急ピッチで進む労働時間法制の全面改悪
ストライキを背景に闘える体制づくりを
        

 安倍政権による労働時間法制改悪の動きが急ピッチで進んでいる。ホワイトカラーエグゼンプション(残業代ゼロ)を可能にする労働基準法改悪である。
 昨年6月に、労働時間と賃金のリンクを切り離した新たな労働時間制度の創設が「日本再興戦略 改訂2014」において閣議決定された。9月以降、この線に沿って労働政策審議会(労働条件分科会)において検討が進められ、労働者側委員の反対を押し切り2月13日に「今後の労働時間法制等の在り方について(報告)」がとりまとめられた。厚労省はわずか四日後の17日に改悪労基法の法律案要綱を示した。4月の国会上程、通常国会での成立、2018年4月施行が目論まれている。

改悪案の中味

 労基法改悪案では「特定高度専門業務・成果型労働制(高度プロフェッショナル制度)」なるものを導入し、従事する労働者には労基法で定める労働時間、休憩、休日及び深夜の割増賃金に関する規定を適用しないとしている。労働時間の上限を1日8時間、週40時間に規制した戦後日本の労働法制の基本原則の否定である。14日付『日本経済新聞』は「脱時間給制度」と呼んで「残業代がなく成果に応じて給与を払う仕組み」「働き方の選択肢が広がる」と称揚している。ウソも休み休み言え! 法案には成果で報酬を決める規定はないし、そもそも「成果型賃金」はすでに多くの企業が導入済みではないか。資本が欲しがっているのは、成果が出るまでとことん働かせることができ、しかも残業代を支払う必要がない働かせ方、歯止めなき搾取の合法化である。選択肢を広げるのはむろん資本の側である。
 たしかに改悪案は年収(1075万円以上)や本人同意を要件としている。しかしわれわれは、当初は13業種に限定してスタートした労働者派遣法が、対象業種原則自由化=ネガティブリスト化され膨大な非正規・有期雇用労働者を生み出すことになった歴史的経過を忘れてはいない(派遣法は、労働法制のいまひとつの基本原則=直接雇用の否定だった)。経団連がかつて年収要件を「400万円(又は全労働者の平均給与所得)以上」とするよう求めた事実もある。しかも年収要件は法律ではなく省令で定められる。一度成立すれば、国会審議もなく引き下げ可能だ。年収要件は制度導入のための「イチジクの葉」にすぎない。
 労基法改悪案はほかにも、みなし労働時間制である企画業務型裁量労働制の対象業務を拡大するなど、労働時間規制を緩和する方向性に貫かれている。
 さらに安倍政権は、廃案になった労働者派遣法改悪法案を三たび国会に提出する構えだ。

二つの反対集会

 こうした動きに抗して、労働組合や弁護士団体等が反撃に起ちあがっている。1月30日に、全労協、全労連、日本マスコミ文化情報労組会議(MIC)、全国港湾など幅広い労働組合が参加して結成された「安倍政権の雇用破壊に反対する共同アクション」が主催する「安倍雇用破壊を許さない1・30決起集会」が開かれた。全労働省労働組合の森﨑巌委員長が労政審報告の骨子(当時)について報告し、また、郵産労ユニオンと医労連から深夜勤務を含む夜間交代労働の実態、全印総連から残業代未払いと組合潰しとの闘いなどが報告され、現代日本の労働者がおかれている労働時間規制は「岩盤規制」どころかぐずぐずの違法状態にあることが明らかにされた。
 2月18日には日本労働弁護団・過労死弁護団全国連絡会議・ブラック企業被害対策弁護団の共催で「ホワイトカラーエグゼンプション反対緊急集会 STOP!過労死・過労うつ」が開催された。労働弁護団の棗なつめ一郎弁護士が労政審報告と改悪法案の問題点について報告した。全国過労死を考える家族の会の中原のり子さんは、過労自死した夫(病院勤務の小児科医)が、年収要件も含め高度プロフェッショナル労働制にまさしく該当したと述べ、残業代ゼロではなく過労死ゼロこそ実現すべきと訴えた。日弁連のアメリカ調査団は、合衆国のホワイトカラーエグゼンプションの実態としてイグゼンプト労働者(残業代なし)の労働時間がノンイグゼンプト労働者(残業代あり)の労働時間よりかなり長い傾向にあること、つまり日本の御用学者らの「残業代がもらえなくなれば残業時間は減る」という主張は事実として誤りであることを報告した。
 全労協、全労連からもそれぞれ決意表明があった。この二つの集会は時宜を得た貴重な取り組みだった。
 こうした取り組みをすべての地域で、ナショナルセンターの枠組みを超えた共同行動として追求していかなければならない。
 そのうえで言うのだが、この二つの集会で「ストライキ」という言葉を述べたのは中岡基明全労協事務局長ただ一人で、それも、以前の学習集会における棗弁護士の「なぜこの情勢で、労働組合はゼネストに起ちあがらないのか」という批判ないし激励の発言を紹介する文脈においてであった。
 ここにこそ、われわれの運動、労働組合と労働者の運動の現状と弱点が表われているのではないか。
 いま闘われている春闘、沖縄の反基地闘争に連帯する行動、そして改憲日程を公然と明らかにした安倍政権を倒す闘い、こうした闘いと労基法改悪阻止の闘いを結びつけ、すべての労働組合がストライキを背景に、職場・生産点を基礎に闘い抜く運動をつくり出そう。【吉良 寛・自治体労働者】

(『思想運動』953号 2015年3月1日号)