烈士の抗拒と7月ゼネスト
尹錫悦退陣の先頭にたつ民主労総

 「わたしが本日、身体に火をつけることになったのは、罪もなく正当に労組活動をしたのに、(検察が適用した容疑が)集会・デモ法違反ではなく、業務妨害と恐喝だからです。/(これは)わたしの自尊心が許しません」(カッコは筆者の補足)――これはメーデー労働者大会が韓国各地で開催されていた五月一日、江原道江陵市にある春川地方裁判所江陵支院前で、尹錫悦政権による労働者弾圧に対してみずからの身体に火をつけて抗拒した民主労総傘下の全国建設産業労働組合連盟(略称、建設労組)所属組合員ヤン‐フェドンさんの遺書の一節だ。

どのような攻撃か

 鉄筋工であり建設労組江原支部の第三支隊長だったかれは、自己紹介をするとき、いつも「誇らしい民主労総江原建設支部のヤン‐フェドンです」と、みずからが民主労総所属の組合員であることを誇りとしていた。そのかれが、元請け・下請け・孫請けなど多重構造化した建設業界で、所属する建設労組の組合員たちの職の確保と安全な労働環境づくりのために地域の建設会社と交渉してきた、その当たり前の組合活動が「業務妨害」と「恐喝」に当たるとして、拘束前被疑者尋問のため、この日、春川地方裁判所江陵支院に出頭を求められていたのだ。
 ヤン‐フェドン烈士(義に殉じた人士を韓国では「烈士」と呼ぶ)にかけられた警察・検察の攻撃は、ひとりヤン‐フェドン烈士だけでなく、かれが所属する建設労組、ひいては一二〇万民主労総組合員すべてにかけられた攻撃である。
 シカゴ学派のフリードマンやオーストリア学派のミーゼスが説く「市場の専制」思想に深く共感していることを公言する尹錫悦は、建設現場で支配力を強める建設労組の活動を目の敵にし、「建暴」(コンボク=建設労組暴力団)なる新造語までつくって警察・検察権力を総動員して、建設会社の経営側を抱き込んで「恐喝」や「業務妨害」の「言質」をとり、建設労組幹部たちを逮捕・立件していった。その実態は次のようである。「検察はこのかん家宅捜索一九回、拘束二二人、一〇〇〇人以上の呼び出し調査を強行しており、警察は五〇人の特進まで掲げて労組の不正探し(実際は不正のでっち上げ)を行ない、労働者の闘争を暴力的に鎮圧。「権威主義的警察国家」が本性を現わしはじめたのだ」(『ハンギョレ』六月十五日付、金世均ソウル大名誉教授寄稿記事より)。
 ヤン‐フェドン烈士の抗拒は、こうした韓国資本家階級の弾圧に対する身を挺しての行動であった。

二五万人がストに

 こうしたなかで民主労総は、さる七月三日から十五日まで二週間のゼネストに起ち上がった。このゼネストは、今年二月に民主労総が開催した第七五回定期代議員大会で決定されたもので、それ以降、民主労総は「尹錫悦審判!」を掲げてこの政権の動向を注視し、大統領就任一年を迎えて行なわれた民主労総総力闘争大会(五月三十一日実施)からははっきりと「労働・民生・民主・平和破壊の尹錫悦政権退陣!」と規定して今回のゼネストを準備してきた。「審判!」から「退陣!」への認識の変化は、「イデロモッサルゲッタ!」=「このままでは生きてゆけない!」という韓国労働者・人民の悲痛な思いが込められている。
 ゼネスト終了後の七月二十四日に行なわれた「民主労総ゼネスト報告と今後の計画発表記者会見」によれば、「二週間の民主労総ゼネストに参加した人数は二五万三五三人と集計された(6/29、30のストライキ人員を含む)。産業別労組(連盟)別では、保健医療労組九万人、金属労組一〇万七〇〇〇人、建設労組三万一〇〇〇人、民主一般連盟七一〇〇人、サービス連盟六二〇〇人、化学繊維食品労組四〇〇〇人余、事務金融一七〇〇人、情報経済連盟一一〇〇人、公共運輸労組六〇〇人、大学労組四〇〇人、全教組一〇〇〇人だ」という。そして梁慶洙・民主労総委員長は、「政権と経営界の全面的な弾圧と妨害があったにもかかわらず、全国で二五万人余りの労働者がストライキに参加した。猛暑と大雨が続く状況でも一六万人余りの労働者が路上に出て闘ったのは、現政権の労働政策に対する労働者の怒りと民心が反映されたものだ」と評価した。
 韓国内で福島原発事故による核汚染水の海洋投棄問題を焦点化させたことや、保健医療労組の人員拡充などを求めた一九年ぶりのストライキ突入、さらにゼネスト最終日の七月十五日にソウルで行なわれた労働者、農民、貧民、青年、学生などの大衆組織四三団体を網羅した「尹錫悦政権退陣汎国民大会」への連動など、今回のゼネストが突きつけている課題は多い。最低賃金の引き上げや労働組合法二条・三条改正も喫緊の課題だ。
 民主労総は今後、今年下半期に向けて、八月十二日の第二回汎国民大会、九月十六日の第三回全国同時多発汎国民大会、十一月十一日の民衆総決起を通じ、尹錫悦政権退陣の要求をさらに拡大し高揚させる計画だ。「歴史的な必然性をもって、一定の契機のもとに、社会的な諸条件のなかから生まれてきたひとつの歴史的現象」(ローザ‐ルクセンブルク)である韓国の大衆ストライキ。一〇〇年以上前にローザがロシアを含む欧米労働者階級のストライキの動態に貪欲に学んだように、いまストライキをつうじて成長してくる韓国労働者階級の階級意識を、対岸のわれわれ日本労働者階級はわがこととして受け止める力を培いたい! 朝中日人民の団結は、ここでもわれわれにインターナショナルな課題を投げかけている。

【土松克典】
(『思想運動』1091号 2023年8月1日号)