石破壊憲・戦争内閣と闘おう!
前面に出てきた「9条自衛隊明記・緊急政令」改憲

高梨晃嘉(「戦争させない横浜市民ネットワーク」世話人)

 8月7日の自民党憲法改正実現本部の会議に出席した岸田首相は、8月末までに憲法9条への自衛隊明記に関する「論点整理」を指示した。これは、自民党をはじめ改憲派が6月23日に閉会した第213回通常国会までは一致して進めてきた「緊急事態における国会議員の任期延長」改憲を、「9条自衛隊明記」と「緊急政令」まで拡げて改憲をめざす、いわば方針変更であった。9月2日に行なわれた自民党憲法改正実現本部全体会議では、憲法に自衛隊を明記するために「9条の2」を新設する、内閣が法律に代わって制定する「緊急政令」の根拠規定を憲法に定める、などの「論点整理」が全会一致で承認された。そのうえで、岸田首相は、この改憲路線の継承を総裁選候補者に求め、総裁選では候補者9名中石破茂元防衛相など6名が「9条自衛隊明記」と「緊急政令」を公約に掲げて選挙戦を展開し、10月1日に石破新政権が誕生した。

「9条改憲」の具体的中身が問題だ

 「論点整理」から石破新政権の発足に至るまでの間、そしていまも、野党からも労働団体、市民団体からも、「自衛隊明記・緊急政令」改憲に向き合い、なぜこれらの改憲に反対すべきなのかについて具体的な声(説明)がほとんど聞かれない。いままでと同様に「『戦争する国』づくり改憲反対」とか「9条改憲反対」の一般的抽象的なスローガンが消費され続け、改憲への危機感を改めて共有するための取り組みもほとんど提起されない状態が続いている。
 いま、わたしたちに求められているのは、「9条自衛隊明記」と「緊急政令」の改憲のなにが問題なのか、改憲でなにが変わるのか。なぜ、いまになって自民党が「9条自衛隊明記・緊急政令」を持ち出してきたのか、などを明確にして、反撃体制づくりに早急に取り組むことだ。
 「9条の2」として自衛隊を9条に明記することは、武力・戦力の保持を宣言することであって、現憲法の前文にある平和的生存権と憲法の基本原理である平和主義の放棄である。自衛隊明記は「国防(=国家)」という価値を憲法上の新たな価値とすることであり、わたしたちが求める基本的人権の尊重という価値の実現に対し「国防」を理由にあらゆる制限を課すことが可能となる。メディアの統制・情報の統制も「国防」を理由にこれまで以上にすすめられる。福祉予算・教育予算が削られ軍事予算の拡大がさらに優先される。
 現在は行政府下の防衛省管轄の自衛隊であるが、憲法に明記されれば、「国防軍」として、立法府(国会)・行政府(内閣)・司法府(裁判所)と同格の憲法上の国家機関に格上げ・位置付けられることになる。行政府下の防衛省が管轄する自衛隊であればシビリアンコントロールの主張も可能であったが、内閣と同格の国家機関である「国防軍」を統制・抑制する仕組みが憲法上にはないのでシビリアンコントロール自体が成り立たない。そして、何よりも国民皆兵制でもある徴兵制が憲法違反ではなくなりその復活が可能となる、土地収用が認められない自衛隊の基地の建設も可能となり国民の財産権の侵害も堂々と行なえる、武力・戦力の保持を宣言することで攻撃的武器の開発・保有、そして武器の輸出が制限なくできるようになるなど、「9条自衛隊明記」にはわたしたちが承服できない多くの問題点があることを具体的に暴露して改憲阻止のたたかいをすすめなくてはならない。
 法律に代わる「緊急政令」を内閣が勝手につくることは、国民の意志を無視するという点で現憲法の基本原理である国民主権の否定を意味する。政令は本来国民の代表者がつくる法律の委任があってはじめて内閣が定めることができるので、法律の委任のない政令を内閣が独断でつくることは立法府たる国会の存在とその役割の無視、三権分立の否定であり、内閣(その長たる総理大臣)の独裁となる。

「自衛隊明記」を急がせる背景とは

 わたしたちはなぜいま自民党が「自衛隊明記」と「緊急政令」を再び持ち出してきたかを問わなければならない。
 自民党は、「憲法改正」を党是としており、とりわけ自衛隊の創設以降は、憲法9条の武力・戦力の不保持・交戦権の否認と自衛隊の存在との矛盾を「専守防衛」論をはじめとした解釈改憲で違法な自衛隊を「合法的存在」と言い訳しながら明文改憲の機会を虎視眈々とうかがってきた。ことに安倍政権のもとで、日米防衛ガイドラインの見直し、集団的自衛権行使容認の閣議決定(2014年)、安保法制の制定(2015年)などが行なわれ、中国や朝鮮の「脅威」を喧伝しつつ、米軍への支援協力という名目で米軍が行なう戦争に参加する道を開き、辺野古新基地建設や琉球弧への自衛隊配備・ミサイル要塞化をすすめてきた。
 憲法改悪を前提とした既成事実づくりがすすんでいる。中国をはじめ「グローバルサウス」諸国の成長がアメリカ一極支配の覇権体制を揺るがしており、アメリカは覇権を回復・維持すべく、ことさら「米中対立」「中国脅威」を煽りたて、中国へ経済制裁などの介入・干渉を強め、併せて軍事的にも「中国包囲網」づくりを推進し、同盟国にもその一翼を担わせようと軍事同盟の再編成をすすめている。岸田政権は、2022年12月に安保3文書の改定を閣議決定し、その中で「中国・朝鮮・ロシア」を「最大の脅威」(=敵)とはじめて明記した。そして現在、日米共同、日米韓共同の軍事演習、最近ではこれらの共同軍事演習にフィリピンやNATO加盟国軍、朝鮮国連軍加盟国なども参加するなど、アメリカの代理として中国との戦争の一翼を担うための軍事演習が頻繁に行なわれている。こうした中で、この4月のバイデン・岸田会談では、岸田自身が日本をアメリカのグローバルパートナーと位置付け、米日軍事一体化の運用とそのグローバルな展開を掲げ、その指揮統制機能の緊密化・統合化による運用の統合、武器の共同開発などを共同声明で明らかにした。帰国後の国会では戦争推進の障害となる事態を統制・管理するための法整備を次々とすすめ、NATO首脳会議にも出席した。自民党は、アメリカはもとよりNATO加盟国を含めた相互共同の軍事的対処を行なっていくには、9条の存在が大きな障害・足かせとなっている事実を再確認し、「9条自衛隊明記」を急いでいる、と見なくてはならない。
 さらに改定安保3文書で明記された「能動的サイバー防御」は2025年の通常国会でその法制化が予定されている。これも同様に、アメリカやNATO加盟国ではすでに「前方防衛」の名のもとに相手国への防諜・謀略に基づく先制攻撃手段としてのサイバー攻撃が陰に陽にすすめられており、サイバー攻撃でも同盟国の一体化した対応の履行が求められている。「自衛隊明記」なくして「能動的サイバー防御」は実現できないとの認識に立った取り組みがすすめられているのである。
 加えて、いま自衛隊では、防大卒業生の任官拒否が続いており、募集をかけても募集人員の半分近くしか応募がない状態である。兵士たる自衛隊員数の現状は、「使い捨ての兵士がいなければ戦争はできない」(飯島滋明)状況にあり、戦争をはじめるためには「使い捨て」兵士を確保せねばならず、憲法への自衛隊明記によってそれをすすめようとしているのである。
 法律に代わる「緊急政令」についても、その目的は、戦前の国家総動員体制づくりと治安維持法がそうであったように、戦争と国家権力に反対する者への監視・抑圧・排除を容易に行なえるようにすることである。
いま神奈川では、以上の認識・考えを「討議資料:『9条自衛隊明記』改憲とは何か~その問題点と反撃の組織化へのプログラムの検討」にまとめて、これをたたき台に意見交換を進めながら、横浜、川崎、横須賀の各グループと学者・研究者の集まりである神奈川憲法アカデミアの4者連携を軸に改憲阻止に向けたオール神奈川としての反撃体制づくりを始めている。「戦争させない」と「改憲阻止」を一体の取り組みとした反撃体制づくりの狼煙を各地域から挙げていこう。

(2024年10月13日)
(『思想運動』1106号 2024年11月1日号)