人質殺害をまねいた安倍の「積極的平和主義」
改憲・戦争体制づくりに反対しよう!
わたしたちの目の前で起こっている一連の事態の根源は何か。そして真の敵はだれなのか。「イスラム国」を名乗る勢力によるテロ、日本人2人の拘束・殺害をめぐるできごとを前にして、そうした問いがわたしたちに投げかけられている。それに答えようとするとき、事の源流を追って歴史を遡ることと、世界を根底で動かしている力関係、対立軸をさぐることが必要だ。
「積極的平和主義」のもたらした必然
この間、いくつもの情報源が明らかにしているのは、昨年8月の日本人拘束とその情報把握以降、日本の政府、外務省、公安警察が何をしてきたかだ。それらの事実は、ひとつの真実を指し示している。安倍政権が日本人2人の殺害を招いた張本人だという真実を。
先月の中東訪問における首相の2億ドル援助表明とは、「有志連合」の一員としての戦闘加担宣言だ。それによって人質がどうなるかは火を見るより明らかだったはずだ。
政府は、あれは「人道支援」だとまたもや嘘で乗り切ろうとしているが、戦闘を行なう国に対する「人材養成」「インフラ整備」とは兵站行動にほかならない。エジプトで発表された首相表明の英文にはなかった「地道な(人道支援)」などという修飾語を訳文にまぎれこませ、「人道的」ニュアンスをかもしだそうと必死だ。
人質を死に追いやる目的は何か? この事件を利用して、違憲・無効の集団的自衛権行使容認の既成事実化――自衛隊の海外派兵、戦闘参加を可能にする法整備を強行すること。「対テロ」を免罪符に、改憲には反対といういまだ根強い世論を切り崩し、明文改憲への突破口を開くこと。壊憲策動の「集大成」へ向けた跳躍台として、「日本人の死」を徹底利用しようとしているのだ。安倍政権の「積極的平和主義」は、人民を殺さずには成り立たない。この造語の下に、NSC(国家安全保障会議)設置、事実上の武器輸出容認、集団的自衛権行使容認の閣議決定へと壊憲策動を推し進めてきた、その延長線上のいわば必然として今回の事件はある。
また、首相の今回の中東訪問は、日本の中東政策の決定的な転換をもたらした。板垣雄三氏(東京大学名誉教授)は『京都新聞』『信濃毎日新聞』で次のように指摘する。
「イスラエルのパレスチナ占領を警告した1973年の二階堂進官房長官談話」、「先進国首脳としては初となった81年の鈴木善幸首相とアラファト・パレスチナ解放機構(PLO)議長の会談、イスラムと世界との文明間対話を呼びかけた2001年の河野洋平外相イニシアチブ」。「歴代政府は中東の市民の間に『日本は欧米と違う』との印象を確保し続けてきた。」しかし、第2次安倍政権はテロ国家イスラエルとの関係を際立って強化した。先月の首相中東歴訪はその「象徴」だった。日本の歴代政権が積み上げてきたアラブ諸国・人民との良好な関係を破壊したものこそ「積極的平和主義」なのだ。
「対テロ戦争」の淵源
米・欧帝国主義を先頭にした世界的な「対テロ」戦争が常態化している。事態の解明に必要な視点はシンプルだ。誰が利益を得るのか、誰が戦争をしたいのか、だ。「有志連合」諸国の独占資本とそれに連なる国際金融機関、つまり戦争で利潤の極大化をめざす勢力だ。安倍政権が戦争を渇望するのも自国の資本家階級の要請による。
同時に戦争政策は、資本主義の窮地の裏返しにほかならない。過剰生産、拡大再生産の構造的矛盾に逢着している資本主義は、そこからの脱出を戦争に求めているからだ。
そもそも「イスラム国」が、米欧諸国の中東支配の産物であることは、いまやよく知られている。
現在の事態の源流は1978年のアフガニスタン四月革命にまで遡る。アメリカ帝国主義は、アフガン革命をつぶすために過激なイスラム主義勢力=ムジャヒディンを育成した。これらの勢力の中から後年アルカイダを形成していく一派が生まれ、またそこから現代の「イスラム国」に連なる勢力も出てくる。アフガニスタン戦争、イラク戦争、さらにはいわゆる「アラブの春」にいたるまで、一貫して帝国主義は自らの西アジア・中東支配に敵対する国家・勢力を叩きつぶすために、これらイスラム主義勢力を育成・利用してきたのである。
改憲・戦争政策を止めるために
今回の事件に関して、メディアの一部に「自己責任論」があるとはいえ、イラク戦争時の人質事件とはうって変わって『読売』、『産経』をはじめとした右派マスメディアは静かだ。事件を自衛隊派兵の口実とする安倍政権を援護するためだ。一方、「イスラム国」の残虐さを連日詳細に報道し、敵愾心を煽る露骨な世論誘導に躍起だ。
安倍政権は、事件後即座に「邦人救出」、「在外法人保護」を名目にした自衛隊派兵を打ち出した。それに伴う武器使用の拡大も含めた自衛隊法改悪を、5月の大型連休明けに提出する安保法制関連法案に盛り込むという。また「共謀罪」創設を含む組織犯罪処罰法改悪など、国内の治安弾圧体制づくりも「テロ対策」を口実に強められようとしている。
ついには明文改憲の具体的な日程までも打ち出してきた。2月7日に出された改憲「ロードマップ」原案によると、早ければ来年秋にも改憲を発議しようというのだ。現在の通常国会の会期中に改憲項目の絞り込みを始め、秋の臨時国会で選定を終えるという。来年の通常国会に憲法改正原案を提出、憲法審査会で審議を本格的に開始。参院選で改憲派が多数をとれば、その秋の臨時国会で改憲を発議。改憲の是非を最終的に決める、再来年中に実施するとしている。
来年度の日本の軍事予算は5兆円を超え、高額な戦闘機等の数年にわたるローン支払いもふくめれば、実質はさらに厖大となる。辺野古で建設が強行されている米軍基地は自衛隊の共用がねらわれ、与那国島の「離島防衛」名目の自衛隊強化が飛躍的に進められるなど、海外派兵を目標にした日本の軍事大国化が一気に進められようとしている。
いま、改憲・「対テロ」の濁流に抗して、わたしたちは何をすべきか。職場や学園、地域で個々ばらばらに切り裂かれ、無関心・既成事実の堆積の中で、戦争の真実を伝え、反戦・反改憲の意思を表すのは難しい。しかし、そこに蟻の一穴をあけるために力を尽くすことが時代の要請だ。
2月25日、全労協と壊憲NO!96条改悪反対連絡会議が主催し、「戦争させない!2・25学習決起集会」が開催される(詳細二面)。安倍政権の改憲・戦争策動を押し止める闘い、その理論的確信を強固にすることは現場の力になるはずだ。集会への参加を呼びかける。【米丸かさね】
(『思想運動』952号 2015年2月15日号)
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