署を替えることにより、さらに3年働かせることができる。
すなわち、これまで「派遣」は臨時的、一時的な仕事を担う例外的な働き方と位置付けられ、「業務ごと」に3年(専門26業務は無期限)という上限を設けていたが、「改正」案では「派遣労働者ごと(専門26業務でも)」に最高3年に変更された。派遣労働で行なう業務が固定化することになり企業は人を代えれば派遣をずっと受け入れられるようになる。また現行制度では受入期間の制限があるために派遣労働者を使ってこなかった企業も、期間制限が大幅に緩和されれば、正社員を派遣労働に置き換える企業が増えることは確実だろう。そして、現行では上限無制限である専門26業務の派遣労働者(126万人の総派遣労働者数の約40%で49万人)にも新たに3年ごとに仕事を失う不安定な働き方を強要することになる。19日の委員会質疑では、野党議員が「改正によって派遣労働者を路頭に迷わすことはないかどうか」の質問に、安倍も塩崎厚労相も返答できないでいた。
わたしが委員会室に通ずる廊下で傍聴の順番を待っていた時、どこかの記者らしき人が派遣労働者にインタビューをしていた。その派遣労働者は、ハンカチで涙を拭きながら応じていた。安倍と塩崎は生身の派遣労働者に、「改正」案に道理があると説明できるのか。できるとは到底思われない。
同一労働同一賃金推進法は骨抜きに
派遣労働者法「改正」案に関連して、昨年11月に維新・民主・生活・みんなの野党四党が、正規雇用か非正規かにかかわらず、同じ仕事であれば同じ賃金を支払うことなどを決める法律を、1年以内に作るなどとした「労働者の職務に応じた待遇の確保等のための施策の推進に関する法律案」(通称「同一労働同一賃金推進法案」)を衆院に提出していた。派遣労働者たちに淡い期待をいだかせた「同一労働同一賃金推進法案」だった。しかし、今年6月に入って維新は共同提案の民主などになんの説明もなく与党側と共同で法案を修正した。「1年以内」に法律をつくるとしていた部分を「3年以内」に先延ばした上で、必ずしも法律をつくる必要もなくした。
さらには、「均等の実現を図る」としていた内容を、「待遇の均等及び均衡の実現」に変更した。この維新の対応は、「同一労働同一賃金推進法案」を骨抜きにするとともに労働者派遣法「改正」案の衆議院通過への協力となった。
次は残業代ゼロ法案と解雇の金銭解決
今回の労働者派遣法「改正」案は、第二次安倍内閣が昨年6月に閣議決定した「日本再興戦略改訂2014=新成長戦略」に盛り込まれた労働法制改悪の一環である。安倍政権は、今第189回通常国会において大別して3つの労働法制に関わる法案を提出している。第一がこの「改正」労働者派遣法案である。二番目が「8時間労働制」の破壊を目論む「改正」労働基準法案で、その内容は①「高度プロフェッショナル制度(ホワイトカラー・エグゼンプション制度の改称・残業代ゼロ法案)」、②裁量労働法制の拡大(営業職も対象にするなど)。三番目が「新法」女性活用推進法案で、大企業に管理職の数値目標を出させるものだ。安倍が言う「指導的な地位に着く人の3割を女性に」とは、同時に「女性労働者の7割が非正規労働者として低賃金で無権利な労働を強いられる」ことである。
安倍政権は〝戦争法案の成立を確実にするため〟に国会を9月末までの95日間(戦後最長)延長することを6月22日に決定した。これでは通常国会の期間に定めがないに等しく、労働者・人民を愚弄するものだ。安倍は、戦争法案と一緒に労働法制の改悪を強行する考えだ。労働者派遣法「改正」案は衆議院を通過したが、参議院での闘いで3度目の廃案に追い込まなければならない。労働者派遣法「改正」案を廃案にする闘いは、後に続く「8時間労働制破壊」を許さない闘い、そして「解雇の金銭解決制度の導入」を阻止する闘いと一体となった闘いだ。
ナショナルセンターの枠を越えて
安倍の「岩盤規制」破壊政策=労働法制改悪を阻止するには、労働組合は本腰を入れて闘わねばならない。基本はまず職場だ。職場で、会社で、派遣労働と非正規職労働の導入に反対しよう。すでに導入されていたら、人数拡大に反対するとともに派遣労働者と非正規職労働者と共に正社員化と待遇改善に取り組もう。ナショナルセンターの枠を越えて共同闘争を前進させよう。全労連、全労協、MIC(日本マスコミ文化情報労組会議)などでつくる「安倍政権の雇用破壊に反対する共同アクション」が2013年10月に結成され、国会前での共同行動などを続けている。連合も労働者派遣法「改正」案や労働時間法制「改正」に反対し、国会前で「雇用共同アクション」と隣合わせる場面も多くなっている。今年5月14日には東京・日比谷野音において労働時間法制と労働者派遣法改革に反対する集会が日本労働弁護団などの主催で開かれ、連合、全労連、全労協、中立系などナショナルセンターの枠を越えて労働組合が参加した。
労働法制改悪反対の取り組みは、労働基準法の各条項を守る取り組みであり、勤労人民の生存権と勤労権、労働者の団結権・団体交渉権・団体行動権(争議権)を定めた憲法を守る取り組みでもある。その意味で戦争法案廃案の闘いと通底している。
労働者・労働組合は当面する参議院での労働者派遣法「改正」案を廃案にする闘いと、衆議院で審議が始まる「改正」労働基準法案に反対する闘いに全力を上げて取り組もう。 【田沼久男】
(『思想運動』961号 2015年7月1日号)
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