安倍「積極的平和主義」がもたらすもの
仏紙襲撃事件と日本人人質事件をめぐって
権力への批判こそ「表現の自由」の要
パリで起きたイスラムの預言者ムハンマドを侮辱・風刺する画像を掲載した新聞社『シャルリー・エブド』襲撃事件とユダヤ系食料品店立てこもり事件を契機に、「イスラム国」(略称IS)やアルカイダ系ジハード主義者との「反テロ戦争」が、いまや欧州全土を被う合言葉となって響きわたっている。
慢性的な高失業率、年金支給条件の切り下げをはじめとする社会保障費の削減が強行され、持てる者と持たざる者の格差は拡大するばかり。
生きるか死ぬか、困窮する現実からの脱出口は見えず、閉塞感に押しつぶされそうな日々を送る労働者人民。しかしかれらは、自分たちにこの過酷な現実を強いている、利潤の極大化を目指す資本と各国政府という真の敵を、いまだ見定められずにいる。
移民社会欧州の底辺にあるムスリムの人びとへの差別と貧困から目をそむけ、かえってそのことが自らの生活の権利を奪っているとする不寛容な精神、排外主義が欧州全体を蝕んでいる。
こうした実情はフランスに限らない。1月25日に行なわれたギリシャ議会の選挙では、ファシスト集団「黄金の夜明け」が6.3%の票を獲得し、第三党の地位を占めた。ドイツでは、反イスラム・移民排斥運動が毎週定例デモの実施という形で組織的に展開されている。
そうした中で、ムスリムが敬愛する象徴的存在をあのような形で貶め、風刺しつづけることがどういう役割を果たすのかは、明らかではないか。それは「表現の自由」でもなんでもない。
権力者・支配階級を激烈に風刺した19世紀のパリコミューンの画家、ドーミエの批判精神こそ、われわれ人民の運動は受け継がなければならないのだ。
イスラムを敵にまわす安倍「価値観」外交
普遍的価値観(資本主義市場経済と搾取の自由を認めると読め)を共有する国ぐにとの協力を謳い上げ、これを「地球儀俯瞰外交」と自画自賛する安倍は、この2年間で50か国を訪問した。そうして第三次安倍政権の年初の訪問地に、中東のなかでも米国と友好関係にあり、イスラエルとも国交のあるエジプト、ヨルダン、そしてイスラエル、パレスチナを選んだ。
「イスラム国」への対応で連携し、中東地域の「安定化」に協力することで日本独占資本の中東進出とそのプレゼンスの拡大を後押しすること、それが安倍の狙いであった。
しかし、集団的自衛権行使容認を閣議決定し、日米同盟の名のもとに中東まで踏み込もうという安倍の「積極的平和主義」路線は、世間受けをねらってつけられたそのネーミングとはうらはらに、錯綜する思惑の下、帝国主義が育てつくりあげた暴力集団・ジハード主義者「イスラム国」を敵に回すという事態をまねいた。すなわち、「イスラム国」による邦人人質をめぐる脅迫事件の発生である。
安倍はエジプト訪問の際、「イスラム国」などと闘う「テロ対策」の一環として2億ドル(約236億円)の無償資金協力を表明した。そしてこれは、「過激派組織」の台頭でイラクやシリアを追われた避難民への人道支援策など「非軍事」に限った援助だと胸をはった。しかし安倍らがこれを、「イスラム国」がハイそうですかと受け入れると考えたとすれば、何たる政治オンチか。
「イスラム国」がこの発言を、自分たちを標的にした対テロ戦争への日本の参加ととらえたとしても、何の不思議もない。人質との交換条件として資金協力と同額の2億ドルが要求されたことからも、これは間違いない。
かなり前から2名の邦人の拘束の事実を把握し、「イスラム国」の動向も探っていたであろう日本政府が、安倍の中東歴訪のタイミングが狙われることを予測しなかったとしたら……、いやそんなことはありえないだろう。
安倍とネタニヤフのツーショット
パレスチナ自治政府は1月2日、イスラエルによる度重なる戦争犯罪(ガザ攻撃など)を裁くために国際刑事裁判所(ICC)に加盟申請した。
四月初旬には正式に加盟する見通しで、ICCは過去に遡って事前調査を始めている。孤立を深めるイスラエルと米国は、何としても安倍を抱き込みたかった。安倍もイスラエルとの連携を望んでいた。
日章旗とイスラエル国旗を背景にした安倍とネタニヤフが「テロ対策」の連携強化で一致した瞬間は、石油輸入などでこれまで築かれてきた中東における親日感情を破壊し、この地域における日本外交の大転換を表徴する場面であった。
「有志連合」への後方支援を許すな!
われわれは、今回の人質事件を奇貨として安倍政権がすすめるであろうさまざまな反動政策と闘う必要がある。そのためには、とりわけ、今回の事件発生の真因に口をつぐむマスコミの情報操作を見破る作業が不可欠である。権力にすり寄る最近のマスコミ報道は目にあまるものがある。
すでに、米国有志連合の「イスラム国」への空爆作戦への後方支援を念頭にした、「必要な支援活動を実施できるようにするための法整備の検討」が持ち出されてきている。
邦人救出のための自衛隊の活用論も出てくるだろう。安倍は、それらが憲法上可能だとし、自衛隊の海外派兵についても、特別措置法ではなく「切れ目のない対応を可能とする恒久法」の制定を目指すとしている。
北米および欧州ですすむ「テロとの闘い」、その背景として語られるイスラム過激派の横行論は、米欧帝国主義者たちが、自らよび覚ました怪物に脅える姿を示している。しかしわれわれは、これを米・欧のことと傍観者的に論じているわけにはいかない。
朝鮮・中国人民を罵倒する数々の声がマスコミ全体を、そして生活のあらゆる局面で、路上で、日常的に氾濫している。
差別・排外主義の横行は、世界資本主義の危機とともに全世界に拡大されている。ブルジョワ支配階級は、国内の民衆の不満の捌け口を外国にそらすことに全力をあげ、国家と民族を越えて労働者人民が団結することを極度に恐れる。
排外主義の流れに棹をさし、戦争への道を急進する安倍改憲内閣を打倒する闘いを、労働者・労働組合が先頭に立って闘い抜くこと、これこそが、われわれ日本の労働者階級に求められている国際的使命である。【逢坂秀人】
(『思想運動』951号 2015年2月1日号)
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