絶えない戦争と野蛮の時代のなかで
民主労総の闘いぶりについて考える
戦争の根を断て
ロシア・ウクライナ戦争の停戦が、トランプの再登場によって動き始めている。停戦にいたるなら、それは良いことだ。だが、人による人の搾取がつづく社会である限り、戦争の根は絶やされず、生き延びてゆく。
それかあらぬか世界に眼を向ければ、ドイツ総選挙で現われた極右政党「ドイツのための選択肢」(AfD)の躍進にみられるように、移民排斥の排外主義が欧米で吹き荒れている。欧州27か国中、極右政党が政権を握る国(連立をふくむ)が過半の15か国にまでおよんでいる。第2次大戦の前夜、ファシズムはイタリア・ドイツばかりでなく欧州全域を席巻していたが、これと酷似する状況がいまわれわれの前には広がっている。
労働者人民の立場に立つならば、停戦で確保される息継ぎの時期を、いかに労働者人民の側に有利に使い、態勢を立て直すか? それは、ロシアやウクライナをはじめとする欧州だけでなく、アジアで活動するわれわれにとっても喫緊の課題だ。その課題に「社会大改革」のスローガンを掲げて挑戦する隣国・韓国のナショナルセンター全国民主労働組合総連盟(以下、民主労総)の取り組みを紹介するなかで考えてみたい。
南泰嶺大捷
とりわけ、韓国では尹錫悦を退陣に追い込む闘いが、民主労総や全国農民会総連盟(全農)・全国女性農民会総連合(全女農)など韓国大衆運動を代表する組織によって、透徹した歴史認識にもとづいて繰り広げられていることに、われわれは注目する。その一端を三つ紹介しよう。
その1。昨年12月21日、全農・全女農が組織した「全琫準闘争団」が韓国南部の慶南・全南地方からソウルの大統領官邸がある漢南洞にむけて「尹錫悦拘束!」などの横断幕をくくりつけたトラクターや貨物自家用車を駆って車列を組んで行進していたところ、ソウル市内に入る手前の峠道・南泰嶺で横付けされた警察バス数台に道をふさがれ、その先に進めなくなった。これは、その時、「全琫準闘争団」がSNSに載せた緊急呼訴文「市民のみなさん! 2024年の牛金峙=南泰嶺に集まってください!」(19時20分発信)だ。
《市民のみなさん! 2024年の今日、まさにここ南泰嶺が牛金峙です。甲午年、東学農民軍がついに越えることのできなかった牛金峙がまさにここ、南泰嶺です。今度こそ越えたい。絶対に越えなければならない。必ずや越えるでしょう。/農民たちとともに行動してください。こんにちの牛金峙・南泰嶺に駆けつけてください。世のいかなるものよりもっと強い連帯の力で、ともに南泰嶺を越えて、漢南洞に進撃しましょう!》
この呼訴文を読んだ労働者・市民たちは、夜、農民たちのために食料や暖房具などを携えてタクシーなどで南泰嶺に駆けつけ、農民たちとともに道をふさぐ警察に夜を徹して対峙した。この夜、南泰嶺は零下10度近くまで気温が下がり、時折、粉雪が舞うなかでの連帯闘争であった。そして、対峙すること28時間、22日の午後4時半ごろ、ついに警察は道路をふさいでいた警察バスを移動し、道路を開放した。こうして、「全琫準闘争団」の農民たちと労働者・市民たちは、ソウル市内に入り、沿道で手を振って迎える人びとの歓呼のなかを大統領官邸最寄りの漢江鎮駅に向かったのである。これは2016年の朴槿恵退陣闘争時でもできなかったことを成し遂げた快挙であり、人びとはこれを「南泰嶺大捷」(南泰嶺の大勝利)と名づけ、農民と労働者・市民の連帯闘争が切りひらいた勝利として高く評価し、語り継いでいる。
漢南洞の3泊4日
その2。また、この「南泰嶺大捷」から10日あまりたった今年1月3日早朝、高位公職者犯罪捜査処(公捜処)と警察で構成する合同捜査本部が、大統領尹錫悦の拘束のために大統領官邸に入ろうとしたが、尹錫悦側は大統領警護処と首都防衛司令部の軍を動員してこれを阻み、5時間後、合同捜査本部は尹錫悦拘束に失敗して大統領官邸からそそくさと引き上げた。市民たちの間には失望がひろがったが、それを希望に変えたのが、力なく撤収した合同捜査本部に代わって力強く漢南洞に進撃してきた民主労総の一群だった。
この日午後、民主労総は大統領官邸前の道路に進出し、当初、1泊2日の予定だった漢南洞闘争が、民主労総とともに行動する市民からの提起を受けて、3泊4日に延長されて闘われた。その過程では、大雪の降りしきる日【上段写真】もあり、大統領官邸前に座り込む民主労総組合員と市民は決して容易ではない座り込み闘争を、体をはって貫徹したのであった。現場では尹錫悦執権1年目に物流をとめる大規模ストライキを展開して大弾圧を受けた民主労総傘下の公共運輸労組貨物連帯が暖房バスを提供し、また支援団体が温かい食べ物や飲み物を無料で提供して、冷え切った参加者たちの体を温めた。つぎに掲げるのは、この闘いを率いた民主労総の梁慶洙委員長の挨拶「3泊4日の偉大な闘争を終えて」の全文である。民主労総ホームページに1月6日付で掲載された。
《尊敬する組合員のみなさん!/3日間の闘争を開始し、民主労総の組合員に独立軍の心境で、市民軍の決意で、闘いに出ることを話しました。/闘いに臨むと話しました。/市民が一緒に駆けつけてくれると信じていました。/その信念が現実になりました。/3泊4日、わたしたちが闘っている間、公捜処はいったい何をしたでしょうか。/5時間程度のショーをしてあきらめました。それで、わたしたちが起ちあがったのです。/労働者のフォークリフトがかれらのバリケードを払い除け、農民のトラクターが鉄条網を踏みしだき、市民の応援棒(筆者注:スティックライト)が尹錫悦を断罪するために「そこをどけ!」と闘いました。/わたしたちの闘うべき対象が、尹錫悦という内乱首魁個人ではないことを確認しました。/尹錫悦と内乱の首脳部、本体、手足を根こそぎ一掃しなければなりません。/わたしたちの3泊4日は偉大でした。吹雪も雨風もわたしたちを揺るがすことはできませんでした。/ろうそくの火は風に消えますが、応援棒は消えはしないというわたしたちの意志を確認することができました。/青年たちは「闘争!」を叫び、労働者と既成世代は「タシマンナンセゲ」(また巡り逢えた世界、筆者注:音楽グループ「少女時代」の楽曲)にあわせてともに応援棒を振りました。/こうしてわたしたちは同志となり、砕かれない連帯をつくっています。/朴槿恵政権を退陣させても何も変わらなかったと、ため息をついた過ちを繰り返さないようにしましょう。/日帝を清算できず、親日派が暴れ回った過ちを繰り返さないようにしましょう。軍部独裁に携わった者らが、つき従った者らがいまだに既得権を維持しているという、泣き言を繰り返さないようにしましょう。/そのために、わたしたちはあきらめてはなりません。/そのために、わたしたちはよりしっかりと、より堂々と闘いに立ち向かわなくてはなりません。/最後まで闘わなくてはなりません。/みなさん、闘いに出ましょう。これで3泊4日の偉大な闘争は終わります。/しかし、土曜日にもう一度光化門で、わたしたちの怒りと決意のほどをかれらに見せてやりましょう。/わたしたちの力は、かれらを屈服させることができることをもう一度確認しましょう。/みなさん、本当に、本当にありがとうございました。/ともに過ごした3泊4日が、わたしたちの歴史にどう記録されるか分かりませんが、きっと勝利の歴史となることでしょう。/勝利の信念をもって力強く前進しましょう! 闘争!》
道をひらく民主労総
その3。昨年12月7日、一回目の尹錫悦弾劾訴追案が与党「国民の力」議員の議場欠席で否決(可決は、一週間後の14日)された日、事態の成り行きを見届けようと汝矣島の国会議事堂前に集まってくる人民大衆に対して、警察は規制線をはり、国会前に行かせないようにした。そのため、道路上には人波がおしよせ密集して危険な状態になったことがあった。この時、民主労総の梁慶洙委員長が傘下の公共運輸労組の組合員に警察の規制を解くよう指揮し、攻防の末、労働組合員の実力で警察の規制線を決壊させ道を切りひらいたのである。
この時の映像が瞬く間にSNS上で拡散され、「道を切りひらく民主労総」「市民の先頭で闘ってくれる民主労総」が人民大衆の共感を呼んだ。それまで長らく『朝鮮日報』のような極右大手マスコミによって「労組利己主義」キャンペーンが張られ、労働組合は自分たちのことしか考えない、ストで物流をとめ、デモで交通を渋滞させる迷惑な集団と宣伝され、労働組合と人民のあいだに意図的な分断の楔が打ち込まれてきた。しかし、そうした認識が誤りで、労働組合は自分たちのために闘ってくれる存在、そこにいれば安心できる深い懐のような存在という像がひろく人民大衆のなかに芽生えてきたのだ。こうしたなかで、街頭デモの先頭にたつ民主労総の組合旗をじぶんも持ちたいと言う青年が出てきてもいるのだ。
そして一か月後、漢南洞3泊4日の昼夜をともにした大統領官邸前闘争で、労働組合と人民大衆の距離はさらに縮まった。その心情が、さきの梁慶洙委員長の挨拶には如実に表われている。あきらめずに意識して闘いを継続していれば、歴史の必然はかならずこの手で掴むことができる。
公論の場の創出を!
それ以降も、民主労総が主催する大衆集会の自由発言の場では、青年たちがマイクを握り、みずからの思いを語り、発言の最後には、民主労総組合員の締めくくりの呼号「闘争!」が、青年たちによって叫ばれるようになった。さらに特筆すべきなのは、これまで資本主義社会のひずみのなかで引きこもりや鬱症に苦しむ青年たち、宅配ライダーに代表される非正規の青年たちが、公論の場である大衆集会に出てきて演壇に立ち、みずからの境遇を語り、社会のひずみからの解放を質す発言をしはじめるようになっていることだ。それらが、首都ソウルだけではなく、韓国5道の各地で同時多発的に開かれる尹錫悦罷免集会の場で行なわれるようになっている。社会的に孤立し少数者に追いやられてきた層が、民主労総と出会い合流しはじめている。これは、これまでの民主労総が主催してきた全国労働者大会でも、また16年~17年の朴槿恵退陣キャンドル行動でも見られなかった新しい光景である。
そして2月11日、民主労総は第82回定期代議員大会を開催し、決議文を採択した。その決議文に掲げられた諸項目のなかでも、「社会の公共性を強化する」ための闘争は非常に重要だ。私的領域ではなく公共性、個ではなく集団、私論ではなく公論、これらすべてにつながるのは公の概念だろう。社会が変革されていくときは、このような公の場の創出が非常に重要だ。ジョン‐リードの『世界をゆるがした十日間』でも、パトリシオ‐グスマン監督の『チリの闘い』3部作でも、革命に参画する労働者人民の熱い対話が人いきれとともに文章や映像で記録されているが、そのような公論の場が無数に生まれるなかで、革命は進行してゆくのだろう。それは左右のポピュリズムとは対極にある、人民の人民による人民のための権力の創出にむかう過程だ。いま韓国は、尹錫悦退陣闘争をつうじて、そのような過程に突入しているのかもしれない。そこには、日本の地で苦闘する活動家にとっても学ぶべきことがあるように思う。
きたる3月8日に実行委員会とHOWSが共催する国際婦人デー東京集会も、これまでの報告形式に加えクロストークという対話の要素をとりいれている。公論の場を創り出すための試行錯誤、それが主催側の意図だ。この日、韓国でも民主労総が国際婦人デーで行動する。全世界の人民が戦争のない世界をめざして3月8日に行動する。資本側が分断・統治の手法で挑んでくるなら、われわれ労働者人民は団結して公の部分を拡大していくことで戦争の根を断つために起ちあがろう。それが、民主労総の闘いからわれわれが学ぶことだ。
【土松克典】
(『思想運動』1110号 2025年3月1日号)
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