「平和」を騙る戦争放火者どもの談合
世界と日本の現実をさらけ出したG7広島サミット


おぞましい茶番劇
 
 五月十九日から二十一日、G7広島サミットが開かれた。二十一日にはゼレンスキーが参加し、このNATO・ウクライナファシストの操り人形に過ぎない人物を反核・平和の崇高な戦士に仕立てあげる実におぞましい茶番劇が演じられた。NHKは広島でのこの男の行動を逐一放映し、一部の民放も既定の番組を取りやめ、かれの平和公園での献花の様子を伝えた。
 この会議は、ウクライナ支援の強化とロシア制裁の徹底、中国、朝鮮への包囲網をより強固にする方針を打ち出した。それは西側帝国主義の世界制覇戦略を忠実に反映したものであった。ゼレンスキーの戦争継続・徹底抗戦、軍事支援の強化を訴える好戦的主張が称賛された。バイデンはさっそく新たに三億七五〇〇万ドル相当の弾薬や装備品の供与、F16の欧州各国からの供与の容認を約束、岸田もトラックなどの自衛隊車両一〇〇台と缶詰などの「糧食」三万食分の提供を申し出た。
 多くの死傷者を出し核戦争・世界大戦にまで行き着く危険性を有するウクライナ戦争を一刻も早く終結させるためのイニシアティブは封殺され、逆に戦争を長引かせ拡大させる訴えが支持された。日米韓、クアッドの会談も開かれ、アジア太平洋地域で中国、朝鮮を敵視・挑発することで高まっている緊張をさらに激化させる方向性が打ち出された。中国外務省の孫衛東副部長は五月二十一日、「日本はG7輪番議長国として、G7広島サミットの一連の活動及び共同声明の中で関係国とともに中国を中傷し、中国の内政に乱暴に干渉し、国際法の基本的原則と中日間の四つの政治文書の精神に背き、中国の主権と安全、発展の利益を損ねた。中国はこれに強い不満と断固たる反対を表明する」と抗議した。
 五月十九日の「ウクライナに関するG7首脳声明」は、ロシアの「軍事行動」を「違法、不法ないわれのない侵略戦争だ」と糾弾、「われわれのウクライナへの支援は揺るがない」とし、ロシアへの新たな制裁と制裁回避対策の強化を盛り込んだ。われわれは、たとえそれが防衛的な性格であっても、昨年二月からのロシアによる軍事行動を容認する立場にはたたない。しかし、プーチン政権にそうした選択を強いたのは、西側帝国主義が進めるNATOの東方拡大であり、それがロシアに与えた核攻撃をも含む極度の軍事的脅威だ。西側帝国主義とその代理人たるウクライナの親ファシスト政権(ゼレンスキーたちだ!)こそが今次の戦争を引き起こした元凶であり、かれらは現在もその継続と拡大を欲している。ウクライナ支援・ロシアへの制裁は断じて平和をもたらさない。いま求められているのは即時の停戦と和平交渉の開始である。その点からわれわれは、二月に中国が発表した「ウクライナ危機の政治的解決に関する中国の立場」に示された提案を支持する。
 岸田は「核のない世界」への決意をことあるごとに語ったが、十九日発表の「核軍縮に関するG7広島ビジョン」は真逆の方向を示した。被爆者組織・反核団体は、この文書に示された、核武装を正当化する「核抑止論」、これまでのNPT文書に明記された「核兵器廃絶」の約束や九二か国が署名した核兵器禁止条約を完全に無視する核軍縮に背を向けた態度を痛烈に批判した。また文書は、ロシアによる「核兵器使用の威嚇」、中国の「透明性を欠いた」核戦力の増強、朝鮮の「核兵器及び既存の核計画、並びにその他の大量破壊兵器及び弾道ミサイルの計画」を非難し、この三国を核軍縮と反核運動の重大な敵対者のように扱った。だが、米国主導の西側帝国主義が一貫してこの三国に対し幾倍幾十倍もの核の脅威を与え続けている事実にはいっさい目をつぶる。

ウクライナ戦争を歴史的・構造的にみる

 ウクライナ戦争は、二〇二二年二月二十四日のロシアによる「特別軍事作戦」からはじまったのではなく、西側帝国主義のバックアップのもと二〇一四年に「マイダン革命」で権力を掌握したウクライナの親ファシスト政権が同国東部地域のロシア語を話す人びとに対して行なった軍事攻撃に端を発している。攻撃は年々エスカレートし、ロシア侵攻の直前、二〇二二年二月十六日以降、ウクライナ軍のドンバスの住民への砲撃は劇的に激しさを増していた。
 さらに長いスパンで見れば、今次のウクライナ事態は、一九九〇年前後に生じた社会主義世界体制倒壊後の、湾岸戦争にはじまり、ユーゴ空爆・解体、アフガン、イラク、リビアへの侵略とつづき(並行して東欧・旧ソ連邦構成共和国における「カラー革命」が仕組まれた)現在も継続する西側帝国主義による世界制覇戦争(現存社会主義国家、反帝自主の国家・勢力を根絶し帝国主義の一元的世界支配を完成させるための戦争)の最重要局面と位置づけることができる。ロシアを解体ないし決定的に弱体化させ、社会主義中国、朝鮮にまで侵略・支配の手を伸ばそうとする世界戦略に基づきこの戦争は遂行されている。したがって、ウクライナおよび西側帝国主義の側にいまこの戦争を止める意思はない。戦闘をできる限り引き延ばしロシアを徹底的に消耗させプーチン政権を崩壊させることがかれらのねらいなのだ。そのために西側帝国主義国は、ゼレンスキー政権に未曾有の規模の軍資金を拠出し、各国が保有する最新鋭の兵器(戦車やミサイルだけでなく戦闘機も)、さらにまぎれもない核兵器である劣化ウラン弾まで供与し、人口衛星等でつかんだ軍事情報を提供し、ウクライナ軍への作戦指導や兵士の訓練を行ない、西側メディアを総動員して「ロシア・プーチン悪魔化」宣伝を展開しているのだ。
 ウクライナ戦争がユーラシア大陸西側における帝国主義の世界制覇戦争とすれば、アジア版NATOに示される対中国・対朝鮮包囲網づくりはユーラシア大陸東側での帝国主義の世界戦略の具体化だ。
 しかし、西側帝国主義の戦争政策は、その強さの現われではない。力の哀退を知るがゆえにいっそう強暴な手段でこれまでの世界支配の枠組みにしがみつこうとしているのだ。バイデン政権の異常な中国敵視の姿勢は米帝国主義の余裕の無さ、焦燥感の現われだ。アメリカを先頭とする西側帝国主義は、中国の発展、BRICsあるいはG20参加の新興国の国力の増強、グローバルサウスと呼ばれる国ぐにの成長のなかで、世界経済と国際政治における影響力を著しく低下させている。たとえば一九八〇年には世界経済全体の六一%を占めたG7のGDPは二〇二一年には四三%まで低下している。二〇三〇年には、主要新興国七か国(中国、インド、ブラジル、ロシア、インドネシア、メキシコ、トルコ)の経済規模はG7を追い抜くと予想されている。いずれ軍事力でも西側に追いつく日が来るだろう。追い詰められた野獣ほど怖いものはない。西側帝国主義は現在はまだ優位にある軍事力を頼みに洋の東西で必死の攻勢に出ているのだ。
 同時にかれらは、新興国や発展途上国の間にくさびを打ち込み自陣営へ取り込む策略を強めている。今次サミットに、インド(G20議長国)、インドネシア(ASEAN議長国)、オーストラリア(クアッド加盟国)、韓国、クック諸島(太平洋諸島フォーラム議長国)、コモロ(アフリカ連合議長国)、ブラジル、ベトナムを招待したのもそうした意図からだ。

遮二無二戦争に突きすすむ岸田政権

 本議長国としてこの「戦争サミット」を主導した岸田政権は、内政面でも遮二無二戦争政策を押し進めている。この二か月ほどの間に報じられた動きを列挙する。
 ●石垣島に陸自駐屯地開設(三月十六日)、与那国、宮古への配備に続くもので、これで琉球弧への部隊配備は完了。
 ●全国三〇〇か所の自衛隊基地「強靭化」(司令部の地下化など)計画の実態明るみに(三~四月の国会審議)
 ●日韓シャトル首脳会談(三月十六日東京、五月七日ソウル)で両国の同盟強化、日米韓の核抑止体制強化を確認。
 ●衆院憲法審査会では、三月末に維新、国民が緊急事態の際の「国会議員の任期延長」の条文案をまとめ、自民もこれを歓迎。この点での合意を突破口に「国防条項と自衛隊明記」も併せて改憲発議にもっていく策動が進んでいる。
 ●OSA(政府安全保障能力強化支援=「同志国」の軍隊に防衛装備品の無償提供を行なう軍事支援の枠組み。ウクライナへの供与も可能)の創設を決定(四月五日)。
 ●防衛相が自衛隊に朝鮮の衛星の破壊措置準備命令発出(四月二十二日)。与那国島、石垣島、宮古島にPAC3を展開。
 ●自民・公明で「防衛備品移転(武器輸出)三原則」の見直し論議(殺傷武器の輸出解禁等)開始(四月二十五日)。
 ●有事に海保を防衛相指揮下に置く統制要領の作成作業開始(四月二十八日)。
 ●安保三文書の具体化法案の審議緊迫。軍需産業強化法案は五月九日衆院通過、五年間で四三兆円の軍事費を捻出する軍拡財源法案は五月二十三日衆院通過。
 ●NATO事務総長がNATO東京事務所の設置で日本政府と協議していることが明らかに(五月十一日)。
 これらの動きが広島サミットでも確認された西側帝国主義の世界戦略に沿ったものであることは明らかだ。
 戦争国家化の動きにまったく歯止めがかからない。今国会では、先にあげた安保関連の法案以外に、入管法改悪案、脱原発否定・原発全面活用法案(GX法案)、マイナンバーカード強制法案などの反動立法がろくに審議もされずに成立強行されようとしている。四月の統一地方選と衆参補選では、維新の大躍進が示すように、全体として改憲派、極右派が大きく伸張し、共産、社民などの反戦平和・護憲の勢力が大きな後退を強いられた。立憲の泉代表が次期衆院選での共産党との共闘を拒否する発言をするなど、野党共闘は困難な局面をむかえている。内閣支持率は上昇中。サミットの熱気冷めやらぬうちに改憲派のいっそうの議席増をねらい、岸田が解散・総選挙に打って出る可能性は十分にある。
 戦後最大の平和の危機。選挙と議会頼みの運動ではこの状況は変えられない。大衆運動の再生、それを牽引する政治指導部の形成、さらに運動の若返りを目的意識的に追求しつつ、個別課題に取り組むだけでなく、それをつなげて戦争国家化反対の闘いを統一的に進めよう。その根本には、ブルジョワ支配階級がもっとも恐れる「朝・中・日人民の団結」が置かれるべきだ。


【大山歩】
(『思想運動』1089号 2023年6月1日号)