琉球弧の戦争準備を許すな!
「安保三文書」がめざすものは何か
「安保三文書」とは、「国家安全保障戦略」(以下第一文書)・「国家防衛戦略」(第二文書)・「防衛力整備計画」(第三文書)である。第一文書は、国家の安全保障戦略の概略を示した。第二文書は、「平成三一年度以降に係る防衛計画の大綱について」に代わるもので、「国家防衛戦略」への名称変更は、二〇二二年に米国が公表した「国家防衛戦略」に準じた。第三文書は、「中期防衛力整備計画について」に代わる具体的な自衛隊の装備計画である。
第一文書では、「力による一方的な現状変更の圧力が高まっている」と断定した。その圧力をかけている国は、中国を筆頭として、「北朝鮮」・ロシアだという。日本は初めて敵国を明確にした。「自分の国は自分で守り抜ける防衛力を持つ」、「専守防衛に徹し、他国に脅威を与えるような軍事大国とならず」と言う。「抑止力」の強化として「反撃能力」を持つとは、いかなることか? 反撃のための条件は、「二〇一五年の平和安全法制に際して示された『武力の行使の三原則』の下で示された自衛の措置」である。ここでは、「我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある場合」を「存立危機事態」として集団的自衛権を容認した。日米安保条約のもと集団的自衛権をともに行使する相手は一つ、それはアメリカだ!
第二文書には、敵基地攻撃のための「統合防空ミサイル防衛能力」保持の項目がある。ここでは、迎撃ミサイルの配備のみならず、「弾道ミサイル等の攻撃を防ぐためにやむをえない必要最小限の自衛の措置として、相手の領域において、有効な反撃を加える能力としてスタンド・オフ防衛能力等を活用する」として、これを「反撃能力」と強弁している。しかし、「統合防空ミサイル防衛」(IAMD)とは、米国が地球規模で構築している敵基地攻撃と「ミサイル防衛」を一体化したシステムだ。米軍が、二〇一七年に作成したドクトリンには、IAMDは先制攻撃作戦を含むことが明記されている。米国は、朝鮮戦争、ベトナム戦争、湾岸戦争、ユーゴ内戦、イラク戦争、アフガン戦争・シリア内戦など、戦後途切れることなく戦争を継続してきた。それらの戦争は、先制攻撃であり、軍事介入・侵略戦争であった。「台湾有事」も中国への内政干渉だ。中華人民共和国は、平和共存を国是とする国である。第一文書で言う「専守防衛」はまったくのフェイクである。
戦争仕掛けるのは誰
第一文書は、「反撃能力」は、「憲法および国際法の範囲内」と言っている。元内閣法制局長官であった阪田雅裕は「安保法制によって危篤状態であった九条の『平和主義』は、敵基地攻撃能力を日本が持つということで死んだ」(『世界』二〇二三年二月号)と言っている。また、先制攻撃は、国連憲章五一条の文言に照らして国際法上許されないと阪田は述べている。
その他の記述。日米同盟強化と「同志国」との関係強化・南西諸島への長距離ミサイルの配備。防空ミサイル能力の強化、サイバー・電磁波・宇宙作戦能力の向上・情報部隊の新設・空軍を宇宙空軍へ。衛星コンステレーション(小型人工衛星群)の打ち上げ・司令部や武器弾薬庫等の地下化・統合司令部の設置・国民保護、住民避難への自衛隊の活用・自衛隊員の生命保護、救命率向上のための医療設備の整備。防衛費をGDP二%へ、二三~二七年度までの防衛費を四三兆円に・民間の船舶、航空機および港湾、飛行場の活用・防衛生産基盤の強化、防衛装備移転の推進(「防衛生産基盤の強化」は、軍需産業の育成、「防衛装備移転」は武器輸出と書け!)。
二〇二七年までに防衛力を整備するという文書の計画は、二〇二一年春に当時のデービットソン米インド太平洋軍司令官の今後六年以内(二〇二七年まで)に中国が台湾に侵攻する恐れがあるとの主張と一致していて恐ろしい。戦争を仕掛けるのは誰だ!
ワシントンで一月十一日に開催された外交・軍事担当者が参加する日米安全保障協議委員会(2+2)の共同声明において、日本の新しい安保政策に米国が、「強い支持」を表明した。米国は、「核を含む」「日本の防衛に対する揺るぎないコミットメントを再表明した」。また、在沖海兵隊の一部二〇〇〇人規模を改編し、「海兵沿岸連隊」(MLR)を創設する方針を決定した。海兵隊は、これまでもEABOによる訓練を繰り返してきたが、より実戦を見据えた対応と言える。部隊が、南西諸島の島々に分散して戦う事態が想定され、日米両軍一体の共同作戦が目論まれている。
岸田は、一月十三日のバイデン米大統領と会談において敵基地攻撃能力の保有や防衛費の大幅増の決定を伝え、全面的な支持を得た。トマホーク購入も伝えたという。閣議決定によって決められた「安保三文書」、国会の審議もないままにアメリカとの協議によって、すべてが決定され実行に移されている。
通常国会において、立憲民主党の質問に対して、首相は「反撃能力」の行使について、「手の内を明らかににしない」と答えず、トマホークの保有台数四〇〇発が明らかになったのは、二月二十七日になった。国会無視の姿勢は明らかである。
迎撃だけではなくて大陸攻撃
新具体的に探りたい。二二年十二月十一日、ブルーインパルスの飛行が、民間空港である宮古空港を使って実施された。県は、軍事利用を認めない「屋良覚書」を盾にして下地島空港の使用は断った。「ブルーインパルス飛行NO!下地島・宮古空港軍事利用に反対する実行委員会」による抗議集会が開かれた。一月十七日、自民党国防議員連盟が視察、参加した議連事務局長佐藤正久参議院議員は、下地島空港について「県管理ではなく国管理にしたら」と述べている。浜田防衛相は、下地島空港を自衛隊が柔軟に利用できる空港に含めた。政府は、三〇〇〇メートル級の滑走路を持つ下地島空港の自衛隊使用に意欲を示している。
二二年十二月十九日、石垣島市議会では、「陸上自衛隊石垣駐屯地への長距離ミサイル配備に関する意見書」という二つの決議を可決した。長射程ミサイル配備の案件を含め、「三文書」改定による影響について、情報公開と住民への十分な説明を強く求めている。野党提案の意見書では、「自ら戦争状態を引き起こすような反撃能力を持つ長射程ミサイルを石垣島に配備することを到底容認することはできない」と言っている。右翼政治家である中山石垣市長は、「反撃能力」およびミサイル配備を容認した。沖縄県議会は、ミサイル配備による軍事力増強ではなく、外交による平和を政府に求める意見書を可決した。王城知事は、沖縄へのミサイル配備に反対している。
三月五日、約一五〇台の車両が陸上自衛隊の駐屯地へ搬入された。抗議集会が二〇〇人の参加で開かれた。防衛省は、三月十六日にミサイル部隊が駐屯する陸自石垣駐屯地を開設した。十八日には、ミサイルなどの弾薬が、陸揚げされ駐屯地へ搬入された。抵抗する住民は、港で沿道で駐屯地前で抗議した。説明会が開かれたのは、基地開設後の二十二日である。「石垣島に軍事基地をつくらせない市民連絡会」は、説明会が、基地設置後の二十二日に開催され、一時間に限定されたために、参加を拒否した。奄美大島では配備済み、宮古島・石垣島で配備が予定されているミサイルの主力は、三菱重工製の一二式地対艦ミサイル(SSN)で、現在の射程距離は二〇〇キロに満たない。二〇二六年までには、一〇〇〇キロを超える射程を持つよう改良するという。島々へのミサイル配備は、中国・ロシアが保有する極超音速ミサイルに対する迎撃よりも大陸への攻撃に重点が置かれていて、極超音速ミサイルの日米共同開発も視野に入っている。
二月二十六日、沖縄各地で平和のために活動する団体があつまり、「島々を戦場にするな!沖縄を平和発信の場に!二・二六緊急集会」が、県庁前県民広場で開かれ、一六〇〇人が参加した。当日、石垣島でも連帯集会が開かれ、約七〇人が参加した。夏に向けて県民集会開催を目指して、七〇以上の団体が参加して準備が進んでいる。
参院予算委員会で、共産党の小池書記局長が公開した防衛省の内部文書によると、全国二八三地区の自衛隊基地で約二万三〇〇〇棟の施設が核・生物・化学兵器の脅威に耐えられるように地下化・構造強化される。反撃される基地は防御するが、周辺住民は護られない。戦場になるのは、沖縄だけではない。日本全土が最前線にあるのだ。
日本の支配階級が米国にここまで従属して戦争準備に狂奔する理由は何か? 明治維新から日本資本主義が追い求めたアジアでの覇権主義を貫徹し、経済侵略を担保するために、帝国主義段階にある日本資本主義の存立をここにかけている。人民の生命・生活が犠牲に供される。支配階級のためにこれ以上労働者階級の命は差し出すわけにはいかない。
【阪上みつ子】
(『思想運動』1088号 2023年5月1日号)
|