高市の「台湾有事」発言を糾弾する
公然たる中国への再侵略宣言

11月7日の衆院予算委員会における高市の「台湾有事」発言は、中国へのあからさまな内政干渉であり、集団的自衛権行使(明白な憲法9条違反)による中国への再侵略戦争を公然と予告したきわめて悪質かつ重大な発言であり、われわれは断固糾弾する。
歴代首相として初めて台湾問題への軍事介入の可能性に言及した暴言は、近年における安倍元首相の妄言「『台湾有事』は『日本有事』」(2021年12月)、「日台米、闘う覚悟が台湾海峡の抑止力」(麻生自民副総裁2023年8月)よりも踏み込んだ発言である。現役首相の国会での答弁であり単に言葉を滑らせたとして発言を撤回すれば済むという問題ではない。即刻退陣すべきだ。
サンフランシスコ平和条約における日本の台湾及び澎湖諸島の放棄に対し、戦後、未解決の問題として惹起されたのは、帰属先を明記せず係争問題としたことである。国共内戦における中国共産党の勝利による中国革命の成就(1949年)と国民党の台湾への撤退、朝鮮戦争を契機とした米帝国主義陣営による「共産中国」封じ込め政策によって「二つの中国」問題が出現した。その後70年代に米中が接近し、日中共同声明(1972年)が出された。田中角栄政権は、「台湾が中華人民共和国の領土の不可分の一部」であることを尊重すると約束し、「ひとつの中国」原則を承認したのである。そこには日本軍国主義の中国侵略戦争の歴史にたいする不承不承の〝反省〟があった。日清戦争の賠償として台湾を盗み取り、台湾霧社蜂起を虐殺で沈黙させ、「守れ満蒙=帝国の生命線」と嘯き、「日本民族の血と汗の結晶!特殊権益断じて侵害を許さず」(『東京日日新聞』1930年10月)と、「満州事変」(31年)、そして日中全面戦争(37年)に突入していった中国侵略の歴史の教訓が顧みられなければならない。
中台問題は両岸問題であり、将来の統一を目標とする問題である。高市発言は、台湾独立勢力に媚びを売り中国の「核心的利益」中の「核心」を侵害する内政干渉だ。この発言を「日中間の合意、約束に対する重大な違反・挑戦」としてぜったい容認しないという中国の立場は当然だ。この間の経緯を振りかえる。
・11月7日高市国会答弁
・8日薛剣駐大阪総領事のSNSへの投稿
・11日自民党薛氏国外退去の決議を首相官邸に提出
・13日中国外務次官が金杉駐中国大使に抗議
・14日船越外務事務次官が薛氏の投稿について駐日中国大使に抗議
・15日中国外務省訪日自粛呼びかけ
・16日中国教育省が日本留学の慎重検討を勧告。
・18日金井局長、中国外務省アジア局長協議
・19日中国、日本水産物の輸入停止
・20日中国国際航空、日本便の減便
これをみると、2010年の「中国漁船衝突」事件、12年の「尖閣国有化」の際に行なった、対日レアアース輸出停止、日本製品の通関検査強化や不買運動、反日デモと同様に、段階を踏んで日本政府の非を正そうとする中国政府の姿勢が伺える。
ウクライナ、ガザ事態の背景にある国際情勢の根本的変化は、米帝国主義の覇権の衰退とそれを軍事力によって補おうする米国戦略の展開、抬頭するグローバルサウスとともに多国間主義によって歴史の新しい段階を切り開こうとする中国・朝鮮・ロシアの関係強化に現われている。高市政権は帝国主義の後退を防ごうと前のめりになっている。この数年、対中戦争を想定した合同軍事演習、沖縄・南西諸島を中心に日本列島全体で戦争準備が着々と進められている。そして今、右翼ポピュリズムの台頭という流れにも乗って、高市政権は、軍事費大幅増額、安保3文書改定、防衛装備移転制度の改悪、非核三原則「見直し」など、安保法制における集団的自衛権行使容認という安倍の強行した戦後平和憲法の切り崩し路線を忠実に継承し、戦争国家化を完成にまで押し進めようとしている。戦前と同じようにそれに手を貸すメディア、政治家、評論家の発言の悪例は枚挙して余りある。薛剣総領事の日本の侵略再現への強い警告の裏には、現役首相の「中国に戦争を仕掛ける」という発言にたいして、日、独、伊が国際連合においていまも「敵国条項」対象国であることを再認識させるという意図があった(7面墨面論文参照)。侵略者はかつての蛮行を忘れても、生命を奪われた人びとの記憶は決して忘れられない。

【逢坂秀人】
(『思想運動』1119号 2025年12月1日号)