新興国の伸長を前に親米・グローバルな同盟強化にひた走る岸田政権


戦争法が次々と成立

 自民党の裏金づくりに端を発した「政治とカネ」の問題が連日マスメディア、国会で取り上げられるなか、岸田内閣の支持率は低迷を続け(20%前後で推移)、4月末に行なわれた衆参3補欠選挙では、立憲の候補が全勝するという結果まで出た。しかし、今国会の動向を見ると、危機・劣勢にあるはずの自民党提出の戦争推進法がろくに審議もされず次々と通っていく非常に危険な事態が進行している。
 8兆円を超える軍事費を盛り込んだ24年度予算→3月28日成立、秘密保護の対象を経済、民間人にまで広げ管理・統制を徹底する経済秘密保護法→5月10日成立、3自衛隊を一元的に指揮する「統合作戦司令部」創設を柱とする改定防衛省設置法→5月10日成立、次期戦闘機の日英伊3国共同開発のための条約→5月14日衆院で承認、地方自治の否定につながる改定地方自治法案→5月28日、衆院総務委員会で可欠、戦時の食料確保対策定める食料供給困難事態法案→衆議院で審議中等である(関連記事5面)。

軍拡の背景に世界の構造変化

 こうした急速な戦争国家化の動きには、米国を中心とする帝国主義総体のきわめて強い意志・圧力が働いている。帝国主義各国を「中国包囲」の戦争体制づくりに遮二無二駆り立てる背景には、世界の構造変化=西側帝国主義の衰退・弱体化に対する強烈な危機意識がある。一九九〇年前後の社会主義世界体制の倒壊後、米国を中軸とした帝国主義国は、一元的世界支配(全世界で好き勝手に労働者人民を収奪できる体制)の実現をめざし、一方でグローバル化と称して、民営化、規制緩和、階級的労働運動の破壊を共通の内容とする新自由主義的な社会・経済秩序を各国に押しつけるとともに、数々の侵略戦争(湾岸戦争、ユーゴ空爆にはじまり、アフガン、イラク、リビアへの侵略、そして現在のウクライナ戦争まで)や各種反革命クーデター・不安定化工作(カラー革命等)を行なってきた。
 しかしこんにち、帝国主義の人民収奪と侵略戦争による暴力的世界支配を打ち破ろうとする構造的・歴史的変化が生じている。急速に力を増大させている発展途上国や新興国、社会主義中国、キューバ、朝鮮、旧社会主義国ロシアがさまざまな場面で共同歩調をとり、西側帝国主義の支配を乗り越えようとする流れだ。そして流れの中心には中国がいる。この大転換を何としても食い止め旧秩序に必死にしがみつこうと、西側帝国主義は、いまも絶対的・圧倒的優位に立つ軍事力、情報戦・心理戦の力を駆使して、ユーラシア大陸の東西から中国、ロシア、朝鮮を包囲し壊滅させる戦争政策を押し進めている。まさにウクライナ戦争はそのような性格の戦争として行なわれているし、イスラエルのガザ殲滅作戦も大枠では同じ西側帝国主義の世界戦略の一環だ。
 この米帝主導の包囲戦略に日本を含む同盟国をこれまでになく強固にかつ強権的に組み入れることが急速度で進んでいる。とりわけウクライナ戦争以降、これらの諸国は例外なく格段に軍事費を増大させ、先制攻撃用のミサイルや戦闘機等の実戦的配備を本格化させている。またNATO諸国の間で、アジア太平洋地域では日米同盟を基軸にアジア版NATOを指向する諸国の間で、さらに双方の垣根を超えて、軍事的連携の強化・緊密化(指揮系統の統合等)がはかられ、核攻撃を含むより実戦的な合同演習(戦争挑発そのもの)が間断なく繰り返されている。またこれら諸国間での武器輸出や兵器の共同開発体制のグレードアップも一段と進んでいる。

労働者が反戦闘争の先頭に

 西側帝国主義に対抗する諸潮流にも、さらに前提となる対立の基本的構造にも、階級関係に基礎を置く矛盾を含めて検討を要する問題や捉え方の違いがあり、この流れ・変化をそのまま丸ごと肯定はできない。だが、現在戦争政策を押し進めている勢力は、中国、朝鮮、ロシアに対する不当な(真実に基づかない)敵視キャンペーンをテコにそれを遂行しようとしている。3国を敵視する策動との対決は現在の平和運動の最重要な課題だ。
 先述のように帝国主義の戦争衝動は、世界の構造変化によって従来の収奪基盤を失うことへの恐怖に根差した深刻な危機意識=階級意識に基づいている。労働者人民をほしいままに搾取・収奪できる体制を手放さないために行なう戦争だ。ここからも、資本家の金儲けのために労働者同士を殺し合わせることが現代の戦争の本質であることがわかる。だからこそ、労働者・労働組合は階級意識を研ぎ澄ませ反戦平和の運動の先頭に立つべきなのだ。

【大山歩
(『思想運動』1101号 2024年6月1日号)