戦争続行のたくらみを打ち砕け!
暴虐非道なガザ爆撃、ウクライナ「停戦」をめぐって
イスラエル=ネタニヤフ政権は3月18日未明、停戦合意を破りガザ地区に大規模空爆を再開し、子どもを含めて400人以上を殺害した。その後地上部隊も投入し、「国際社会」の面前で、なんのためらいもなく、パレスチナ人民に対するジェノサイドを実行している。23日のガザ保険当局の発表では、23年10月以降の死者は5万人を超えた。イスラエルはそれに先立つ3月2日に人道支援物資などの搬入を止め、9日には電力供給も停止していた。
ホワイトハウスのレビット報道官は「イスラエルからガザ攻撃について相談をうけていた」と明らかにしている。
トランプは第一次政権在任中、イスラム教徒にとって神聖な場所エルサレムに在イスラエル米大使館を移転させパレスナ人民の憤激を招き、シリアから占領したゴラン高原でのイスラエルの主権を認めるなど、一貫してイスラエルの後ろ盾となってきたが、大使館の移転記念式典に寄せたビデオメッセージで、臆面もなく「われわれの最大の望みは平和だ」と語っている。
パレスチナ解放勢力とイスラエルとの停戦交渉ではトランプがネタニヤフに圧力をかけたと言われているが、その「平和」「停戦」の内実を問わないわけにはいかない。トランプはガザ地区について、米国が所有して「中東のリビエラ」へ再開発する構想を発表したが、無差別爆撃を繰り返し、人が住めない状況を作り出しておいて、ヨルダンやエジプトに脱出するのが「平和に生きる唯一の道」であり、お前らが出ていった後は、莫大な資金を投入し、「トランプ・ガザは明るく輝いている。黄金の未来、真新しい光。祝宴とダンス。任務は完了した」と配信する。金の亡者、最悪の地上げ屋である。
ギリシャ共産党中央委員会報道局は、1月18日「ガザの停戦に関する声明」を発表し〈イスラエルとハマスの停戦協定は、事実上、不安定な合意である。この紛争を招いた要因は、まったくなくなっていない。パレスチナ人民に対するテロリスト国家イスラエルの侵略があり、また、特に中東地域における反目が激化している。さらに、この停戦協定は、パレスチナ人民を本当に絶滅させようという文脈でイスラエルが行なっている犯罪行為を消し去るものではない。/性急にこの停戦を合衆国の政権交代と関連づけ、「平和」な世界の再形成をともなう人民に有利な肯定的展開を期待する人は、じきにその誤りが立証されることになる。/「パレスチナ人民の頭に銃口を突きつけた」偽りの平和を強いた都合がいかなるものであれ、この停戦協定に影響を及ぼしたこととしては、パレスチナ人民の勇敢な抵抗があり、イスラエル自体の内部の反戦の闘いがあり、世界中の人民の国際連帯がある。この連帯をいま、さらに強化して、イスラエルによる占領を終わらせ、パレスチナ人民が自分たちの祖国を持つ権利を承認させなければならない〉と述べていた。
戦争は誰が引き起こすのか?戦争で誰が儲けるのか? われわれはこのことをもう一度はっきりと確認し、ブルジョワ支配階級との闘いに臨まなければならない。
トランプ政権でウクライナ政策が転換?
2月12日、トランプとプーチンの電話会談が行なわれ、戦争を終結させるために停戦交渉を早期に開始することで合意した。同じ日ブリュッセルのNATO本部でウクライナ支援を調整する約50か国の防衛相らの会合が開かれ、冒頭で発言したヘグセス米国防長官は、南部クリミア半島をロシアに編入された2014年以前の状態に戻すことは「非現実的」目標と断じ、ウクライナのNATO加盟についても現実的でないと否定した。さらに「いかなる安全保障の取り組みにおいても、ウクライナに米軍を配備することはない」と明言した。
2月18日には、サウジアラビアのリヤドで米露外相が3年ぶりとなる公式会談を行ない、「両国関係全体の修復」を目指し、双方が高官級代表団を立ち上げ、ウクライナ戦争の終結、その後の経済・投資分野での協力、在外公館業務の正常化に向けて協議する方向で合意した。
2月24日、米国は国連安全保障理事会に「ロシアとウクライナの紛争の迅速な終結」を求める決議を提出、英仏など5か国が棄権、ロシア、中国など10か国の賛成で採択された。一方、同じ日にウクライナと欧州連合(EU)が国連総会に提案した「ロシア軍のウクライナからの即時撤退」を求める決議は、賛成93票で採択された(日本は賛成)。米国とロシア、朝鮮、ベラルーシ、ニカラグア、マリ、ブルキナファソ、ニジェールなどが反対し、中国、インド、ブラジル、南ア、キューバなどが棄権した。賛成票は前回の同趣旨の決議(2023年2月)の141票から大幅に減少し、反対票5→18、棄権票35→65、無投票12→17と非賛成票はほぼ倍増した。
「決裂」が話題となった2月28日のトランプ・ゼレンスキー会談では、トランプが「戦争を終わらせたい」「第三次世界大戦の危険性」「外交の必要性」を強調したが、ゼレンスキーは「外交では不十分」「軍事支援の継続を」と訴え、ロシアとの停戦や交渉を否定する態度に終始した。
米国は(停戦に後ろ向きなゼレンスキーの姿勢に)態度を硬化させ、3月3日には、ウクライナへの軍事支援を一時停止し、5日には機密情報の共有も停止した。
こうした事態の進展に、バイデン前政権に忠実につき従って戦争継続を主張してきたウクライナとEU諸国は、停戦をめぐる交渉が米国とロシアによってウクライナや欧州諸国を関与させず「頭越しに」進められていると強く反発。
ここまでの経緯を見る限り、トランプ政権のウクライナ問題に対する立場は前政権から180度といってよいほど変化したように見える。
しかし、誤解してはならない。ここでもトランプは「平和」のご託宣を並べ立てているが、かれは西側メディアが垂れ流すウクライナ優位という戦況情報のウソを知っており、これ以上ウクライナに肩入れして戦争を続けても、アメリカにとって得策ではない、この戦争に割いてきた力、つぎ込んできた資金を米国にとってますます大きな脅威となっている中国との対決に振り向けよう、そのためにロシアとの「代理戦争」は止める、いやむしろロシアを味方につけ中国に対抗していこう、という認識に立ったということなのである。それはガザでのパレスチナ人民虐殺と追放政策、キューバ・朝鮮・ベネズエラなどへの制裁・圧殺政策とセットなのである。そこには、バイデン政権同様、中国、BRICS、グローバルサウスの伸長、米国をはじめとするG7の退潮、西側社会の社会的分断状況の顕在化・拡大という世界構造の大激動にどう対応するかという米国支配階級の意志が働いてもいるだろう。
トリコンチネンタル社会調査研究所所長のヴィジャイ‐プラシャドは、最近発表した文章のなかで、トランプ政権のこうした構想を、1971~72年に当時のキッシンジャー米国務長官が主導しソ連を孤立させるために進めた中国との和解になぞらえて「逆キッシンジャー戦略」と指摘している。つまりこれは、1970年代初頭とは逆に中国を孤立させるためにロシアと和解する戦略という意味だが、この間のトランプ政権の動きにはそういう意図がはたらいているようにも見える(ただしプラシャドは、その文章の末尾でプーチンがこの戦略に乗ることはまずないだろうと言っているが)。そして「中国が急速に発展させている科学技術や新たな生産力は、米国による世界経済の主要部門の支配に真の脅威をもたらす。トランプ大統領が同盟国や敵国に対してとっているアプローチは、中国から米国が『脅威』を感じていることが動機となっている」と述べている。
『毎日新聞』3月22日付「外事大事」は「中国の動向に目を光らせてきたルビオ米国務長官は第2次トランプ政権発足前の昨年、『中国が作る世界』と題する報告書を発表した。/「対中強硬派の診断によれば電気自動車、発電、造船、高速道路の4分野で世界トップに立ち、そのほかの分野でも大きな進歩を遂げた。目標に及ばないのは農業機械だけ。報告書は『中国共産党の勝利は否定できない』と記している」そうだ。「1月末に新興のIT企業『ディープシーク』が低コストで開発したとされる生成AI(人口知能)が世界を驚かせるなど包囲網を突破する動きも進む」。
そして米国は、インド太平洋地域においては、「中国包囲」戦略を従来にも増して強力に展開していく。そのために、日本をはじめとした同盟国に対してよりいっそうの大軍拡と米軍との軍事的連携の強化を迫っていくであろう。この間、日本に戦争政策の肩代わり・負担増を求める米国の圧力は強まっている。トランプが政策担当の国防次官に指名したコルビーの「日本は防衛費をできるだけ早く少なくともGDPの3%にすべきだ」との発言(3月4日)やトランプの「日本はわたしたちを守らない」発言(3月8日)など、軍事予算の大幅増額を求める発言が相次いでいる。
トランプ政権の帝国主義的・ファッショ的性格を批判し、その現われと闘っていくという立場を明確にしたうえで、しかしわれわれは、この3年間でロシア、ウクライナ合わせて十数万人ともいわれる死者を出しながら今も続いている戦争を一刻も早く止めるべきという立場に立つ。そうした立場から、われわれは現局面ではトランプ政権が取っている停戦のためのイニシアティブを(トランプ政権がこの先この立場を取り続けていくかは不確実ではあるが)、状況の打開につながるものとして受け止め、この機会を生かして反戦平和の闘いをいっそう強化すべきと考える。こうした流れに抵抗するゼレンスキー政権やEU諸国、そして右往左往しながら石破政権が追随するウクライナへの軍事支援強化・戦争継続の路線には断固反対する。
西側帝国主義が仕掛けたウクライナ戦争
この間、ゼレンスキーやEU諸国、西側メディアは、停戦や和平を拒否し続けてきたのはロシアの側であって、ウクライナの側は平和を追求してきたと主張するが、真実はまったく違う。
2014年のマイダン・クーデターで権力を握った親米政権の東部ドンバス地域への武力攻撃によってウクライナ戦争は実質的に開始される(ロシアによる「特別軍事作戦」はこの戦争の起点ではない)。その後一時はウクライナ、ロシア、ドネツク人民共和国、ルガンスク人民共和国の間でミンスク合意(2014年)とミンスク合意Ⅱ(2015年)が結ばれ停戦となるが、ウクライナ側の両共和国への攻撃でこの停戦は破綻する。また、「特別軍事作戦」直後にトルコのイスタンブールで進められた停戦交渉(ウクライナ側の提案ではじまり、停戦合意目前まで進展)を最終的に拒否したのは米英の戦争継続要求に屈したゼレンスキー政権であった。その後も、中国や南ア、ブラジルなどの諸国が停戦の仲介を申し出るがそれらを受け入れなかったのもウクライナの側だ。ゼレンスキーは2022年10月にご丁寧にもプーチンとの停戦に向けた交渉は「不可能」とする法律まで作っている。
今になって、ゼレンスキーやEU首脳は、自分たちの「頭越し」に話を進めるのは不当だと言っているが、「お前が言うか」という話だ。和平に向けた話し合いを一貫して拒んできたのはこの連中なのだ。
ウクライナ戦争の意味を理解するためにはさらに歴史をさかのぼる必要がある。1990年代初頭の社会主義世界体制倒壊以降、NATOは「1インチも東方には拡大しない」との約束を破り、西側帝国主義が仕組んだ「カラー革命」(親欧米勢力の権力奪取。各国で共産主義に対する弾圧の嵐が吹き荒れ、共産党の禁止やレーニン像の破壊が行なわれた)と連動しながら、旧東欧社会主義諸国、旧ソ連邦構成共和国などを次々とNATOに加盟させ、その勢力圏をロシアの国境近くまで広げていく。安全保障上の脅威の増大に対しロシアはたびたびNATO東進の中止を求めたが受け入れられなかった。
ウクライナでは、2014年、米国に後押しされたネオナチ勢力が、「中立を保ちNATOに加盟しない法律」を制定していたヤヌコヴィッチ政権をユーロ・マイダン・クーデターで暴力的に倒し、親米政権を樹立した。
ヤヌコヴィッチ政権を支持していたのは、ウクライナ東部のロシア語を話す人びとで、クリミア自治共和国とセヴァストポリ特別市の人びとは住民投票を行なってロシアへの編入を決める。また東部ドンバス地方のドネツクとルガンスクの人びとはそれぞれ「ドネツク人民共和国」と「ルガンスク人民共和国」の建国を宣言する。
クーデターによる親米・親ファシスト勢力の権力強奪、NATOへの加盟工作、その後8年にわたり1万5000人の死者を出すことになるドンバス地方への武力攻撃、2014年以降のウクライナにおけるこれらの事態もNATOの「東方拡大」の一環として起こされたものだ。そして2022年2月の後半以降ウクライナ政府軍のドンバス攻撃が急拡大する事態に対し、ロシアが防衛的・限定的性格のものとして遂行したのが2月24日からの「特別軍事作戦」であった。われわれはそれが防御的性格であったと認めつつも、反戦主義の基本的スタンス、平和的手段による紛争解決を求める国連憲章の擁護、両国の労働者同士の殺し合いを拒絶するプロレタリア国際主義の立場から、この軍事作戦を支持しなかった。しかし、この事態は、西側メディアが描く「ある日突然一方的にロシアが攻め込んできた」というようなものではない。ウクライナ戦争の元凶は、NATOの勢力拡大がもたらしたロシアに対する軍事的脅威の極大化であり、2014年のマイダン・クーデター後の、とりわけ2022年2月のウクライナ側による軍事攻撃のエスカレーションが直接的な要因であった。
だが、情報戦で圧倒的優位にたつ西側メディアは、特に戦争の初期に「ブチャの大虐殺事件」「小児・産科病院爆撃事件」「マウリポリの劇場爆撃事件」などをロシア軍による残虐非道な攻撃(ロシア側は否定)とセンセーショナルに報道、「ロシア脅威論」が大々的に喧伝され、ロシア=悪、ウクライナ=善、プーチン=悪魔、ゼレンスキー=英雄という虚偽イメージ・不当に単純化された二元論が瞬く間に全世界に拡散され、人びとに支持・受容されていった。
日本でも、来日したゼレンスキーの国会演説を自民党から共産党までがスタンディングオべーションで称賛するという異常な光景が現出した。
ウクライナ情勢の新たな展開を踏まえて
このたびのウクライナ問題をめぐる状況の変化のなかで、欧州諸国の支配層は、米国の安全保障上の関与が後退することを理由にして、「ロシア脅威」論をいっそう声高に訴えながら、従来の歯止めをことごとく取り払ってより危険な戦争政策を押し進めている。3月2日にロンドンで開かれた欧州各国首脳の会議では、ウクライナへの軍事支援の継続と対露経済制裁の強化、停戦協議へのウクライナの参加、停戦後のウクライナの国防力の強化、ウクライナの平和を保障するための有志国連合の形成などで一致した。3月6日にはEUが今後4年間で約128兆円の軍事費を確保することで合意した。英国のスターマーは早い段階から戦争終結後のイギリス軍のウクライナ派兵を表明し、3月9日、マクロンは、仏の核抑止力を欧州全体で行使するための議論を呼びかけている。
3月11日、ウクライナは、米国が提案した30日間の停戦を受け入れる用意があると表明した。頑なに停戦を拒んできたこれまでの態度を変えたことになる。欧州がいくら独自に支援するといっても、米国の軍事支援(全体の4割を占める)と軍事情報の提供がなければウクライナが戦闘を維持することは不可能だ。ウクライナ国内では戦争反対の世論が大きくなっており、これ以上戦争を続けることはゼレンスキー自身の命取りともなる。そうした判断が働いたのだろう。
一方、3月18日、ロシアは米国の停戦案に対し、エネルギー施設への攻撃の中止には合意したものの、全面的停戦には応じなかった。プーチンが指摘するように、この停戦がウクライナ軍の態勢立て直しに利用されることもありうる(メルケルの2022年の証言によればかつてのミンスク合意はウクライナ側の時間稼ぎに使われた)。ロシアは自国領内からウクライナ軍を撤退させるまでは停戦に応じないとの憶測も出ている。
まだ先が見通せない状況にあるが、われわれは、今後も複雑に展開するであろう関係国間の駆け引きの諸相に惑わされることなく、世界政治の変化の階級的把握に立って、停戦・和平の流れを断ち切り戦争を継続させようとする勢力を正確に暴き出し、これと闘っていかなければならない。
労働者階級の戦争と平和に対する態度
現在のウクライナ停戦の動きは、主要には米国の戦略転換を契機に進んでいるプロセスであり、それは当然帝国主義的支配秩序の枠内で進行している事態である。しかし、社会変革を追求する者は、たとえその枠内であっても、帝国主義国間の矛盾、資本家勢力の間の矛盾を見定め、時にはこれを利用し、戦争を止め平和を実現する闘い、核戦争に反対する闘いにおいて、資本主義を肯定する人びとを含んだ平和を指向するあらゆる人びとと協働しながら、運動の最先頭に立って献身的に活動を担うべきだ。だがしかし、戦争の根元は資本主義にある、帝国主義による世界支配の構造そのものを打ち壊し、究極的には社会主義世界革命を成し遂げない限り、戦争の根を完全に取り除くことはできない。この思想を、政府・独占の戦争政策との闘いを進めながら、運動のなかで絶えず宣伝し広める任務を怠ってはならない。
【大山歩】
(『思想運動』1111号 2025年4月1日号)
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