安倍政権の「新成長戦略」混合診療一部解禁は格差医療
これは国民皆保険制度崩壊の一里塚                  

安倍首相は、6月10日、日本医師会や患者団体の反対を押し切って、保険診療と保険外の自由診療(全額自己負担)を併用する「混合診療」を大幅に拡大し、患者の申し出を重視した新たな仕組みを作ると表明した。患者の要望に基づき「治療を受けやすくする」のは口実で、混合診療の拡大を「新たな医療」「革新的な新薬や医療機器の開発・需要」の促進という医療産業の成長戦略の目玉にする思惑が本音である。安倍首相は、医療・製薬業界の要求に応え、安倍内閣の「成長戦略」に盛り込み、来年の通常国会に関連法案を提出する構えである。
新たに導入する「患者申し出療養制度」では、「混合診療」を認めるかどうかの審査を大幅に短縮し、前例のある場合は二週間で、前例のない場合も六週間で判断するとした。受診できる医療機関も現在一部の大学病院に限られているのを拡大し「リスクの低い治療」については身近な医療機関でも実施できることにした。混合診療の拡大に反対していた日本医師会、日本歯科医師会、日本薬剤師会は、これを容認すると表明し、横倉義武日医会長は、「一定の安全性と有効性が確認できた治療法に限定され」「最低限の担保がされた」と述べた。しかし、その日本医師会は「『混合診療』の導入は現物給付制度の否定に他ならない。そして現物給付の否定は、公的医療保険給付の縮小をもたらし、必ずや患者負担の増大につながる」とし、「現状において『混合診療』を容認する合理的理由はない」と、明確に反対してきた。横倉日医会長の発言は、目先に捉われ原則を失っている。
そもそも、混合診療の出自は、政府の低医療費政策(医療費への国費投入抑制)と米国通商代表部を通じた米国医療保険資本による日本の医療の市場開放(公的保険制度の破壊)要求である。混合診療はこれからの問題ではない。
世界一優良といわれる日本の皆保険制度には、これまでにもさまざまな形で自己負担が取り入れられてきた。現在保険診療と併用が認められている療養には「評価療養(保険導入のための評価を行なうもの)」と「選定療養(保険導入を前提としないもの)」があり、前者には先進医療など7種類があり、後者には10種類がある。つまり特別な療養環境(差額ベッド)、歯科の合金など、金属床総義歯、予約診療、時間外診療、大病院の初診、大病院の再診、小児う蝕しょくの指導管理、180日以上の入院、制限回数を超える医療行為が保険給付から外され自己負担となっている。また入院中の食費は、ホテルコストという名目で保険給付から外されてしまって久しい。窓口3割負担が普通になり、保険料負担の増加やさまざまな保険外負担が増えた。保険証があればいつでもどこでも平等で良質な医療が受けられる日本の医療は空洞化し、人々は外資系のがん保険や医療保険の顧客となっている。
その状況で、さらに混合診療が拡大され、医療の営利化に道を開けば、日本の公的医療保険制度が最終的に息の根を止められることは間違いない。混合診療の全面解禁や医療の営利化は、国民総医療費の増大を招き、政府の医療費抑制策と矛盾するので一気には進まない、という意見もある。しかし政府の医療費抑制策の本質は、総医療費への国費の支出の抑制であり、人びとの医療費負担が増えることなど眼中にないことは明白だ。医療資本にとって医療も病気も患者もすべて商品であり、そこから利潤を貪るのがかれらの業である。混合診療の一部解禁は必ず全面解禁につながり、日本の皆保険制度を空洞化し、医療格差を拡大し、大量の医療難民を生むことになるだろう。どのような混合診療も認めるべきではない。 【岡本茂樹】

(『思想運動』940号 2014年7月15日付)