中国メディアにみる中国政府の安倍軍拡政策への見解
日本の「パンドラの箱」防衛白書を批判
中国外交部(外務省)報道官は、8月15日、中国政府が抗日戦争勝利の日の記念活動を開催することについてつぎのように語った。「日本帝国主義の侵略に立ち向かった中国人民の苦難に満ちた戦いを銘記し、侵略に反対し平和を守るという中国人民の堅い決心を示すため、中国全国人民代表大会は今年2月、9月3日を中国人民の抗日戦争勝利記念日とし、12月13日を南京大虐殺犠牲者国家公式慰霊日とすることを決定した」(『人民網日本語版』8月16日付)。
東京湾に停泊した米国戦艦ミズーリ甲板上で連合国と降伏文書を調印したのが1945年9月2日、英米中ソによるポツダム宣言を受諾(8月14日)し、当時中華民国国民政府の臨時首都があった重慶で抗日戦争勝利記念式典が開催されたのは9月3日であった。戦後、ソ連政府を始め旧社会主義諸国が定めた反ファシスト戦争勝利記念日(ロシア政府は後に2日に法改正)と同一日を確認することで「ドイツ・ファシズムと日本軍国主義勝利」70周年にあたる来年に中露合同記念事業が計画されている。
安倍政権の軍事政策の集大成
日本の非軍事化をふくめた戦後国際平和秩序の出発点となったポツダム宣言を敵視し、「戦後レジームからの脱却」をめざす第二次安倍政権はこの夏、今後の安全保障政策と防衛方針の重大な転換となる2014年版「防衛白書」を8月5日の閣議で了承した。
本稿では人民日報海外版コラム「望海楼」に掲載された記事「安倍政権が開けた『パンドラの箱』新防衛白書発表」『人民網日本語版』 8月7日付)を基礎に中国による新防衛白書批判の要点を紹介する。
新しい白書は安倍政権による軍事政策の集大成と見做されている。「日本政府が、昨年12月から打ち出した一連の安全保障・防衛方針による政策と体制の転換が反映され」、「初の国家安全保障戦略、新たな防衛大綱、中期防衛力整備計画、国家安全保障会議の創設、武器輸出の解禁、さらに七月の安全保障法制整備のための閣議決定、即ち集団的自衛権の容認が含まれている」。
安倍政権は、安全保障政策についての一連の調整によって複数の目的を一挙に実現しようと企図している。「米国と連携してアジア太平洋における主導的地位を取り戻し、日本に対する米国の軍事的な束縛を打破し、中国の戦略的な台頭を牽制するという目的である。集団的自衛権容認の閣議決定では依然として法的制約があるため、できるだけ早く憲法を改正することが安倍政権の中心的な課題となる。日本政府の了承した新たな防衛白書は、憲法改正実現のための準備の一つとなる」。
「脅威」の喧伝
再軍備と交戦権獲得を目指す安倍政権は、中国の台頭や海洋進出、軍事発展の不透明性を、周辺の「安全保障環境の悪化」の主要な内容と描いている。新防衛白書は、こうした「中国」への記述として「朝鮮半島」の17頁を上回る21頁を割いて「危機感を際立たせている」点が特徴である。白書は「わが国周辺海域における最近の中国の活動」「中国機に対する緊急発進回数の推移」「尖閣諸島(中国名・釣魚島及びその附属島嶼)周辺領海への中国公船の侵入回数」などの図表を配置し、悪意をもって「中国の脅威」を喧伝している。また東中国海と南中国海での中国の海洋活動が「既存の国際秩序と相容れない」と非難している。こうした記述は米国の打ち出す「アジア太平洋へのリバランス」政策と一致している点を指摘する。
「米国は長期にわたる地域レベルと世界レベルでの覇権を追求しているが、こうした能力は、世界経済のグローバル化と米国が発動した反テロ戦争によって瓦解しつつある。米国は自らの強権的な理念を反省することなく、世界中で一時しのぎの調整を行なってアジア太平洋地域での覇権を維持しようとしているが、これを持続させることは不可能だ」。こうして劣勢に立たされつつある米国が安倍政権にたいし戦略的なチャンスを与えたとみる。安倍とその周辺がそれを見逃すはずはない。にもかかわらず「集団的自衛権容認の三要件は説得力を欠いている」「米国は建国から二世紀余りにわたって、対外拡張や他国への攻撃を少なからず行なってきた。米国の軍事介入にはいかなる自衛性もない。だが日本はこれまで集団的自衛権を持っていなかったことから、米軍とともに他国に被害を与えることはできなかった。日本が戦後、平和を保ってきたと言えるのは、この制限があったためだ」と喝破している。
防衛白書に結実した安倍政権の野望
浅井基文・元日本外務省中国課長は、『人民日報』の取材に答えて、「集団的自衛権の行使を容認する安倍氏の閣議決定は憲法に違反する行為であり、少しも合法性がない」と論断している。ついに「パンドラの箱」は開けられたのだ。白書は、「領土や主権、経済権益などをめぐる、純然たる平時でも有事でもない、いわゆるグレーゾーンの事態が増加する傾向にある」と偽りを記し、「『統合機動防衛力』の概念、『水陸機動団』創設による離島防衛の強化、サイバー防衛隊の新編など、一連の重要な措置」を詳述している。またもうひとつの特徴として「各国との防衛交流・協力の強化、地域、多国間安保協力における日本の役割などに関する記述が大幅に増えたことだ。これは集団的自衛権の行使容認後、日本の地域に影響力ある軍事大国にしようと企てる安倍政権の野望を反映している」。
「日本が軍備を拡張し、防衛政策を見直し、平和憲法の拘束から脱するための世論づくり」に狂奔しているとき、近隣諸国からは「アジアの不安定要因と見なされかねない」と、『人民日報』紙は警鐘を鳴らしている。新防衛白書の公表、それは戦後69年目にあたって日本人民にも刃を突きつける両刃の剣だ。【逢坂秀人】
(思想運動 942号 2014年9月1日号)
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