資本の利潤追求の手を縛る枷の打破狙う
残業代ゼロ・限定正社員にNOを!
安倍内閣は6月24日、経済財政運営と改革の基本方針=「骨太の方針」と「新成長戦略」を閣議決定した。新成長戦略が「日本の『稼ぐ力』を取り戻す」と謳っているように、法人実効税率の20%台への引き下げや混合診療の解禁、営利企業の農業参入緩和など資本の儲けを目一杯保証する「世界で一番ビジネスをしやすい」環境を作り出そうとする一方で、消費税の10%への引き上げ、医療・介護・年金の社会保障の大幅削減、配偶者控除の縮小など勤労人民への遣らずぶっ手繰りの収奪策が並んでいる。商業新聞ですら、「企業後押し」(『朝日』)のメニュー、「経済界、前進を評価」(『日経』)と評する代物なのである。
安倍が閣議決定後の記者会見で、「成長戦略にタブーも聖域もない。いかなる壁も打ち破る」と「岩盤規制」の打破を息巻いた鉾先の一つが「多様な働き方を実現する労働制度改革」=労働法制の改悪、規制緩和だった。労資関係で資本の自由な利潤追求の手を縛る枷を可能な限り取り払おうというのである。新成長戦略は、今後三年間を「雇用環境改善のための集中改革期間」と位置づけ、①労働時間と賃金のリンクを切り離した「新たな労働時間制度」、②対象範囲や手続きを見直す「裁量労働制の新たな枠組み」、③柔軟でメリハリのある働き方を可能にするフレックスタイム制の見直しを次期通常国会で法制化するとともに、職務等を限定した「多様な正社員」の普及・拡大を進めるとしている。
「新たな労働時間制度」が、積年の労働者階級の闘いで確立してきた8時間労働制の原則を根底から突き崩し、成果で競わせて無際限の長時間労働を強制する「残業代ゼロ・過労死促進」制であることは言を俟たないが、新成長戦略が想定する要件=「少なくとも年収1000万円以上」「職務の範囲が明確で高度な職業能力」について、財界は早くも対象者の拡大を要求している。6月に新たに就任した榊原日本経団連会長は会見で「少なくとも全労働者の10%程度は適用を受けられるようにすべき」「どこまで対象職種を広げられるか監視したい」と注文をつけた。四月の産業競争力会議で「新たな労働時間制度」を提案した長谷川経済同友会代表幹事も会見で、現行の裁量労働制は「さまざまな使い勝手の悪さもある」から残業代ゼロ制を導入すると本音を包み隠さず語った。
労働者派遣法や労働時間法制改悪の歴史は、政府独占お得意の「小さく産んで大きく育てる」手口だった。最初は限定されていても蟻の一穴、次々と拡大されていくことは必至だ。
労働力を切り売りする賃労働の価格=賃金は時間でしか測りえない。そのリンクを断ち切る残業代ゼロ制は、労働者の全生活、全人格を資本が支配・包摂しようとする、資本主義から封建制、いや奴隷制への逆行だ。絶対NO!の声をあげていこう。
「多様な正社員」=限定正社員を普及させる方策を検討するため厚生労働省が設置した有識者懇談会が7月11日にまとめた報告書は、その狙いを率直に語っている。普通の正社員と非正規の中間にある働き方と位置づけ、正社員と限定正社員を相互に行き来できる仕組みを作り、賃金水準は正社員の8~9割というのである。職種や勤務地を限定することで、事業所閉鎖や部門再編で仕事がなくなれば解雇することを労働契約に明記することも求めている。正社員より安上がりに雇用でき、容易に解雇もでき、正社員並みのノルマと残業が要求される「名ばかり正社員」なのだ。三層構造で分断と競争を煽る限定正社員制導入に反対していこう。
【沢木 勇】
(『思想運動』940号 2014年7月15日付)
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