<活動家集団 思想運動> 第46年度全国総会第一報告(部分)

資本主義の危機に立ち向かうわが会の課題と針路


6月21日、22日の二日間、都内で<活動家集団 思想運動>第46年度全国総会を開催した。以下の文章は、第一報告「資本主義の危機に立ち向かうわが会の課題と進路」(報告=広野省三・常任運営委員会責任者)の中の国内情勢に触れた部分に加筆・補正したものである。 【編集部】

日本独占には日本国憲法が桎梏に

最初に、日本帝国主義の現段階をどう見るかについて話したい。5月15日、安倍首相の私的諮問機関である安保法制懇は、集団的自衛権行使容認の報告書を安倍首相に提出した。安倍首相はその日の記者会見で、報告書の提言どおり閣議決定で行使容認を決めていく方針を表明した。これは日本国憲法第九条の戦争拒否の思想を根本からひっくり返す行為であり、そういう意味では「五・一五クーデター」と呼んでよい憲法破壊の歴史的暴挙だ。
しかしいま、安倍政権の軍事面での突出した動きが注目を集めているが、われわれはそうした面だけを見ていてはならない。税制、労働法制、社会保障、教育や文化、イデオロギーの面も含めた政治・経済・社会のすべての面で、戦後民主主義がかちとってきた成果をことごとく打ち壊す、日本国家全面改造計画が、安倍ブルジョワ独裁政権の下で、強権的に進められているのだ。安倍の唱える「戦後レジームからの脱却」「日本を取り戻す」というキャッチフレーズは、明確にそれを意識したものだ。
この攻撃は、先行して排外主義・ナショナリズム・日本主義が振りまかれるが、その根底には、多国籍独占資本=現代日本帝国主義の利害と総路線が存在する。資本主義の全世界化を暴力的に推進する世界帝国主義の機構の中にあって、帝国主義各国は、グローバルな新自由主義政策とナショナリズムという、一見矛盾した政策を不可欠のものとする。この二つは、ブルジョワ独裁の維持・強化のために、密接不可分の関係にあるのだ。
その背景には、資本間の激烈な国際競争戦がある。とりわけ2008年の「100年に一度の資本主義の危機」リーマン・ショックを経験したかれらには、この「戦争」を生き延びていくためには、日本国憲法を基軸とした戦後体制を打破する以外に道はないという強烈な危機意識がある。第二次大戦敗戦後、反ファシズム闘争を闘った世界人民の監視を受けつつも、アメリカ帝国主義の庇護の下資本主義的発展の道を歩み、世界第三位の経済力を持つまでに成長した日本帝国主義にとって、その権益を戦力によって守ることを禁止する日本国憲法は、もはや桎梏以外の何物でもないのだ。

戦争によって平和は確保できない

憲法改悪の道筋について、改憲勢力は一時期、96条の先行改憲を目指していた。しかし、公明党だけでなく自民党の中からも批判が出て、結局諦めざるを得なかった。そしていまは、集団的自衛権の行使容認という解釈改憲で、壊憲の突破口をこじ開けようとしている。この流れは解釈改憲だけにとどまりはしない。自民党の日本国憲法改正草案を読めばはっきりとわかるように、安倍たちは、国際平和主義、国民主権、基本的人権の尊重という日本国憲法の三大原則をすべて否定しようとしている。集団的自衛権行使容認の次に来るのが九条改悪、明文改憲ということを、われわれはしっかり押さえておく必要がある。
安倍政権は昨年来、国家安全保障会議を設置し、特定秘密保護法を成立させ、武器輸出三原則を撤廃させた。それと並行して、宇宙空間の軍事利用も画策している。軍事産業の育成、武器輸出三原則の撤廃=防衛装備移転三原則の策定をテコにしながら、多国籍独占企業の長年にわたる要望を受け入れて、日本における本格的な軍産複合体の形成・強化をめざしている。またこうした方向に見合った新防衛計画大綱や中期防衛力整備計画の改定作業も進められている。
安倍の言う「積極的平和主義」は、戦争によって平和を確保するという倒錯した論理だが、かれはそうした思考方法を東アジアにおける安全保障環境の変化(具体的には中国の脅威)を理由に挙げて、正当化しようとしている。しかし、憲法前文の「政府の行為によって、再び戦争の惨禍が起こることがないようにすることを決意し、ここに主権が国民に存することを宣言し、この憲法を確定する」との文言で明らかなように、日本国憲法は「政府の行為によって」戦争が引き起こされることを明確に禁じているのである。かれらはアジアの2000万人、日本国内の310万人の死を顧みることなく、「戦争によって平和を確保する」「国民を守る」といったデタラメな論を立てて、憲法破壊を強行しようとしている。

同時進行する最悪の外交・労働政策

外交においても、軍事大国化路線と軌を一にして、多国籍企業の利益を最優先する政策が展開されている。安倍たちは「地球儀俯瞰外交」と言っているが、大型の財界使節団を引き連れて、首相就任後短期間に、ものすごい数の外国を回り、トップセールスを繰り広げている。鉄道、高速道路、火力発電、工業団地、水道、港湾設備、医療施設、そして原発、さらに武器の輸出と、あらゆるものの売り込みに躍起になっている。武器輸出関係で言えば、フィリピンやベトナムへの巡視艇の供与や、インドとの飛行艇の共同開発などが報じられている。実際は武器本体の輸出よりも技術協力・共同開発が多いようだが、いずれにしても、武器輸出三原則を撤廃することで、相当の需要が生まれることは間違いないだろう。これも安倍流「成長戦略」の重要な一環なのだ。軍事大国化路線と一体となったイデオロギー攻勢も凄まじい。歴史認識問題、従軍「慰安婦」問題、靖国問題、そして尖閣、竹島のいわゆる「領土問題」を持ち出すことによって、ナショナリズムを最大限に刺激し、拝外主義を煽りたてる。最近の右翼雑誌の見出しを見ればわかるように、政府とマスコミがいっしょになって中国、朝鮮、韓国に対し、敵意に満ちたネガティブキャンペーンを行なっている。その背景には、中国の著しい経済発展や国際的影響力の拡大に対する日本支配階級の強烈な危機意識とねたみがある。すでに日本はGDPでは中国に抜かれて世界第二位から第三位に転落している。次にはインドに、さらにその次にはブラジルなどに追い抜かれるだろうという予測も出ている。
われわれは、ブルジョワ支配階級の現代世界構造認識を反面教師としながら、労働者階級の階級意識にもとづく、現代世界の科学的把握を、より精密にしていく必要がある。
イデオロギー政策の面では、教育への国家権力の介入が徹底して進められている。長年の教職員組合攻撃が「功を奏し」、労組の弱体化と相まって、教科書検定制度の改悪をはじめとした教育内容への露骨な政治介入が強化され、教育委員会を解体して上からの政策をストレートに教育現場に押しつける制度改悪も狙われている。
経済対策についても、多国籍独占企業に有利な政策が矢継早に打ち出されている。復興特別法人税の一年前倒し廃止、法人税減税、各種優遇税制、ベンチャー企業と大企業との連携強化等々。4月に消費税率が8%に引き上げられたが、それによって得られる凄まじい額のカネが巨大企業へ還流する仕組みがつくられている。消費税については、将来的に10%、15%、20%と「欧州並み」に引き上げるというのが、独占資本の狙いだ。
日本の労働者階級が確固とした闘争司令部を持たず、階級としての意識を解体させられ、敵の攻撃への警戒感・危機感を欠落させている状況下で、戦後最大の労働政策・労働法制の改悪が進められようとしている。労働者派遣法のたび重なる改悪によって、いまや非正規労働者は2000万人を突破、全労働者の40%目前にまで増大している。年収200万円以下の労働者は1000万人を超える。300万円以下は40%以上。年収400万円以上の労働者をつくらせないというのが、日本の資本家たちの基本路線だ。
こういった攻撃によって、労働者の生活は急速に破壊され、結婚ができない、子どもをつくれない、つまり世代的再生産が成り立たない状況が生まれている。さらにこの攻撃は労働者の闘争基盤の解体をももたらしている。労働組合への加盟人員が減り、各種の集会・学習会・行動に参加するための時間もカネも、そして気力そのものを奪われた労働者が急増しているのだ。支給額が減らされ、不安定な年金生活の高年齢者は、なにをかいわんやである。
勤労人民の生活破壊は少子化傾向をいっそう加速させている。今後日本の人口は急激に減少していき、2060年の人口は現在の30%減で8674万人になるとの試算がなされている。2040年には全国の1800市町村の半分が消滅するとも言われている。

安倍政権・日本支配層は盤石ではない

先日、経済同友会の冨山和彦副代表幹事のインタビュー記事を読んだが、かれは次のように述べていた。
「法人税減税が効くのは、グローバル経済圏で活動する企業だけで、製造業とIT産業がほとんど。外貨はここで稼ぐしかなく、日本経済を持続的に成長させるため、世界トップレベルの経営環境を作るべきだ」「日本は団塊の世代の退職を背景に世界有数の人手不足の国になっていく、労働力が足りないのだから競争力のある企業に雇用、事業を集約したほうがいい。生産性の低い中小企業に穏やかな退出を促すべきだ」。こういう発想によってすべての政策が組み立てられているのである。
政府・独占の労働者人民に対する露骨な攻撃を見ると、かれらの支配は盤石なように思えるが、決してそうではない。攻撃の激しさは、裏を返せばかれらが陥っている危機の深さを物語っている。このまま進んでいけば、いずれ重大な破綻をまねくことは歴史が証明している。現実を見てもいたるところでほころびが出はじめている。
けれども、それを糊塗し、矛盾を人民の肩へ転嫁しながら、かれらは生き残りをはかる。権力に刃向かう者に対しては強権的に弾圧し、また巧妙に懐柔し、その力を削いでいく。このブルジョワ独裁体制をどうひっくり返していくのかが、われわれに突きつけられている。
世論調査というのはいろいろと批判的に考えてみなければいけない面があるが、たとえば「朝日新聞」の5月の調査では、集団的自衛権の問題では、行使は「反対」が55%で、「安倍のやり方は適切ではない」が67%。原発の再稼働反対が59%という数字が出ている。「安倍政権を支持しますか」という問いに対しては「支持する」が49%と、支持率は50%を割り込むようになった。
もともと安倍政権が国会で三分の二の議席をとったのは、小選挙区制の効果と民主党の無能無策によってである。民主党が人民からの大きな反発を受けて退場した。しかしそれに代わって労働者人民の未来を託せる政治勢力が存在しない。安倍たちが政権を握れたのはこの状況のせいである。小選挙区制ではなくて、中選挙区制ないし完全比例代表制だったなら、あんな数にはならなかったことははっきりしている。安倍・自民党への支持は圧倒的と言われているが、そんなことはないのである。

体制内での抗議を超える大衆運動を

石原伸晃環境相・原子力防災担当特命大臣が福島の現地住民を愚弄する「最後は金目」発言をした。これなども安倍政権の驕り、弱点の一つの現われであるが、情けないことにこんな破廉恥な発言をした閣僚を人民の側の力が弱くて辞めさせられない。このことにも示されるように、いま何よりも問われなければならないことは、運動主体の問題だ。
集団的自衛権行使容認反対の抗議行動等で首相官邸前に行くことがたびたびあったが、そこでは警察の「規制」の下でほとんど抗議らしい抗議ができない、そうしたパターンが定着してしまっている。安倍政権の側が公然と憲法違反をやっているのにもかかわらず、われわれ人民の側は権力の都合にあわせた「合法」の枠内でしか発言したり行動したりできない状況に置かれている。
日本共産党や社民党をはじめ労働組合や市民運動の指導的部分においても、安倍政権の全面的な改憲攻撃、戦後民主主義全否定の攻撃の意味を正しく捉え、その総体と対決するという理論的押さえと、実践的闘争方針が決定的に弱いと思う。
運動の核をどう再形成していくのか。これは日本の労働運動の数十年来の課題でもあるが、いままさに安倍が集団的自衛権行使容認を閣議決定し、戦争する国づくりを公言しているときに、それを阻止する大衆運動の再生とその中から鍛えぬかれて出てくる運動指導部の形成は、文字通り待ったなしの課題である。
わたしたちは現在、労働組合が中心となって組織している「壊憲NO! 96条改悪反対連絡会議」の一翼を担って運動を進めている。今秋十月十七日、「戦争をさせない東京1000人委員会」が主催して、東京・日比谷公会堂を会場に改憲阻止の労働者集会が計画されている。「壊憲NO!96条改悪反対連絡会議」もこの集会の成功に向けて全力をあげて活動をしている。労働者・労働組合の部隊が2000人規模でこの集会に結集することは、今後の改憲反対運動、あるいは安倍政権が繰り出すさまざまな反動政策と対決する拠点を築くうえで、非常に大きな意味を持つ。
安倍たちは集団的自衛権行使容認を閣議決定させたあと、さらにそれを具体化する関連法案の整備を進めていくであろう。年末にはこれと連動した日米ガイドラインの改定が強行されようとしている。今秋には福島・沖縄の知事選も控えている。辺野古新基地の建設や川内原発再稼働が強行されようとしている。これらの動きを見据えながら、全戦線で安倍政権と闘っている人々と連帯し、われわれは10月17日の日比谷公会堂での壊憲に反対する労働者集会の成功に向けて、全力を尽くそう。【広野省三】

(『思想運動』941号 2014年8月1日&15日号)