安保法制合意
差しせまる壊憲の危機
労働者は闘争の前面に立とう!
「何でもあり」の海外派兵拡大案
3月20日、自民党と公明党は安全保障法制の整備に関する与党協議会を開き、その「具体的方向性」について合意した。この合意に基づいて作られようとしている法律は、集団的自衛権行使を容認することで自衛隊の海外での任務を格段に拡大・強化し、実際に武器を使い人殺しのできる真正の軍隊として(折しも安倍は自衛隊を「わが軍」と呼び本音をあらわにした)、いつでも、どこでも、どの国ともいっしょに、侵略戦争を行なえるようにする「戦争遂行立法」である。それは日本国憲法の平和主義とこれを基礎においた日本の戦後政治のあり方を根本から否定するものにほかならない。
昨年7月、安倍政権は歴代の内閣が憲法違反として禁じてきた集団的自衛権の行使を容認する閣議決定を行なった。しかしそれは行政府のいわば決意表明に過ぎず、実際に行使を可能とするためには、関連法の整備(既存の法律の改定や新法の制定など)が必要だった。この法整備にむけた本格的な与党協議は本年2月中旬からはじまり、わずか一月半の猛スピード・ゴリ押し(もちろん自民党による)協議で今回の実質合意に至った。
この協議では、商業メディアさえ「何でもあり」と揶揄したように、自民党側からは、憲法9条との整合性を保つために設けられてきた自衛隊派兵に伴う諸々の制約や縛りをことごとく取り払う提案が次々と出された。公明党の顔を立てるために「国際法上の正当性」、「国会の関与等の民主的統制」「自衛隊員の安全の確保」の三つの方針が合意文書に盛り込まれたものの、どれも抽象的なお題目に過ぎず実質的な歯止めにはならない。自民の提案はほぼ無傷で通ったといってよい。その中には7月の閣議決定でさえ認めていなかった新たな派兵拡大案も含まれている。
以下、問題点を列挙する。
○「武力攻撃」には至らないいわゆる「グレーゾーン事態」において、米軍だけでなくオーストラリア軍への「武器等防護」も可能に。
○「周辺事態法」を大改悪。「周辺事態」の概念を削除し、地理的な制約を廃止。「後方地域」の規定をなくし、実際に戦闘が行なわれている戦地への派兵も可能。軍事支援の対象を米軍以外の軍隊にも拡大、弾薬供給もできるようにする。
○テロ対策特措法やイラク特措法など、地域・目的・期間などを限定した法律ではなく、自衛隊海外派兵の恒久法(一般法)を新設し、いつでも、どの地域へも自衛隊を派兵できるようにする。これによる自衛隊派兵は国連決議がなくてもよく、有志連合の後方支援も可能に。この法律でも「非戦闘地域」の枠組みをなくし戦地派兵が行なえる。派兵の内容では「人道復興支援」や「治安維持活動」も可能。
○「国連平和維持活動(PKO)法」を改悪。武器使用権限を拡大し、いわゆる「駆けつけ警護」など、他国のPKO隊員を守ることを口実とした武器の使用も認める。治安維持活動や停戦監視といった強制力のある任務も担う。
○「船舶検査法」の改悪。地理的制約を廃止し、日本周辺以外でも可能に。相手の船長の合意なしの強制捜査もできる。
○「邦人救出」については、これまでは輸送任務だけだったが、武器使用を伴う「救出」や「奪還」も可能にする。
○集団的自衛権行使関連。「国民の生命、自由、幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある」などの新3要件を「武力攻撃事態法」や「自衛隊法」の条文に過不足なく盛り込む。それらの法律を改悪し、政府が要件に合致すると判断すれば、世界的規模で米軍と一体となった武力行使ができる。新3要件はきわめて曖昧で政府による恣意的な解釈・判断がまかり通る。「自衛隊法」の改悪によってこれまで憲法違反とされてきた集団的自衛権の行使が「自衛隊の主たる任務」に位置づけられる。
○安倍は中東・ホルムズ海峡の機雷封鎖↓原油輸送路の途絶も集団的自衛権行使の要件だと強弁。経済危機でも武力行使ができるとなれば、いくらでも派兵要件は拡大解釈される。
冒頭の「みなさん、辺野古へ行ってください。日本政府が何をやっているのか見てほしい。」この言葉にすべてが込められていた。
解釈・立法・明文すべてで進む改憲攻撃
今後、この合意に沿って政府が4月中旬までに法案を整備し、それを審議する与党協議を経て、すべての関連法案を一本化し、五月半ばまでには国会に提出、今国会の会期(6月24四日)を8月まで大幅に延長してでも成立させるというのが安倍政権の構えだ。その間、4月下旬には日米外務・防衛閣僚協議=2プラス2を開き日米軍事協力の指針(ガイドライン)の再改定が目論まれ、4月末から5月初旬にかけての安倍の訪米、日米首脳会談が予定されている。国内で法案をめぐる本格的な議論がはじまる前に日米政府間で大枠を決めてしまい既成事実化をはかろうという腹だ。
こうした動きと並行して、自衛隊法を改悪し、戦前の軍部による政治支配への反省から設けられた「文官統制」の制度・原則を廃止することが閣議決定された。ここにも自衛隊を真正の軍隊に生まれ変わらせようという意図が貫かれている。
また3月13日には、日仏2プラス2が開かれ、物品役務相互提供協定(ACSA)の締結にむけた検討をはじめることが合意された。日本はすでに米国、オーストラリアとACSAを締結しており、カナダとは締結することで実質的な合意ができ、イギリスとは交渉中である。米国以外の帝国主義軍隊との連携を進める集団的自衛権行使の方向と軌を一にした動きである。
自民党は、3月8日に党大会を開き、憲法改正を前面に掲げた2015年度の運動方針を採択した。この中では「憲法改正賛同者の拡大運動」の推進が提起され、全党をあげて積極的に取り組むことが強調された。この間の国会答弁で安倍は誰はばかることなく憲法「改正」の決意表明を繰り返し、護憲勢力への敵愾心を露骨に現わしている。自民党で憲法改正推進本部長をつとめる船田元は、来年の通常国会に改憲原案を示し、「早ければ来年秋には国民投票に持ち込める可能性はある」との見通しを語っている。自民党は3月下旬にも衆院憲法審査会を再開させ、改憲項目を絞り込むための議論を始めるとの方針を固めている。
ここに来て安倍政権は全面的な攻勢に出ている。解釈・立法・明文すべてにわたって壊憲攻撃を加速させ、一気に戦争遂行体制を構築しようというのだ。
この流れを押しとどめるべく、われわれは今すぐに行動に起ちあがらなければならない。
5月3日の憲法記念日、横浜の臨港パークを会場に、戦争をさせない1000人委員会、解釈で憲法9条を壊すな!実行委員会、憲法共同センターの三者が共同し、従来の共闘の枠組みをいっそう広げる形で「5・3憲法集会」が開催される。われわれは護憲・平和勢力の幅広い共闘の実現を歓迎しこの集会への結集を呼びかける。と同時にわれわれは、こうした共同闘争をより強固な闘い、真に戦争遂行勢力に打撃を与え得る闘いに発展させていくためには、労働者・労働組合が運動の前面に出、その中軸を担う体制を何としても築きあげる必要があると主張する。
昨年秋、都内の労働組合が中心となって「10・17戦争への道をゆるさない東京集会」を成功させた(本紙946号参照)。ここで示された労働者の共同行動をさらに大きくさらに力強く前進させよう。この春から夏にかけての時期が闘争の最大の正念場、一大決戦の時となる。職場・生産点の闘いと結びついた労働者・労働組合の壊憲反対闘争への総決起・大結集を訴える。 【大山 歩】
(『思想運動』955号 2015年4月1日号)
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