尹錫悦弾劾から「社会大改革」へ
日本人民に問われる壊憲・「緊急事態」条項との闘い
2024年12月、世界の耳目を釘付けにした事態が北東アジアと中東で起こった。ひとつは3日、韓国の大統領尹錫悦によって惹き起こされた「非常戒厳」の宣布とその後の事態、もうひとつは8日、シリアのアサド政権の崩壊とその後の事態で、それぞれ現在進行形で推移している。
いずれも米帝が深く関与するなかの事態であり、米国務長官ブリンケンの、「韓国は民主主義の強靭性を示した」(12月14日)、「シリアの人びとが主導するシリアのための政権移行を全面的に支持する」(12月10日)との表明は、米帝による反革命の思惑を明確、かつ慇懃無礼に表明したものだ。
前者について言えば、人民の力による17年の朴槿恵罷免後の文在寅がそうであったように、執権を国民の力の尹錫悦から共に民主党の李在明に移行させることで、尹錫悦弾劾の大衆エネルギーをブルジョワ議会制の枠内に封じ込めようとする目論みにほかならない。今後米帝は、その枠を突破しようとする「尹錫悦即刻退陣・社会大改革非常行動」(二大労総や全農など1550団体が結集して12月11日発足)などの闘いを掣肘する動きに出るだろう。後者のシリア情勢については、今号3~5面の特集を参照されたい。
以下では、いま韓国で起きている事態にそくして、日本の労働者・人民が考えるべき課題を提起する。
戦争挑発と戒厳発動
「戒厳」の予兆はあった。
国会で多数を占める野党とことごとく対立して国政がマヒ状態に陥るなか、株価操作など尹のパートナー金建希が起こした数かずの不正捜査に特別検察官を投入する「特検法」を求めるキャンドル行動が粘り強く継続され、支持率も2割前後に大きく低下していた。そうしたなか、尹錫悦は10月に入って無人機をピョンヤン上空に飛ばす戦争挑発に出た。その機に乗じて「非常戒厳」を宣布し、意に従わない国会議員や労働運動指導者、言論・文化人、在野の民主人士などを「北に追従する勢力」と決めつけ、これを根こそぎ「摘発」するシナリオを描いていた。この時は、朝鮮側の賢明な自制によって朝鮮戦争の再燃には至らなかったが、一歩間違えば、東欧・中東についで北東アジアでも戦争が勃発しかねない危険な状況だったのである。
そして12月3日、尹は再度その試みを実行に移した。
尹錫悦の「非常戒厳」宣布を韓国のインターネット報道番組で知った3日夜11時過ぎ、まっさきにわたしの頭に浮かんだのは、工場に籠城する韓国オプティカルハイテック労組員たちのことだった。それというのも、この報道番組が、戒厳司令官に任命された朴安洙がストライキを禁ずる戒厳布告令を発布したと報じたからだ。「韓国OP組合員7名が戒厳軍に拘禁される!」80年光州の凄惨な姿が頭をよぎった。ここに、その戒厳司令官布告令の全文をしるす。
《自由大韓民国内部に暗躍している反国家勢力の大韓民国体制転覆の脅威から自由民主主義を守護し、国民の安全を守るために、2024年12月3日23:00付で大韓民国全域に次の事項を布告する。/1.国会と地方議会、政党の活動と政治的結社、集会、示威など一切の政治活動を禁ずる。/2.自由民主主義体制を否定したり、転覆を企図する一切の行為を禁じ、フェイクニュース、世論操作、虚偽の扇動を禁ずる。/3.すべての言論と出版は戒厳司令部の統制を受ける。/4.社会混乱を助長するストライキ、怠業、集会行為を禁ずる。/5.専攻医をはじめ、ストライキ中または医療現場を離脱したすべての医療人は48時間以内に本業に復帰して忠実に勤務し、違反時は戒厳法によって処断する。/6.反国家勢力など体制転覆勢力を除外した善良な一般国民は、日常生活の不便を最小限にできるよう措置する。/以上の布告令違反者に対しては、大韓民国戒厳法第9条(戒厳司令官特別措置権)により、令状なしに逮捕、拘禁、押収捜査を行なうことができ、戒厳法第14条(罰則)により処断する。/戒厳司令官 陸軍大将 朴安洙》
弾劾熱量の総和の力
この事態に驚いた韓国人民はただちに行動に出た。報道番組の実況中継が映し出した韓国国会前に集まった労働者・人民たちは「ありえないことだ」「光州事態の時、わたしは逃げたが、今度は逃げない」など驚きや義憤を口にして、国会に投入された戒厳軍兵士たちと対峙した。闘いはソウル汝矣島の国会前ばかりではなかった。韓国サンケン労組の金恩亨さん(現・民主労総慶尚南道地域本部委員長)は4日、日本の韓国サンケン労組を支援する会の仲間に安否を伝えるメールを届け、《正直、労組の幹部や活動家はみな逮捕されるんじゃないか、殺されるんじゃないか、とまで思い(略)遺書を書くべきかとも思った》と伝えてきた。そこには、夜通し民主労総慶南本部の組合員たちと事態を知らせるビラを作成して、翌朝出勤してくる労働者・市民に配布したり、緊急記者会見を行なったことなどがしるされていた。また、レイバーネット日本の会員用メーリングリストには、いまはカナダで研究活動をしている恵泉女学院大学教員の李泳采さんが《いつもいたその場にいることが出来ない自分が悔しいですが、今自分がいる立場でできることを頑張ります》という心情と日本人民に連帯を呼びかける呼訴文を投稿し、作家・韓江さんは国会に突入した戒厳軍兵士の内的葛藤を海外の滞在先で洞察し、在日韓国民主統一連合は東京・上野や大阪・鶴橋などで「尹錫悦即刻退陣!」の街頭行動に起ちあがり、また日本に留学する韓国人学生たちは「尹錫悦退陣集会推進連合」に結集して東京・新宿駅頭で500名を超す留学生・在日韓国人・日本人による「尹錫悦退陣集会」の運営を立派に担った。さらに、対南政策の転換で「大韓民国」を「第一の敵対国」と規定した朝鮮民主主義人民共和国も11日付、12日付、16日付の『労働新聞』や『朝鮮中央通信』で南の労働者・人民の闘いを正当に評価し伝えている。「第一の敵対国」内部で熾烈に階級闘争を担う韓国人民大衆は、決して朝鮮の敵ではない。
こうした韓国全土・世界各地で噴出した尹錫悦弾劾のエネルギーの総和が、「非常戒厳」発動からわずか2時間半でその解除決議を国会でかちとらせ、14日には尹錫悦弾劾訴追案を可決に導かせたのだ。
問われる社会大改革
今後は12月27日から憲法裁判所の審理が始まり、180日以内に大統領罷免か職務復帰かの審判がくだる。だが、憲法裁判所の裁判官たちは尹錫悦から任命された人物であるため、審判のゆくえは楽観できない。さらに大統領罷免をかちとったとしても、60日以内に行なわれる次期大統領選挙をつうじ韓国労働者・人民はどのような闘いを組織し、未来を展望していくのか?
ここで問われてくるのが、冒頭に紹介した「尹錫悦即刻退陣・社会大改革非常行動」の名称を冠した「社会大改革」の中身だ。ブリンケンが称賛する「韓国の民主主義の強靭性」の枠を打ち破る跳躍が、2025年以降の韓国社会変革運動には問われている。わたしは、朝鮮近代以降、数かずの歴史的な階級闘争をかいくぐってきた韓国労働者・人民であればこそ、必ずやこの枠を突破して新しい地平を切り拓くだろうと思う。それでなければ、韓国社会の生き地獄は今後もつづく。
歴史認識と壊憲阻止
生き地獄は韓国社会ばかりではない。金もうけ第一、弱者切り捨て、戦争推進の倒錯した日本社会の惨状を見よ! そして今回の尹錫悦弾劾訴追の局面で、日本のメディアはどのように報じたか? 韓国で労働者・人民が身を挺して闘っている時に、「政権交代なら『問題ぶり返されかねない』日韓関係は見通せない状況に」(朝日7日付)に見られるように、「日韓関係の悪化」を危惧する見出しがメディアには溢れかえった。韓国人民の大衆的力で勝ちとられた尹錫悦の罷免で悪化する日韓関係ならば、そんな日韓関係は根本が間違っているのだ。いまもつづく植民地主義を剔出して正しい歴史認識にもとづく戦争責任・戦後責任を果たさず、それに蓋をして築いた砂上の「未来志向の日韓関係」そのものが間違いなのだ。日帝強制占領・植民地支配被害者とその遺族に正対し、謝罪と補償、そして被害者がこうむった記憶を後世に伝え確かなものにしていく教育の実践、それをわれわれ日本人民は日本政府をして行なわせる責務がある。
そして、壊憲阻止の課題である。12月19日に、10月の総選挙後初めて衆議院憲法審査会が行なわれた。自民党はこれに先立つ9月2日の憲法改正実現本部において、「緊急事態」条項、「憲法9条自衛隊明記」、「緊急政令」を改憲の「論点整理」としてまとめた。NHKは当日、その方針に沿って与党筆頭幹事の自民党船田が19日の衆院憲法審査会で、「緊急事態」条項に関連して国会議員の任期延長を最優先に議論すべきだと主張し、次のように述べたと伝えた。《韓国の非常戒厳を引き合いに「緊急事態条項は乱用のおそれがある」と言われるが、政治活動を禁止したり報道や集会を規制したりするものとは性質が異なる》と。「しらばっくれるな! 船田」。「緊急事態」条項と密接に関係する「緊急政令」発令の対象となる事態とは、「大地震その他の異常かつ大規模な災害、武力攻撃、テロ・内乱、感染症まん延等」であると自民党憲法改正実現本部じしんが9月の「論点整理」で取りまとめているではないか。尹錫悦の戒厳令発令策動を見たいまも、船田は、自民党は、こううそぶくのか。
さきに韓国戒厳司令官布告令の全文を要約せずに掲載したのも、日本で「緊急事態」条項・「緊急政令」が憲法に盛り込まれれば、こうした「戒厳」項目の縛りをわれわれが直接受けることが現実となるのを、読者に実感してもらいたいからである。この度は韓国労働者・人民の果敢な闘いによって未然に防がれだが、わたしの頭を一瞬よぎった韓国OP労組員「拘禁」の姿は、明日の日本のストライキ現場で闘う労働者「拘禁」の姿と重なる。自民過半数割れで「改憲は遠のいた」と気を緩めるのではなく、過半数割れに追い込んだ力を総結集して、「緊急事態」条項、「憲法9条自衛隊明記」、「緊急政令」を導入させない闘いを強力に展開しよう。
2025年を迎え、1月20日にはトランプが米大統領の座に返り咲く。6月には日韓基本条約締結ではじまった65年体制から60年を迎える。7月の参議院選挙後には8・15敗戦80年を迎えて「首相談話」も発表されるだろう。節目の年の闘いがはじまる。「戦争できる国」から「戦争する国」へ、さらに「戦争している国」づくりへとむかう流れを断ち切り、人の人による搾取がない社会の建設をめざして、闘いの春をスタートしよう!
【土松克典】 |
【資料】
韓国のクーデターは朝鮮戦争再開の企てだったのか?
議会で追及される尹錫悦の計画、その全貌とは
パク‐ジュヒョン(朝鮮共同発展のためのノドゥットゥル) |
12月3日に尹錫悦大統領が戒厳令の発令を試みて失敗したことをうけて、大韓民国〔South Korea、以下「韓国」〕で政治的危機が続くなか、同国の議会では、尹のクーデター計画の全容について朝鮮民主主義人民共和国〔North
Korea、以下「朝鮮」〕との「限定戦争」を引き起こすという計画も含まれていたことを示唆する新たな詳細が明らかになっている。
戒厳令発令前に共謀者のあいだで共有されていた計画文書ではまた、金龍顕国防相が、光州事件や済州事件のまえに発令されたものを含む、過去の戒厳令を先例として参照していたことが示されている。
どのようにして尹のクーデター計画が朝鮮に対するエスカレーションと関わり合っていたかが明らかになりつつある。
尹の在任期間は、平壌に対する抑制なき侵略性、そしてワシントンおよび東京との癒着した軍事関係によって特徴づけられるのであり、それらは北東アジア全域での緊張を高めたのである。いまでは、尹のクーデター計画は2023年7月に始まったことが知られている。
2022年に大統領職に就いた尹は、「キル・チェイン・ドクトリン」として知られる朝鮮に対する軍事政策を採用した。これは、〝攻撃が怪しまれる場合〟の先制攻撃を提唱するものである。その後の2年間、米国との合同軍事演習の頻度と規模は急速に拡大した。2023年には200日以上にわたる米韓合同軍事演習が実施されたのであり、2024年8月には両国は半島での核爆撃計画を予行演習する初の共同核兵器机上訓練を実施した。結果的に、朝鮮半島の南北間関係は最悪の事態を迎えた。そして、2023年12月、朝鮮はその平和統一政策を放棄するという前例のない措置に踏みきった。
ゴミ戦争から「限定戦争」へ
この2つの朝鮮半島の政府の歴史的な決裂をうけて、分断された半島の事実上の陸および海の国境における緊張は高まった。この関係悪化の象徴的な徴候のひとつとして、朝鮮半島の北側から南側にゴミを詰め込んだ気球が飛来したことがあげられる。何十年ものあいだ、平壌は米国が支援する韓国の非政府組織(NGO)が非武装地帯(DMZ)をこえて宣伝気球を飛ばすことを黙認してきた。この春に朝鮮が大量のゴミ気球を南に飛ばすようになったことは、忍耐という政策の終焉を意味しているのである。
ソウルでは、このゴミ気球が引き金になって、夏のあいだ徐々に大きくなる一連の行動〔米韓合同軍事演習〕が起こっていた。しかし、新たな一線が画されたのは、10月だった。その月に初めて、韓国の国防省は当時その主張を確認できないと主張したものの、朝鮮が自国領への無人機の一連の侵入について報告したのである。この事件をうけて平壌は、潜在的な侵略の可能性を未然に防ぐために、非武装地帯の道路や橋を爆破した。
いま、議員たちは、無人機の侵入は朝鮮から軍事的反応を引き出すための一連の動きの一部分であり、それは「限定戦争」にいたる可能性があったと主張している。
12月8日、日曜日、無人機とその発射装置を格納する軍用コンテナが火災を起こした。翌日、「共に民主党」の朴範界議員は、軍内部の告発者から、10月の無人機侵入が韓国軍の責任であるという情報を受けとったと発表した。12月10日、無人機作戦司令部のキム‐ヨンデは、議会での尋問に応じた。かれは、金炳周議員に、漏電によって火災は起きたと説明した。しかしながら、金炳周議員が平壌に無人機を送り込むように無人機作戦司令部に誰が命じたのかをたずねたところ、キム‐ヨンデは「それは確認できていない」と答えた。キム‐ヨンデは、どこから無人機が発射されたのかという議員の追加の質問に対しても同じ回答を繰り返した。これをうけて、金炳周は、軍が無人機侵入の証拠を隠滅するために火を点けたのだと非難した。
朝鮮戦争再開計画の疑惑については12月7日にイ‐キホン議員によってもまた提起された。イ‐キホン議員は、12月3日のクーデター未遂事件のちょうど一週間前の11月28日に金龍顕前国防相が「ゴミ気球の発生源を叩く」ために朝鮮への直接攻撃を命じようとしたと報告したのである。統合作戦本部はそのような命令は受けていないと否定し、軍の立場を繰り返して、ゴミ気球への報復攻撃はそれが死者を出した場合にのみ許可されると述べた。なお、矯正局の当局者は、12月8日の日曜日に拘束された金前国防相が、12月10日の夜、拘置中に自殺を図ったと報告した。同氏は安定した状態にあり、起訴を待って引き続き拘置される。
議員たちは、尹の目的は「限定戦争」のエスカレートにあったと主張しているが、朝鮮半島の両政府が互いの事実上の領土に対して攻撃を行なえば、米国、ロシア、中国を巻き込んだ紛争に急速にエスカレートするおそれがあるのだ。この3か国はすべて、半島における戦略的軍事協定を結んでいるのである。
虐殺の予兆?
他の詳細としては、尹のクーデターにおいて弾圧のための計画が準備されていたことが明らかになっている。秋美愛議員は、済州と光州における民衆蜂起を鎮圧した悪名高い虐殺事件を参照した戒厳令の計画文書を配布した。
1948年から1949年にかけて、韓国の兵士、警察、そして準軍事組織は済州島で3~6万人を虐殺し、米軍占領に対する地域の武装蜂起への応答として、また当時の朝鮮人の大多数が反対していた1948年の大韓民国樹立選挙を目前にして遂行された焦土作戦の一環として、島の村の70%を焼き払った。済州における対ゲリラ戦争は、米軍の知識、支援、監督の下で遂行された。
光州では、当時の独裁者であった全斗煥の命令をうけた空挺部隊が、最大2000人の民衆を殺害し、集団的な拷問や強姦を行なった。この事件は、学生や労働者が軍に反旗を翻してパリコミューンに似た9日間の人民政府を樹立することをうながした1980年5月17日の戒厳令を、全が宣言したのちに発生している。この事件でも、米国の支援と知識が虐殺を可能にするうえで決定的な役割を果たした。ジミー‐カーター大統領は国防総省に全を支援するように指示して、韓国の空挺部隊が非武装地帯から移動することを許可し、空母と偵察機がその地域に配備された。
尹の計画を示す証拠は、過去の参照にとどまらない。秋美愛議員は、さらに、戒厳令が発令された初期段階に病院を確保しておく計画があったことを明らかにしており、彼女が主張するその証拠は、大規模な暴力行為の準備の存在を示している。軍や警察の複数の高官は、野党指導者の李在明を含む主要な政治家の逮捕を尹大統領から個人的に命じられたと証言している。特殊部隊の将校は、JTBCニュースの独占インタビューで、戒厳令発令の2日目には、韓国の第7空挺旅団と第13空挺旅団がソウルに展開する計画であったことを明らかにした。
より広範囲にわたる戦争計画の疑惑
議会での別の証言は、上に述べてきた「限定戦争」理論よりも大規模な戦争計画を示唆している。
元陸軍大将でもある金炳周議員は12月10日に、匿名の軍事関係筋の情報から、特殊部隊・情報司令部分遣隊(HID)20人が「ソウル市内のある場所で待機していた」と話した。金議員は、HID部隊が国会議員を逮捕するために議会に動員されたと主張しており、かれらが偽りの朝鮮の軍服を着て抵抗する人びとを殺害しようとしていたのではないかと疑っている。HID部隊は通常、非武装地帯に配置され、破壊工作、誘拐、暗殺など朝鮮での作戦を任務としている。金議員はまた、HID部隊の2日目の命令は中央選挙管理委員会に混乱を引き起こすことだったと述べ、「かれらは単純な逮捕チームではなかった」と語った。金議員はよりいっそうの調査を呼びかけている。
12月13日には、議会に、独立ジャーナリストの金於俊が登場し、爆弾を投下するような発言をした。クーデター未遂の初期に軍の標的にされたスタジオをもつ金氏によれば、「ある同盟国の大使館」の関係者が、戒厳令の夜に大統領の与党の韓東勲を暗殺する計画を尹が立てていたと語ったという。
金於俊氏は、朝鮮の軍服を着た特殊部隊が「暗殺部隊」として活動し、次のような計画を企てたと主張した。「第1に、韓東勲を捕縛したのちに輸送中に暗殺する。第2に、曹国、楊正哲、そしてわたしを護送中の捕縛部隊を襲撃し、かれらを救出するふりをする。第3に、朝鮮の軍服を特定の場所に埋める。第4に、しばらくして軍服が発見され、事件が朝鮮によるものとされる」、というものである。
曹国は少数派の祖国革新党を率いる反尹派の政治家であり、楊正哲は文在寅前大統領の有力な元側近だ。
また、金於俊は、「米軍兵士を殺害して米国の爆撃を誘発する計画」を立てていたとの情報を得たとし、生物化学テロ攻撃も検討されていたと明らかにした。それで、尹大統領は、征服を通じて分断を終わらせた「統一の大統領」として名乗りをあげられる状況を作りだそうとしたのだ。
金於俊は、自身の主張が衝撃的なものであることを認めつつ、「バカげた作り話のようだ」と表現し、「わたしはすべての事実を確認したわけではないという前提で言っている」と説明した。
金記者はさらに、ファーストレディの金建希もOB(諜報部退職者のこと)と連絡したと主張した。通話の内容は確認できなかったが、金記者は「彼女の夫は最高指揮官であり、通話が治安妨害に関係している可能性がわずかでもあるなら、リスクは冒すべきではない」という理由から、この問題を議会で提起した。金記者は、大統領夫人の通信を制限するように議会に求めたのである。
与党「国民の力」の権性東院内総務はこの証言を「フェイクニュース」と一蹴しているが、「共に民主党」はいっそうの調査を約束している。在韓米国大使館は、金於俊に情報を提供したことはないと否定し、米国の情報機関は偽りの「朝鮮による攻撃」を区別して韓国政府に通達することができるのだ、と説明した。しかし、この声明は、前日に韓国のMBCニュースのインタビューでブラッド‐シャーマン下院議員が述べた内容と酷似しているため、一部の関係者のあいだで米国大使館に対する疑惑をより深める結果となった。
(『ピープルズディスパッチ』2024年12月13日付)
【訳=大村歳一】 (『思想運動』1108号 2025年1月1日号) |