羽田空港航空機衝突事故に思う
真犯人は誰なのか
必然的「事故」は犯罪事件

「人不足」は現象であって原因ではない

 1月2日の羽田空港での航空機衝突事故は起こるべくして起きた「事故」だった。日航旅客機に死者が出なかったことを「奇跡の18分」と呼んだりもしているが、それは寸でのところで大惨事になるところだったということだ。20年以上前の話になるが、航空労組の人が訴えていたことを思い出した。羽田空港は過密化され危険な状態であるにもかかわらず管制官など現場の労働者は減らされ、非常勤化など責任を持てない雇用形態にどんどん変えられている、いつ事故になってもおかしくないと。
 ニュースを検索していると、羽田での離着陸回数は増え続け昨年は世界第3位になったという。平均で2、3分に1機、もっとも多いときで40秒に1機の離着陸になったが、この6年間でも管制官の人数は据え置かれてきたという。
 もともと首都圏の空の半分を占める横田基地の空域が、羽田空域と接するため羽田管制官は横田の米軍航空管制と常時、連絡・調整が必要であり、しかも軍用機の離発着は不定期で事前調整が困難なため、複雑な管制業務が必要なのだとも言う。さらに「全国の空港制限区域内で起きた地上事故が去年の4月から11月で過去最多の38件にのぼり、同じ時期としては国が統計をとり始めてから最も多いことがわかった」(12月8日、NHK)。「(羽田や成田など6つの空港でグランドハンドリングなど担う大手)スイスポートジャパンの労働組合は、需要回復に人材確保が追いついておらず、長時間労働が改善されないとして、会社に対し、来月(12月)から一切の時間外労働を行わないと通告」(11月16日、NHK)というのもあった。その会社では労働者の「およそ6割が1年未満の新人のため、一部の中堅社員に業務が集中」し超過勤務が過労死ライン限界に達していたという。安全確保など出来るわけがない。
 しかし、どの報道からもそれらの原因を「人不足」(しかもコロナによる)と片付けている。つまり新型コロナで減った航空需要が回復したが、それに労働力の確保が間に合わないと。しかし当たり前の話だが労働現場での「人不足」は現象であって原因ではない。「もともと給料がそんなに高くないところにコロナで減便して…収入が低くなり…中堅の人たちは見切りをつけて辞めていきました」という現場労働者へのインタビュー記事からは賃下げや非正規など雇用の不安定化(資本の側はこれを「流動化」と言う)がコロナ・パニックのずっと前から進められていたことを訴えている。コロナパニックの3年前の2016年実施の現場へのアンケート調査では、9割弱が「人員不足」、7割近くが「ゆとりのない労働環境」、4割強が「教育・経験不足」を感じると答え、6割が健康不安を抱え、約7割が6時間以下の睡眠時間とあった。

現場の危機的状況は政策的に作られた

 航空業界の「奇跡」といえば「JALの再生」を思い出す。稲盛和夫がその「奇跡」を起こした「神様」であるかのようにもてはやされた。しかし、その本質は放漫経営による破綻を徹底した「人員整理」=賃下げと首切りで「再生」させたのであって、7~8割が人件費と言われるグラハン業界がもっとも影響を受けた。この「神様」はその象徴だ。今回の「事故」は神がもたらした厄災ではない。グラハン業界の再編→新規参入と競争の激化→賃下げ・非正規化・労働強化→歯止めのかからない退職……という流れが政策的に作られた必然的結果だった。しかし、現場の危機的状況が長年訴えられ、それが現実になっても国交省は「事故の要因はまだはっきりしていない」「業務を精査するなかで、人員が必要であれば要求していく」と「人件費」の抑制(規制緩和)方針を変える素振りすら見せない。必然的「事故」は事件であり、それには神ではない犯罪者が現存する。

どうして警察権力が事故調査

 しかしここに「日本国内で航空機事故が発生した場合、警察が事故原因…捜査する…これまで日本において発生した航空機事故では、警察が調査したことで原因の究明に大きな支障をきたしたという事例がいくつもあった…警察による調査はあくまでも犯罪捜査であり、事故原因を究明するための調査ではない」(日本航空安全推進連絡会議による緊急声明より)との抗議の声がある。つまり事故調査のあり方がまでもが原因の究明と再発防止ではなく、現場労働者を「犯罪者」に仕立てる仕組みとされているということだ。しかも警察は決して真の犯罪者を捕まえない。それは労働者階級の組織にしかできない。
労働者運動の復権なくして社会的安全も平和もない。
万国の労働者、団結せよ!

【藤原晃】
(『思想運動』1097号 2024年2月1日号)