平和主義を破壊する安倍政権
集団的自衛権行使容認を許すな!
安倍首相の私的諮問機関に過ぎない「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」(安保法制懇)が、お手盛りの報告書なるものを安倍に提出し、これを受けて筋書きどおりに武力で他国を守る集団的自衛権の行使を憲法解釈の変更によって推し進める「基本的方向性」を記者会見(5月15日)で表明して二週間が過ぎた。この間、自民・公明両党による与党協議では、「年末の日米ガイドライン見直しに間に合うように」と自民党が「協議の結果、憲法解釈の変更が必要となったら、改正すべき法制の基本的方向を閣議決定する」(『朝日新聞』5月21日付)と息巻くが、建前としては「平和の党」という党是を掲げ支援団体「創価学会」から圧力をうける公明党は、議論を進めるうえで合意した三つの目くらましの議題設定、①「グレーゾーン事態」②「駆けつけ警護」③「集団的自衛権の行
使」、の協議において難航が予想され特に③については平行線といってもよい。
5月28、29日とあった衆参両院の国会論戦では、党として集団的自衛権行使を決めた日本維新の会、中国の軍事力増強を指摘し、議論じたいが抑止力の向上に繋がるとうそぶくみんなの党、安全保障政策が党内で集約しきれていない野党第一党の民主党と精彩を欠いているのが顕著だ。こうして立憲主義を否定する解釈改憲の暴挙、一内閣の閣議決定によって、憲法九条の平和主義の精神を葬り去ろうとする安倍政権の「積極的平和主義」の正体を暴露しなければならない。
憲法上認められる自衛権とはなにか
歴代自民党政権による拡大解釈の経緯は、朝鮮戦争時(1950年)の警察予備隊、保安隊(52年)を経て54年に、自衛のための必要最小限度の実力組織として自衛隊を創設するにあたって、憲法九条は「戦争の放棄」と「戦力不保持」、「交戦権の否認」を定めているが、自衛権の放棄まで定めたものではなく、従って自衛隊は第九条第二項でいう「戦力」に該当しないとした(鳩山一郎内閣の政府統一見解)。これが72年の田中角栄内閣時の政府解釈、憲法前文と13条の趣旨を踏まえ「自国の平和と安全を維持し、その存立を全うするために必要な自衛の措置をとることは禁じられていない」に結びつく。(72年解釈)
いわゆる「集団的自衛権の行使」について、歴代内閣は憲法九条に反すると解釈してきた(72年解釈も同様)が、今回の安保法制懇の行使容認を求めた提言を受け、この72年解釈を引き、安倍首相は従来の政府の立場を踏まえたものだと説明した。自衛権=集団的自衛権というこんなデタラメな論理の飛躍があるだろうか。われわれは、憲法前文の「全世界の国民が(中略)平和のうちに生存する権利を有する」という国民的な生存権から発する自衛権は、主権者である人民より国家を上位に置いた「国家の自衛権」を看取する歴代政府見解とは異なり、主権者(人民)の自衛権、それは支配権力にたいする人民の抵抗権としても理解する。その意味では、主権者(人民)の自衛権においては「集団的自衛権」はあり得ないと考える。
安保法制懇報告書の国際情勢認識
安保法制懇報告書は、「Ⅰ.憲法解釈の現状と問題点」の「2.我が国を取り巻く安全保障環境の変化」(『朝日』5月16日付)の項で、2008年の第一次報告書と比べて、安全保障環境は一層厳しさを増していると六点の変化を指摘する。そのことによって解釈改憲の必要性が生まれたと結論づけるのである。
「変化の規模と速度に鑑みれば、我が国の平和と安全を維持し、地域及び国際社会の平和と安定を実現していく上では、従来の憲法解釈では十分に対応することができない状況に立ち至っている。」
08年報告書からの大きな変化の特徴は、朝鮮脅威論以上に、アジア太平洋地域における領土をめぐる緊張を挙げ中国脅威論を浮上させている点だ。それは台頭する中国の影響力と国防費の増大、強大な中国軍登場の趨勢に警戒感を露に示している。「領有権に関する独自の主張に基づく力による一方的な現状変更の試みも看取されている。」
このような地域のリスクの増大に対処するため日本の役割をことさら強調している点にも、集団的自衛権行使「限定」容認の世論づくりの魂胆が透けてみえる。安倍が首相会見で、参戦を前提とする集団的自衛権行使を認める理由に「抑止力」をあげていたが、こうした論理こそ戦争にまきこまれる危険をともなった「火遊び」であると言わなければならない。
22日には、国内初となる陸海空三自衛隊合同による離島上陸・奪回訓練が公開されたが、尖閣諸島を標的に「日本版海兵隊」を創設する準備が着々と進められている。集団的自衛権行使容認の先には米軍と一体化した海外展開を念頭に置いているのである。
5月20日から26日の間、東シナ(中国)海では中国海軍とロシア海軍の合同軍事演習「海上連合2014」が実施された。合同軍事演習中の24日、東シナ(中国)海の日中の防空識別圏の重なる空域で、中国機が日本自衛隊機に「異常接近」したと日本メディアが報じた。この報道に対し中国国防部は中露海上軍事演習にたいし偵察と妨害をおこなった自衛隊機にたいし「演習に参加する艦艇や航空機の安全を守り、演習の順調な実施を確保するため、中国軍機が緊急発進し、必要な識別と防備の措置を講じた。」(『人民網日本語版』5月26日付)と日本政府に抗議する談話を発表した。
こうした一触即発の事態を回避する信頼醸成措置が講じられなければならない。その観点からも「抑止力論」は危険な賭けでもあり、集団的自衛権行使を許してはならない。
「必要最小限」という言葉の魔術
当初、通常国会中の解釈改憲への閣議決定が危惧された集団的自衛権行使容認をめぐっての攻防は、世論の動向を睨みながらもまさに正念場を迎えようとしている。
池上彰の集団的自衛権と世論調査に関する「新聞ななめ読み」(『朝日』)の以下の記事「国民の迷いが伝わるか」が興味深い。
最新の世論調査によると、『朝日』・『毎日』・『共同通信』・『日経新聞』+『東京新聞』のデータでは、集団的自衛権行使容認反対が賛成を大きく上回っている。一方、『読売』・『産経』+FNNの世論調査では賛成が圧倒的となって逆転している。前者と後者のグループの違いは、前者が賛成か反対か二者択一の質問、後者は「必要最小限の範囲で使えるようにすべきだ」という質問を紛れ込ませ三択にしている点だ。「必要最小限」という言葉の魔術に騙されているのだ。「『最小』という言葉はなにか小さいもののような響きがある。しかし戦争における必要最小限度の武力とは、勝つために必要な武力のことである。」(ダグラス‐ラミス)
安倍首相の記者会見、国会答弁にもこうした姑息な手法が多用されている。さらにNHKの世論調査では三択で、「どちらともいえない」を加えて、これが一番多くなったとのことだ。池上はNHK出身者らしくここらあたりが妥当だとほざいているが。ポツダム宣言にはじまる戦後国際秩序に真っ向から挑戦し、戦後レジームからの脱却をめざす安倍政権を打倒する広範な大衆運動の戦線を築こう。さしあたっては、「戦争をさせない1000人委員会」の「戦争をさせない全国署名」6月12日提出に向け、日比谷野外音楽堂での集会に結集しよう。【逢坂秀人】
『思想運動』937号 2014年6月1日号付)
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