国際婦人デー3・9東京集会 基調報告
戦争をとめよう!
イスラエルはジェノサイド攻撃を中止せよ

本藤ひとみ(集会実行委員会)

歴史的流れのなかで戦争をとらえよう

 わたしは最近、戦争についてずっと考えています。「戦争」という言葉には「殺す」という文字は入っていませんが、戦争というのは、人と人との殺し合い、虐殺にほかなりません。だれも殺したり殺されたりしたくはないはずですが、人間は太古の時代から殺し合いをしてきました。
 本日の集会のテーマは、「戦争をとめよう」です。どうしたら戦争をとめられるのか、方法はあるのか、みんなで考えたいと思います。「戦争反対」「だれも殺すな」というメッセージを伝えていきたいと思います。
 ウクライナやパレスチナでいま起きていることは遠い国の出来事ではありません。すべて現在日本に暮らすわたしたちに繋がっています。そして戦争は、すべて過去の歴史と繋がっています。
 21世紀は、2001年9月11日のアメリカ同時多発テロで幕を開けました。アメリカは、NATO諸国など同盟国とともに「テロとの戦い」を口実に、アフガニスタン、イラク、リビアなど世界各地で戦争を行なってきました。その後も戦火はやむことはなく、2022年2月にロシアによるウクライナへの「特別軍事作戦」の実施、2023年10月には、イスラエルのガザ攻撃が始まりました。そして双方とも収束のめどがたっていません。
 しかしそもそも戦争は突然起こるものではありません。まず、ウクライナ戦争は「領土拡大を目指す独裁者プーチンの侵略戦争」などという乱暴なくくりはできません。ソ連・東欧諸国の社会主義体制の倒壊後、NATOが東方拡大をしないという約束を反故にして拡大を続けたこと、ロシアの隣国ウクライナで起きた2014年のマイダンクーデターは、アメリカ寄りの政権を作り、NATO加盟を推し進めるためのものだったこと、新しい政権が、ウクライナ東部のロシア語を話す住民への軍事弾圧を行なったことなどを始めとしたさまざまな要素があります。
 また、イスラエルのガザ攻撃も、きっかけはハマスらパレスチナの抵抗組織によるイスラエル奇襲ですが、現在イスラエルが行なっているのは、パレスチナ人民を抹殺するためのジェノサイドです。そもそもパレスチナ問題は、イギリスをはじめとする欧州やアメリカに責任があります。それに日本も加担してきました。一元的世界支配の野望に、イスラエルのユダヤ人が、パレスチナのアラブ人が、中東の国々が翻弄されてきました。そして忘れてならないのは、強大な力をもつ帝国主義の野蛮に対する人民の抵抗の歴史があることです。
 第一次世界大戦後、イギリス・フランスの委任統治領という植民地支配のなか、その後第二次世界大戦後はアメリカが加わり、パレスチナにユダヤ人国家を認めてしまったことが混迷の始まりでした。1948年にイスラエル建国宣言が行われるとアメリカはそれをすぐに承認しましたが、第一次中東戦争が勃発し、70万人以上のパレスチナ難民が生まれました。そしてイスラエルはその後も戦争で領土を拡大し続けています。1993年のオスロ合意に始まる「中東和平プロセス」は、パレスチナ人の帰還権が認められていないなど、重大な問題を含んでいて機能せず、イスラエルが一方的に入植地建設を進めてしまいました。2007年以降はガザ地区を封鎖し、水や電気の供給、食料の搬入も強く制限し、パレスチナ人の生活を困窮状態に陥れました。「天井のない監獄」と言われているゆえんです。
 イスラエルは、ハマスをテロリストと呼ぶことで、過去の歴史を覆い隠そうとしています。アメリカが9・11後に「テロとの戦い」の名のもとにアフガニスタンやイラクに攻め入ったのと同じことです。過去から現在に至るまでアメリカのイスラエル寄りの政策が、植民地支配の歴史・構造を今に引き継いでいます。
 対米従属の日本も責任を負っています。日本では、アメリカの言い分ばかりが報道されています。報道を多面的、批判的に見ないと情勢を見誤ります。最近の『読売新聞』のCMでは、若い女性が「読売新聞を信じてもいいですか」と語りかけています。企業メディアの厚顔ぶりをあらわしています。『読売新聞』がいいか悪いかという問題ではなくて(いいか悪いかで言ったらもちろん悪いのですが)、ひとつの言説、一方の言い分を信じていいわけがありません。
 アメリカ同時多発テロについては、なぜ起きたのかが語られることはなく、「テロとの戦い」が正義とされました。アメリカはそれまで、そしてそれからも繰り返しジェノサイドを行なってきました。第二次世界大戦で、広島・長崎に原爆を落とし、その後も朝鮮戦争、ベトナム戦争と、世界中のあらゆる紛争・戦争に関わってきました。9・11は起こるべくして起きたとも言えます。

米のイスラエル寄り政策に追随する日本

 現在の戦争に話を戻すと、いかなる理由があっても、大量虐殺、ジェノサイドは看過できません。ガザではこれまでに2万6000人以上が殺され、そのほとんどが女性と子どもです。
 イスラエルは、停戦するどころか多くの一般市民が避難しているガザ地区南部ラファへの地上作戦を強行する構えを見せています。戦闘休止交渉も進展を見通せません。市民の犠牲がさらに拡大しかねない中でも、2月21日、国連の安全保障理事会では、人道目的での即時停戦を求める決議案が、アメリカの拒否権行使により否決されました。これまでもアメリカは、繰り返し停戦や戦闘休止を求める決議案に拒否権を行使してきました。
 国連安保理がわたしたちの期待するような結果をもたらしていないのは間違いありませんが、したり顔で「国連の機能不全」と言って済ませるつもりはありません。世界の各国の協調、つながりには希望を見出す必要があります。
 昨年の12月、南アフリカは、イスラエルを国際司法裁判所に提訴しました。イスラエルがガザ地区で行なっていることは、国際条約に違反するジェノサイドにあたるというのがその理由です。国際司法裁判所は1月26日に、暫定措置命令を発出しました。これは、イスラエルが条約違反を行なっているか否かを判断したものではありませんが、ガザ地区のパレスチナ人に対して、緊急に必要とされる人道支援を可能とする措置をとること等を命じるものです。
 ところが同じ日に、アメリカは、国連パレスチナ難民救済事業機関・UNRWA(アンルワ)に対する資金拠出の一時停止を発表しました。イスラエルへのテロ攻撃に一部の職員が関与したとの理由です。日本やドイツ、フランス、イタリア、スイス、オーストラリアなど15か国以上がアメリカに追随しました。
 UNRWAは、パレスチナ難民を直接救済する目的で1949年に設立されました。中東に住む500万人を超えるパレスチナ難民に必要不可欠なサービスを提供しています。その中には、ヨルダン、レバノン、シリアの難民キャンプなども含まれています。教育、保健、社会福祉やキャンプのインフラ整備、武力紛争時も含めた緊急援助などを担っています。パレスチナ難民の数は増え続け、現在では600万人近くにのぼっています。UNRWAでは、約2万人が教師、約3万人が医療関係の仕事に従事していて、国連の中で職員がもっとも多い機関なのです。
 現在ガザでは170万人が自宅を追われ、その多くはUNRWAの施設に避難していて、その支援に依存せざるを得ないのが実情です。資金停止が長期化すれば、人道危機の深刻化が懸念されます。
 メディアの注意をイスラエル批判からそらすために、アメリカは、あえて国際司法裁判所の暫定措置命令の直後に発表したのです。UNRWAの職員がテロに関わったといいますが、確たる証拠も示さず、関わったとされる職員の数などもあいまいです。またたとえそれが事実だとしても、ごく一部の職員の問題で、組織全体が、支援を受けている大勢の人たちが、集団的懲罰を受けるのは理屈が通りません。人道支援を増やすように命じられた直後に各国が人道支援機関への拠出停止を発表するなどというのは、到底許せることではありません。
 拠出停止に懸念を示した国もありますが、日本はここでもアメリカに追随するばかりです。日本は、「国際司法裁判所が果たしている役割に支持を表明します。引き続き、関係国・国際機関と緊密に意思疎通を行ないつつ、すべての当事者に、国際人道法を含む国際法の遵守を求めます。人質の即時解放、人道状況の改善、事態の早期沈静化に向けた外交努力を粘り強く積極的に続けていきます。」とコメントし、きれいごとを言っていますが、実際は、日本の外交政策はすべて日米安保ありきで、アメリカの戦争戦略と歩調を合わせています。政府は昨年12月に、安保三文書を改定し、殺傷能力のある武器を海外に輸出することを可能にしてしまいました。それも国会での議論なしに閣議で決めてしまったのです。平和主義にのっとり国際紛争を助長しないとする日本国憲法に違反していることは明白です。

人びとの暮らしを犠牲にして軍拡を推進

 武器輸出によって軍需産業は潤います。資本主義にとって、戦争は儲かることなのです。アメリカはイスラエルやウクライナへの軍事支援を「投資」と言ってはばかりません。米軍のもつ古い軍備を供与し、国内で新しい軍備を装備すると同時に、他国にも輸出するという図式です。日本は、そのアメリカに追随した上でさらに、自らが軍産複合体を作りアジアで戦争を起こそうとしています。戦争する国造りのために沖縄の島じまにミサイル基地を造り、辺野古で新基地建設を強行しています。「台湾有事」や「朝鮮半島有事」に備えるとして、アメリカと親米諸国とともに合同軍事演習を急増させています。朝鮮は、戦争が起きるか起きないかではなく、いつ起きるかという問題だと危機感を募らせています。そもそも朝鮮戦争は終わっていません。いまだ休戦状態です。
 日本のメディアは、朝鮮戦争の終結を阻害し続けている日米韓の合同軍事演習についてはほとんど報道せず、朝鮮の対応ばかりを報じています。労働者・人民が恐怖を感じれば、防衛が必要だという政府や財界の言い分に騙され軍事費の増強やそのための増税に反対をしなくなると目論む政府・自民党に都合がいいことばかりです。
 政府は、常軌を逸した戦争準備のための予算を作成する一方、日本に暮らすわたしたちの暮らしについては一顧だにしません。大企業の内部留保は過去最高、株価もバブル期を超えた最高値を記録したと報道されていますが、人々の暮らしは楽になっていません。賃上げムードとはいうものの、物価高騰には追い付かず、実質賃金は低下の一途をたどっています。日本の労働者の約4割は非正規労働者で、その多くが賃上げの恩恵も受けられない低賃金です。そのうえ、女性はさらに低賃金です。2022年7月から、男女の賃金格差の公表が義務付けられていますが、結果、女性は男性の4割から8割の賃金しか得ていないことがわかりました。恐ろしいほどの賃金差別です。そして驚くべきことに、企業規模が大きくなるほど差別が拡大しているのです。さらに国や地方自治体でも深刻な差別があることが明らかになっています。そして、「異次元の少子化対策」の財源は、社会保障費の削減や、増税しないと言っておきながら支援金と称するさらなる負担増です。労働者の命と暮らしを守らないで、出生率が上がるなどということはあり得ません。
 日本の金権腐敗政治は極まり、自民党派閥の政治資金パーティー収入をめぐる裏金問題も明らかになりました。しかし政治倫理審査会が開かれても政治家たちは「自分はいっさい関与していない」と秘書や会計責任者に責任を押し付けるばかりです。
 その一方で、軍事費増強をもりこんだ2024年度の予算案は、与党の数の力であっさりと可決されてしまいました。さきほど触れた安保三文書の「5年間で防衛費に43兆円使う」「1年間の防衛費を対GDP比で1%から2%へ倍増させる」という方針どおり、防衛費という名の軍事費は、1兆円以上増額の約8兆円が計上されています。今後予定されている防衛費増税には世論調査で反対が71%を占めていますが、政府は耳を貸すつもりはありません。
また、政府が推し進める原発活用ですが、原発はクリーンなエネルギーという欺瞞で、大勢の人が被害に苦しんでいます。能登半島地震では、運転停止中の志賀原発、住民運動で計画をとめた珠洲原発が話題にのぼり、地震大国ニッポンでの原発運用の対策の脆弱性、おそろしさが改めて浮き彫りになりました。
 どこまでも際限なく利潤を追求する資本主義社会のありようが、社会的弱者を苦しめ、世界中で武力衝突を招いています。「お上の言うとおり」はもうやめて、わたしたち労働者、生活者、人民が主体となって社会をつくっていきましょう。わたしたちは社会を変えられるし、現に変えて、次の世代に伝えていかなくてはなりません。それは困難ですが、あきらめられない闘いです。自身の存在が脅かされるだけではなく、自分の家族や大切な人に危険が迫り、そして人類の終焉につながるからです。
 それでも、表向き平和な日本に暮らしていて、自分に何ができるのだろうかと自問自答することもあるかもしれません。冒頭に、集会のテーマは「戦争をとめよう」だと言いましたが、ことがらが大きすぎて自分にできることは何もないような気がする、戦争反対と誰に向かって言えばいいのか、各地で集会や行動が起こっているけれども、為政者の耳に届くことはあるのか、と無力感を感じるかもしれません。

職場のある女性組合員の闘い

 ここで、少し話を変えて、わたしの職場での話をします。もう何年も前の話ですが、労働組合で長く要求していたある職種の切実な要求が実現したことがありました。ある女性組合員が、これは組合の成果としてすごいことだからと、同じ職場の当該職種の未加入者全員と個別に話をして加入を呼びかけました。結果的に成果には結びつかなかったのですが、そのとき彼女に聞いた話です。ある未加入者が、組合や政治の話をする中で、「自衛隊増強には賛成、中国が攻めてきたら守ってもらわないといけない」と言ったそうです。日本が被害ではなく、加害の歴史と向き合ってこなかったことで、アジアで戦争を起こそうとしているのは、中国や朝鮮ではなくて、日本の方だということを知らない人がなんと多いことでしょうか。彼女は「自分ができる範囲で反論した」ことと「自分が普段いかに同じ意見の人としか付き合っていないか思い知らされた」ということを言っていました。もちろん志を同じくする人と励まし合って運動するのは大切なことです。でも世の中を変えたいのなら、一歩踏み出す勇気が必要です。そんなに簡単なことではないのはわかります。でも彼女にはその勇気がありました。組合役員としての義務感というわけではありませんでした。意見の違う人と話をして、心にさざ波が立つようなことがあります。いやな気持になることもあります。ただ、同時に相手の心にもさざ波が起こっているはずです。さざ波までいかない、小さな波紋のようなものかもしれません。でもなにかが起こるはずです。
 わざわざ意見の違う人をさがさなくても、自分の親でも兄弟でも子どもでも、職場の同僚でもいいのです。声高に説得する必要はなく、なにか違った意見がある、違う信念があることを感じ取ってもらえたらいいのだと思います。相手のこころに小さな波紋を起こしましょう。
わたしたちは新自由主義的な考え方を否定しています。お金をたくさん持っている人の方が偉いなどということはない、というのは当然のことです。また、女性より男性の方が偉い、ということももちろんありません。
 でも普段の生活や活動の中では、立派な文章を書ける人が偉い、話がうまい人が偉い、発言力のある人が偉い、運動のリーダーになれる人が偉い、それにひきかえ、自分にはなんの力もない、などと思いがちではないでしょうか。でも、ささやかでも、それぞれ自分のできることをやることが重要です。わたしはいつもさきほどお話した彼女のことをお手本として思い出します。そういった人の方が偉いと思います。いいえ、今、間違ったことを言いましたが、誰が偉い、などということはありません。わたしたちひとりひとりに同じ価値があります。お互いを尊重し、大事にしていきましょう。そして、だからこそ、それぞれに同じ価値がある人びとが無残に殺されている不正義に異議申し立てをしなくてはなりません。
 自分が声をあげても何も変わらない、そんなあきらめが、今日の政治状況を作ってしまっています。ささやかでも声をあげる、相手の心に小さな波紋を起こす、そこから始めましょう。どんなに意見が合わないと思う人でも、戦争をとめよう、ということには賛同してくれるのではないでしょうか。
 もしかしたら、必要な紛争、正義のための戦争、平和構築のための戦争は是とするという人もいるかもしれません。でも本来であれば、軍隊はない方がいいし、武器や核もいらないのです。誰しも自分や家族が戦争で殺されるのはいやです。
 戦争をとめるためには、わたしたち労働者・人民が力を持たなければならなりません。わたしたちは力を合わせてこそ強くなれます。分断されれば弱くなるのです。そうはいっても、わたし自身、職場での労働組合の影響力の低下に落ち込むこともあります。でも、これからも一労働者として職場愛をもって活動していきますし、また、職場以外の人ともつながって、よりよい世界を目指していこうと思います。
 本日の集会ではこのあと、朝鮮の問題、労働現場の問題、沖縄の問題についての報告があります。反戦の詩の朗読もあります。ともに考え、集会後はデモ行進で行動もしていきましょう。どうぞ最後までお付き合いください。

(『思想運動』1099号 2024年4月1日号)