中東を燃やしているのは誰か
イスラエル・アメリカのイラン爆撃批判

「現代のヒトラー」はシオニストたちだ

イスラエル国家はイランに対する長年の侵略を一夜にして激化させ、パレスチナ人大量虐殺、レバノン侵攻、シリア体制転覆と続く中東の戦争を拡大した。ネタニヤフはイラン爆撃を「イランの核兵器開発が差し迫った脅威であり……、今回の攻撃は自衛のための先制措置である」として正当化しているが、爆撃の標的は核施設だけではなかった。軍将校や核科学者に加えて、住宅地やジャーナリストも標的にされたのであり、生放送中のテレビ局への爆撃をシオニストは「イラン政権の宣伝と扇動に責任をもつ放送局を攻撃した」とまで言っている。犠牲者の大半は民間人である。そもそも国際原子力機関が認めるようにイランに核開発の事実はなく、仮にその事実があったとしてもシオニストの爆撃はイランに対する侵略戦争以外の何ものでもない。ネタニヤフはイランのハメネイ師を「現代のヒトラー」と言っているが、むしろ現代のヒトラーやゲッベルス、ゲーリングはイスラエルの側にこそいる。ネタニヤフ内閣の面々ほど、ヒトラーの髭だとかニュルンベルク裁判の被告席だとかが似合う人たちもいないだろう。
そして、この数日後、アメリカ軍がイラン直接爆撃を開始し、侵略戦争をいっそう激化させた。そもそもイスラエル軍がイランに打ち込んだ暗殺用の精密兵器ヘルファイヤミサイルを大量に供与したのもアメリカ政府であり、トランプは「攻撃開始の日時を知っていた」と各紙に語っている。いま、トランプはイラン政府に「完全な降伏」を迫っているが、ヨーロッパとソ連を侵略したヒトラー、アフリカを侵略したムッソリーニ、アジアを侵略したヒロヒトの系譜に連なる平和に対する罪人がここにも存在するのだ。

危機深まる現代世界のなかのイラン侵略

現在の中東の戦争は単にシオニストが仕掛けた地域紛争というわけではない。世界史の総体的な動向のなかで生じている事態なのである。そこでは、このエスカレーションにおけるアメリカ・イギリス・イタリア・カナダ・ドイツ・日本・フランス・EUの帝国主義諸国からなる「G7」の責任が問われねばならない。「G7」はカナダのサミットで声明を発表し、イスラエル支持を表明、「イランは地域の不安定および恐怖の主要な要因である」と主張した。しかし、中東全体に恐怖を与えているのはイランではなく大量虐殺国家イスラエルであり、何よりもその後ろ盾である「G7」自身なのである。
元来、アメリカを中心とする帝国主義諸国は、1970年代後半以降、新植民地主義の傀儡政権・パーレビ王制を革命で打倒したイランの反帝民族解放闘争を圧殺すべく、イラクのフセイン政権を差し向けて戦争を仕掛け、また同時期に成立したアフガニスタン四月革命との摩擦を煽りつつ、あの手この手でイランの反帝政権の孤立や破壊を試みてきた。ただ、その延長に事態をとらえるだけでは十分ではない。「G7」の先進資本主義諸国は、過去半世紀の利潤率の低下のなかで、過剰資本のはけ口を、中国を含む第三世界への海外投資と金融市場への投機的な進出に求め、国内の製造業への投資を減少させてきた。その結果、「G7」は、「冷戦」体制崩壊後に少数の先進資本主義諸国が第三世界に旧社会主義圏を加えた世界の大多数を収奪するという「新世界秩序」を構想し、それを一定の範囲で実現させたものの、自国の工業生産力を空洞化させて生産面における優位を失い、また2000年代後半以降には金融危機に直面したのである。そうして、経済的な覇権を喪失しつつある帝国主義諸国は、いま、軍事力における圧倒的優位を利用して、工業生産力で「G7」を凌駕しつつある中国とその他の自律的に発展しようとする第三世界諸国を封じ込め、さらにはそれらの国々の体制を全面的に転覆しようとする誘惑に駆り立てられているのだ。それは衰退しているからこそ危険なのである。この過程のなかに今回のイラン爆撃も位置づける必要がある。つまり、帝国主義諸国はイランの政権転覆を長年にわたって追求し続けていると同時に、新たな戦略のなかでますます攻撃的になっているのである。そして、この巻き返し戦略のなかでイスラエル国家は、ハマスやPFLP、DFLPといったガザの抵抗勢力から、イランの反シオニズム政権やレバノンのヒズボラ、イラクの民兵組織と議会、イエメンのアンサール・アッラーまでを含む「抵抗の枢軸」と呼ばれていて、昨年の中国でのパレスチナの14団体による「北京宣言」発表をはじめ、社会主義諸国や他の第三世界勢力とも友好関係を築きつつあるアラブ反帝民族解放勢力を、軍事的に圧殺する役割を担っている。
ガザにおける約6万名の死者、手や足など身体の一部を奪われた人も含む13万名の負傷者、190万名の避難と追放、住居から学校や医療機関を含む17万棟の建物の破壊、4000万トンの瓦礫……、これが帝国主義の軍事戦略がもたらしているものである。これこそ「われわれが戦っているのは残忍なイスラム政権。いまこそイラン国民は団結し、自由になるために立ち上がるときだ」と言いつつ、かれらがイラン人民にもたらそうとしているものである。そして、それまで住んでいた場所に死屍と瓦礫が敷き詰められる破滅の瞬間は、地球上のあらゆる地域で近づいているのである。火のついたダイナマイトの導火線はまたひとつ短くなり、刻一刻と炸裂するときが近づいている。いや、これまたひどく能天気な見方にすぎず、すでにダイナマイトは炸裂し、第三次世界大戦はもう始まっているのかもしれないのだ。

いかに世界諸人民の運動に合流するか

いま、何よりも大切なのは、個々の事態を全体的連関のなかでとらえる理性をみずからのものとすることであり、その理性につらぬかれた平和を求める叫びを拡げるための行動に立ち上がることである。この危機を阻止できるのは、世界諸人民の、多様多彩に組み立てられながらも事態の真の要因と対決する方向に合流・統一してゆく連帯以外にない。「地域の不安定および恐怖の主要な要因」の認識を誤らせて「真理」をコントロールし、反戦平和運動さえも戦争翼賛運動に変質させようとする「G7」諸国とその報道機関の試みに対して、わたしたちは理性でもって対決しなければならない。
求められるのは、人民大衆の理性であり、行動である。自分たちが世界を動かしているかのように語るトランプのような暴君は、実のところ電車のなかのつり革につかまって自分が操縦していると思い込んでいる子どものような存在にすぎないのである。そんな人たちへの期待も懇願も無駄だろう。かれらは、利潤のために破滅への道を舗装する資本主義のシステムに動かされることしかできない。
わたしたちが日々直面する一つひとつの悲劇をもたらす諸関係を理性によって見透し、そのなかでのみずからの歴史的使命を自覚する幾百万の人民大衆のたたかいだけが、本当の意味で世界を動かすことができる。パレスチナの事態を受けて立ち上がった学生をはじめ多くの世界の人民が、いまも粘り強く活動を続け、イランに対する侵略にも反対しているところに希望はあるだろう。そして、地球全体を破滅へとひきずりこもうとする「G7」諸国のひとつである日本の労働者階級・人民もまた一個の重要な役割をもつ支流として、自国の体制を変革するためにたたかい、平和を求める世界諸人民の運動の大きな流れに合流していかなければならないのである。(6月22日記)

【大村歳一
(『思想運動』1114号 2025年7月1日号)