日朝ストックホルム合意を破壊する日本政府の大暴挙
朝鮮総聯議長に対する弾圧を糾弾する!


強制捜索を糾弾!
 さる3月26日早朝、京都・神奈川・山口・島根の各府県警による合同捜査本部は、在日本朝鮮人総聯合会(以下、朝鮮総聯)中央常任委員会の許宗萬議長と南昇祐副議長の自宅を強制捜索するという大暴挙をはたらいた。同じ日、2010年に朝鮮産松茸を「不正」輸入したという外為法違反嫌疑で貿易会社とその社長宅も強制捜索を受け、社長および社員1名が逮捕された。総聯議長・副議長宅への家宅捜索は、その関連嫌疑という名目であった。この朝鮮産松茸の「不正」輸入嫌疑については、昨年5月にも大規模な強制捜索が朝鮮総聯関連企業と総聯活動家たちの自宅に対して強行されており、今回の朝鮮総聯議長・副議長宅への強制捜索は、この前回の弾圧を拡大したものである。しかも、5年も前の「嫌疑」を持ち出し「事件化」する手口は、第1次安倍政権時の漆間・警察庁長官が07年年頭記者会見で明らかにした「北朝鮮の資金源について、『ここまでやられるのか』と相手が思うように事件化して、実態を明らかにするのが有効だ」との手口の再来を思わせるファッショ的弾圧である。

日朝合意文の真実

 今回の朝鮮総聯議長・副議長宅への強制捜索は、昨年5月の日朝政府間のストックホルム合意にもとづく朝鮮民主主義人民共和国(以下、朝鮮)の包括的かつ全面的な再調査が進行しているさなかに引き起こされた。われわれは、ここで日朝ストックホルム合意文にどのような文言が書かれているのか、この文言に照らして合意を一方的に破壊する行為に出たのは日・朝どちらの側なのかを、以下、検証してみる(次頁に合意文全文を掲載)。「日朝ストックホルム合意は、前文、日本側の行動措置、朝鮮側の行動措置の3部構成になっている。
 前文では《双方は日朝平壌宣言に則って、不幸な過去を清算し、懸案事項を解決し、国交正常化を実現するために、真摯に協議を行った》として、この合意が日朝平壌宣言にもとづき日朝国交正常化までを視野に入れたものであることを闡明している。そのうえで、《日本側は、北朝鮮側に対し、1945年前後に北朝鮮域内で死亡した日本人の遺骨及び墓地、残留日本人、いわゆる日本人配偶者、拉致被害者及び行方不明者を含む全ての日本人に関する調査を要請した 》として、日本政府から全ての日本人に関する調査(拉致被害者の調査だけではない、しかも拉致被害者はトップではなく4番目に置かれている)要請があったと明記されている。しかし日本政府・マスコミは、これを「拉致再調査」で合意したと言い換え、こんにちまで日朝ストックホルム合意といえば、「拉致再調査」だけの履行というフレームアップを訂正していない。
 つぎに日本側の行動措置では、7項まである行動措置のなかに「行方不明者」の文言(第4項)はあっても「拉致被害者」の文言はない。大切なのは第1項にある《北朝鮮側と共に、日朝平壌宣言に則って、不幸な過去を清算し、懸案事項を解決し、国交正常化を実現する意思を改めて明らかにし、日朝間の信頼を醸成し関係改善を目指すため、誠実に臨むこととした》の部分である。この基本姿勢に照らすならば、今回の朝鮮総聯議長・副議長宅への強制捜索が、「誠実」さのかけらもない、日朝間の信頼関係をぶち壊しにするものであったのは明らかではないか。
 また朝鮮側の行動措置では、第1項に《1945年前後に北朝鮮域内で死亡した日本人の遺骨及び墓地、残留日本人、いわゆる日本人配偶者、拉致被害者及び行方不明者を含む全ての日本人に関する調査を包括的かつ全面的に実施することとした》。さらに第2項に《調査は一部の調査のみを優先するのではなく、全ての分野について、同時並行的に行うこととした》と明記されている。日朝ストックホルム合意が「拉致再調査」だけで合意したものではなく、包括的・全面的で同時並行的な調査を定めたものであることは、これで明らかだ。

従来の立場は、ある

 さらに日朝ストックホルム合意で、われわれ日本労働者階級人民が決して見落としてはならないのが、前文にある《北朝鮮側は、過去北朝鮮側が拉致問題に関して傾けてきた努力を日本側が認めたことを評価し、従来の立場はあるものの、全ての日本人に関する調査を包括的かつ全面的に実施し、最終的に、日本人に関する全ての問題を解決する意思を表明した》という部分の、「従来の立場はあるものの」に籠められた意味だ。朝鮮側のいう「従来の立場」とはなにか? それは、日本帝国主義が朝鮮を侵略植民地支配した過去清算の課題であり、戦後70年のこんにちも解決されない戦争責任・戦後責任の課題である(次頁の『朝鮮新報』記事参照)。これらの課題は、日本労働者階級人民をして日本政府に果たさせていないわれわれ自身の懸案課題なのである。したがって、日朝ストックホルム合意は、《日本人に関する全ての問題を解決する》ための日朝合意なのであり、朝鮮人に関する全ての問題を解決するための日朝合意はまだ結ばれていないのである。しかし、その《日本人に関する全ての問題を解決する》日朝合意すら、朝鮮総聯議長と副議長宅を強制捜索する蛮行をはたらいたことによって、日本政府みずからの手で破壊してしまった。
 日本の警察当局がこうした大暴挙をはたらいた背景には、この日朝ストックホルム合意を反故にし、その責任の一切を朝鮮側になすりつけ、対朝鮮「制裁」を延長し、朝鮮バッシングを一段と強化して、集団的自衛権行使のための関連法改悪を容易に進めようとする安倍政権の悪辣な魂胆が透けて見える。われわれは日本の労働者階級の一員として、今後予想される対朝鮮バッシングを許さず、朝鮮労働者階級人民との国際主義的な団結を打ち固めていこう!
【〈活動家集団 思想運動〉常任運営委員会】

(『思想運動』956号 2015年4月15日号)