沖縄県知事選挙勝利の意義と総選挙に対するわれわれの基本的態度――広範な統一的大衆運動が知事選勝利の鍵
反独占・民主主義擁護の闘いを前進させよう


安倍政権の詐術


 辺野古の新基地建設反対の意思が明確に示された沖縄知事選に前後して、商業新聞各紙の一面では解散総選挙をめぐる見出しが並んだ。
 発足当初から安倍政権の「ミッション」は明確だった。本紙11月1日号の鎌倉論文に明瞭に分析されている通り、一握りの金融資本が主役を演じる日本資本の国際競争力強化と、そのための利益の最大化を、労働基本権への攻撃、税制、金融政策、社会保障・福祉の切り捨てで実現することである。そしてこれらを国内外に向けて「武力による威嚇又は行使」によって担保しようとしている。
 これが日本のブルジョワ階級の意思そのものである。安倍政権は、「さあ安倍よ、われわれが欲するものを持ってこい」との日本の大資本の要求に答えて労働者・人民を差し出すために必死に詐術を繰り返しているのだ。
 そんな安倍自民党が選挙で票を集めるのはおかしい。だが、それが現実となっている。それを可能ならしめているのは、大多数の人民が景気上昇が好循環をもたらし、労働者人民の実生活を「よりまし」にする「現実的」な方法なのだとみずからを信じ込ませているからだ。「アベノミクス」も、その伝統的詐術の一つである。
 2年足らずで早くも、経済指標、実感からしてこれが詐術であることが明白になっているにもかかわらず、日本の労働者・人民は騙され続けている。そして、自民の選挙ポスターには「景気回復、この道しかない」と存在しない「道」がゴシック体でデカデカと印字されるのである。
 人民が階級学説の立場にたって現実を見ようとしない限り、とりわけ労組の幹部が資本主義的思考の中でしか運動を構想できない限り、この詐術はかれらにとって有効なのだ。
 しかし、このやりたい放題の安倍政権にも行き詰まりが見えないわけではない。搾取を強化し人民の実生活を追い詰めれば、国内では貧困、麻薬やいじめ、○○ハラスメントなどの不安は増えるばかりとなる。将来に展望が見いだせない閉塞感を「自己責任だ!」と個人の内面に押し込めれば自殺が増え、社会的に押し込めようとナショナリズムを煽るために朝鮮と中国の「脅威」を演出すれば、外交政策で行き詰る。
 内閣再編でちょっと「リセット」と思いきや、極右と写真に収まる閣僚がいたり、政治とカネで相次いで辞任したり、戦争政策でも、集団的自衛権、秘密保護法のあまりにでたらめなやり方に、不評を買う。とうとう支持率は40%台までに低下した。そして沖縄知事選では辺野古基地建設反対派が勝利した。しかし、労働基本権剥奪を目玉にした「規制撤廃」や戦争法制の完成、そして憲法の破棄など積み残しの「ミッション」がある。
 このままでは民衆の幻滅感が蔓延し、やりたい放題が減速する。そうなれば2年後の任期切れには大敗ともなりかねない。そのリスクを天秤にかけて、ここらで解散選挙で「リセット」すれば、多少の議席減はあっても任期が4年間伸び、残りのミッションを成し遂げるには十分だと判断したのだろう。
 聞くところによると、官邸サイドでは年内解散を夏ごろから練っていたとの噂もある。その真偽はともあれ、小選挙区制の効果で、2012年衆院選では自民党の得票率は約四割であったにもかかわらず議席は八割を占めた。だから「支持率が40%台に低下」と報じられてはいても、想定内と「リセット」解散のカードを温めていたとしても不思議はない。

沖縄の闘いに学ぶ

 この状況の下、11月16日の沖縄県知事選において辺野古新基地建設反対を公約する翁長氏が、基地推進派の仲井真氏に10万票近い差をつけて勝利した意義は極めて重要だ。本紙でこれまで追っているように、1月の名護市長選での稲嶺氏再選につづき、沖縄の反基地の意思が明確に示されたのだ。移設阻止の闘いは安保体制、とりわけ日米地位協定の見直しにも直結する。
 安倍政権にとっても重要課題であり、沖縄選出の自民党国会議員に圧力を加えて県外移設公約を撤回させ、昨年末には3000億円交付金の見返りとして仲井真知事に辺野古基地建設を承認させてまで強行してきた。このアメとムチをも跳ね除けての当選である。
 沖縄での安倍政権の敗北は、戦争策動と労働者の権利剥奪しか打つ手がない安倍政権にとっては、何としても取り除かなければならない障害であり、われわれ日本人民にとっては守らなければならない砦だ。
 ここにも衆院選で問われるわれわれの運動の課題がある。何よりも沖縄の闘いにあって、本土にはない可能性は何かを見極めなければならない。
 それは本紙における名護市長選と都知事選の比較においても繰り返して論じてきた原則(2月1日号の広野論文、3月1日号の山下論文)を再度確認することでもある。
 今回の反基地運動の勝利は、オール沖縄体制といわれるように、革新政党までもが翁長氏を支持する形式的な相乗りだけでもたらされたわけではない。反基地・平和勢力の闘いがそれこそ切れ目なく闘われてきたことが、広範な統一的大衆運動へと結実した結果である。
 議会主義や有名人主義に頼ることなく、座り込みや建設阻止行動をも含めた取り組みが、活動主体どうしの連携と信頼関係を築き、結集軸をつくってきた、その背景には労働組合の果たした役割も大きい。
 そのように鍛えられてきた大衆運動の力量が、積み重ねられた思想が保守層をも大衆運動の側に引っ張り、選挙においても結果が表れたのである。ここが、本土において、安倍ファシズム政権と対峙しようとするわれわれの側に決定的に欠けている点ではないのか。
 2月の都知事選での動揺が「脱原発」をめぐる宇都宮・細川陣営への候補者一本化要請という動きにも見られたように、ポピュリスムに依拠し、党派どうしが足を引っ張り合う関係は、いまだ克服には遠い。都知事選でも、その運動側の弱点を突かれて分裂させられたのだった。同様の反省なき敗北は、これまでも何度となく繰り返されてきた。
 運動の側の力量がないままに、人気投票に依拠しようとすれば、逆に利用されるだけである。一人ひとりが生活や労働の現場で若干の勇気をもって考え始めるための運動を構想する方向に進んでいない。ただ「良心的」大衆を数としてしか見ないような運動のあり方ではどんなに力量を割こうとも前進はありえない。
 沖縄の現状にも困難はつきまとう。それは、一方からは統一戦線の成功として見える翁長統一候補の擁立も、他方から見れば、革新政党の統一候補が擁立できなかったという現実でもある。
 沖縄においても、かつて労働組合が前面に立って引っ張ってきた大衆運動が、連合の傘下に系列化される経過の中で、後景に追いやられ、それと並行して左派政党の影響力も薄れてきていることがここに表れている。したがって「オール沖縄」についても、いまは新基地建設反対の一致点で結集しているが、それと直結する安保体制やアベノミクス詐術に対する態度にも大衆運動の後退が今後影響してくるだろうし、安倍政権は当然その弱点を突いてくるだろう。しかし、言うまでもなく、この弱点は本土での闘いの混迷が沖縄にもたらしたものである。
 このような困難を抱えつつも、なお沖縄の闘いに可能性を見つけ、われわれは学ばなければならないと考える。それは内部に相違点を抱えながらも「反基地闘争」という具体的課題に根差して、連帯をつくり現実に勝利を一歩一歩進めている。そこには確かに、いまある困難を克服する可能性が存在する。

安倍政権に鉄槌を

 選挙に対する態度については本来なら、沖縄のように反安倍政権、反自公政権で一致する統一候補の擁立を主張するべきだが、われわれを取り巻く運動体の現状はそれを実現するには程遠い状況だ。
 したがってわれわれは、やはり「労働者階級を中軸とする反独占・民主主義擁護の統一戦線の強化に資する候補者・闘い方」を提唱する以外にはない。
 仮に安倍政権が本選挙で延命した場合には、戦争法制を一括で一気に成立させ、憲法の破棄まで突き進むだろう。その計画をかれらは着実に準備している。これに抵抗するためにも、小手先の集票術だけではない、選挙戦の闘い方の内実が問われている。
 独占資本とその政治的代理人たちは、ことの本質から目を背けさせ、問題をすり替え、社会的危機を労働者・人民に転嫁しようとする。資本主義体制の必然的危機を見抜くにも、そこからの展望を見据えるにも、階級学説の立場にたつ勇気をもつことを呼びかけよう。【藤原 晃】

(思想運動 948号 2014年12月1日号)