〈2024年 年頭にあたって〉
目前の課題に取り組むことが全体状況と直結する

 安倍・菅を引き継ぐ岸田政権の下で政治資金裏金づくりがマスメディアを賑わしている。世論調査には内閣支持率が2割を切り不支持率が7割を超えるものまである。軍事費の歴史的倍増と財源が話題になる中で、独占企業の優遇税制には手をつけず、高齢者介護保険の自己負担を1割から2割、国民年金保険料支払い期間の5年延長、厚生年金の減額、退職金の非課税枠や配偶者・扶養・生命保険料の控除の縮小、消費税再増税の検討など、あからさまな民衆の負担増、それへの不満が蓄積していた。そしてうやむやにされつつある統一教会問題に加えて、またもや「政治と金」である。
 ロッキード、リクルート、佐川急便に続く歴史的大疑獄に政権維持の危機も言われはするのだが、12月13日に提出された内閣不信任案も自公の反対で否決された。国会内では野党議員が不正を追及し、いく人かの閣僚の実質的更迭もあったが、どこ吹く風の様子である。風前の灯火となっている「大学の自治・学問の自由」にとどめを刺す国立大学法人法改悪法案が12月13日に可決。20日には、辺野古埋め立て代執行を認める反動判決。「マイナ保険証」を強制する方針を21日に発表。22日、来年度の軍事費8兆円と殺傷武器輸出方針を閣議決定。27日、柏崎原発運転禁止を解除と、岸田政権は支配階級の歓迎する政治的仕事を着々とこなしている。
 自民党支持率も下がったとはいえ、いまだ3割。それに対して、他の野党は軒並み1割以下。小選挙区制度のもとではまだ安泰だ。世論状況によっては選挙もあるかもしれないが、そしたら薄汚れた「岸田」には最後までやることやらせて次の服に着替えればよい。何をやっても無駄と見せつけることは、それだけ若者を投票から遠ざける。それは現政権にとって好都合だ。
 この底が抜けたような政治状況に反撃するには何が必要か。われわれ労働者階級の置かれている現実から考えはじめなければならない。
 非正規雇用は約4割に達している。不安定雇用から逃れようと正規雇用になったとしても、1日13時間、酷いときは20時間の非人間的な労働を強いられる。たとえば学生時代から続けていたアルバイトから、声を掛けられて「正社員」になる。そうなった途端に「非正規」の管理を任される。ノルマに追われながら、日常業務をこなし、片付けながら明日の準備。働ける時間が不安定な学生アルバイトの勤務シフトをやっと組み終えた頃には日付が変わっている。仮眠を取ってそのままアルバイトの採用面接をこなす。そんな毎日にも、我慢を我慢とすら認識させないマインドコントロールが「社員研修」で若い脳に刻み込まれる。いくら若くてもそんな毎日は続かない。突然出勤しなくなる同僚にも「あいつは弱かったから」と理由を見つけ、「自分は大丈夫」と納得させる。それを繰り返すうちにさらに鬱症状は悪化していく。
 そんな労働環境の不安定が増せば増すほど、自分の子だけは「勝ち組」にさせたいという親や教師の思いが子どもたちを抑圧する。そこに受験産業が入り込み、よりいっそうの協力よりも勝ち抜くことを、連帯よりも自己実現が無意識的に内面化されていく。
 二〇二二年の年間自殺者数は2万1000人。年代別では10代から30代の死亡原因の1位が自殺だ。自殺する人がいればその何百倍の鬱症状があり、何万倍もの限界的生活がある。労働力の再生産どころか、生命の維持すら難しい戦争状態といえる。自分の状況をみずからの力で、変える回路がどこにも見いだせなければ「どうせ変わりはしない」と諦めるしかない。その最悪の選択が自殺として現われている。選挙政治の呼びかけにはリアリティがなく、声を上げる人たちの映像は余裕のある「勝ち組」にしか映らず、「ネット右翼」の主張に共感を覚える。そんな環境に置かれた者たちの耳に声が届かないのは当然のことではないか。
 いまほど労働者が仲間と団結して抵抗することが求められているときはない。それ以外に今日の悲惨な状況から抜け出す方法はない。
 何より、強いられる我慢を不当と感じ、職場の仲間と共感し、抵抗する経験が必要だ。たとえ具体的に成果を勝ち取ることができなかったとしても、仲間を信頼し、団体交渉の場で使用者と相対し、その表情が一瞬でも歪む瞬間を見ることで労働者は自信を取り戻す。職場がなければ、地域などのコミュニティのなかで追求していく。いまは、どんな団体の規約でも最低限の民主的な運営は掲げられている。それの本当の意味を問い返しながら旧態依然とした自治会やPTAなどの地域組織を変革していくことは可能だ。そしてその過程における必要な場面で、階級対立の問題を、その場に応じた言葉で明瞭に語っていく。
 本来ならばそれを一国の規模で組織的かつ計画的に展開することをめざすべきだろう。しかし、いまはそれを担う政治指導部も運動空間もない。それでも、その必要を共有する活動家の一人ひとりを見つけ出しつながることはできるし、それ以上の早道があるとも思えない。

【藤原晃・神奈川・学校労働者】
(『思想運動』1096号 2024年1月1日号)