自日米共同統合演習「キーン・ソード23」強行
人民を犠牲にする資本主義打倒の闘いを!
                  
 「ウクライナ戦争」が始まって九か月が過ぎた。〝悪魔のロシア・プーチン〟に対して〝凌辱される子羊ウクライナを支える騎士・NATO諸国〟というような構図は、相変わらず日本のマスコミ報道の基本である。しかし、ウクライナ戦争のシナリオを書いたのは誰か。十一月二十日の『朝日新聞』の報道によれば、「米国は攻撃的、防御的、そして情報戦の、全領域にまたがる一連の(サイバー)作戦を実行した」と、米国家安全保障局長官で米サイバー軍司令官でもあるポール‐ナカソネ陸軍大将が今年六月に英メディアに明かしたという。米国は昨年末までに作戦の要員をウクライナに派遣し、対ロシアのサイバー戦に積極的に「参戦」し、主導したのである。
 十月四日早朝、携帯電話の「Jアラート」がけたたましく鳴り響き朝鮮民主主義人民共和国(以下朝鮮)の弾道ミサイルの発射が知らされた。その後すべてのテレビ放送がミサイル発射一色になり、国民に警戒を呼びかけた。しかし、日本のはるか上空一〇〇〇キロメートルを飛んだミサイルが、日本を狙ったものではないことは明らかだ。「Jアラート」が朝鮮危機を煽り、日本を戦争国家路線に乗せるための自公政権の姑息な謀略であることは明白である。先行的に核兵器を保有する米・韓・日に包囲された困難な状況下で、社会主義・反帝自主の道を貫く朝鮮の戦争抑止策が核実験や弾道ミサイル発射を必要とせざるをえない状況を、「核の傘」で武装した日本人はどう考えるべきだろう。米国を中心とする「国際社会」は、アフガニスタンを侵略し、イラクを崩壊させ、核開発計画を放棄したリビアを破壊し、繫栄した福祉国家から世界最貧国へ転落させた。わたしたちは、東アジア非核平和地帯構想の声を朝鮮に向け発するべきだ。しかしその声の百倍を、米・日・韓政府に届けるべきだ。

 「キーン・ソード23」の目的と内容

 さて、十月二十一日の統合幕僚監部報道発表資料によれば、令和四年度日米共同統合演習(実動演習)「キーン・ソード23」の概要は以下の通りである。演習の目的は「グレーゾーン事態から武力攻撃事態等における自衛隊の運用要領及び日米共同対処要領を演練し、自衛隊の即応性及び日米の相互運用性の向上を図る」である。実施期間は十一月十日から十九日まで、すでに終了しているが、演習は次の演習に引き継がれることは必至だ。主要実施場所は「自衛隊施設、在日米軍施設、津多羅島、奄美大島、徳之島、わが国周辺海空域等」である。主たる演習場である沖縄県は「わが国周辺」とされ、沖縄差別の実態が見える。
 主要訓練項目は、「水陸両用作戦、陸上作戦、海上作戦、航空作戦、統合後方補給、特殊作戦、宇宙、サイバー及び電磁波に関する領域と従来の領域の連携」と多岐にわたっている。特殊作戦の中には防諜活動や住民への宣撫工作が入るのだろう。演習規模は、自衛隊が人員約二万六〇〇〇人、艦艇約二〇隻、航空機二五〇機、米軍は人員約一万名、艦艇一〇隻、航空機約一二〇機、さらに英・豪・加の軍隊が参加する。
 日米共同統合演習は一九八五年に開始され、おおむね毎年、実動演習と指揮所演習を交互に実施し、実動演習は今回で一六回目にあたる。数年前には床上に描かれた沖縄諸島を軍靴で踏みにじり図上訓練をする日米両軍参謀の姿が報道されたこともある。演習は年々規模が拡大され、全国規模となり、今回は「他国から日本への直接の武力攻撃」を想定した訓練になる。さらに問題なのは、これらの日米共同統合演習の拡大が、国会でも議論されず、国民の耳目から遠ざけられ、政府の一部と自衛隊・米軍がフリーハンドで決定実行されているということである。自衛隊は米軍の一翼として統合され、ほとんどシビリアンコントロール(文民統制)を無視する存在として再編されようとしている。「台湾有事」があるとすれば、その引き金を引くのは誰か。それが日米両軍でないと、誰も言えない。
 では、日米共同統合演習はどのように行なわれたか。十一月七日、「築城基地の米軍基地化を許さない! 京築住民会議」主催の日米共同訓練反対集会が築城自衛隊基地前で開催され、県内各地から多数の県民が集まった。築城基地での日米共同訓練は「キーン・ソード23」の中に含まれることは防衛省も認めている。十一月十五日、陸上自衛隊の16式機動戦闘車(MCV)は熊本市にある北熊本駐屯地を出発し、高速道路を経由し、自走して築城基地まで移動した。大口径一〇五ミリの主砲を備え「装備戦車」と呼ばれる車両が、民間住宅などが並ぶ公道をこれ見よがしに自走したが、基地周辺の地元自治体や住民には訓練の予定や内容がまったく知らされていなかった。このMCVは十七日航空自衛隊のC2輸送機で日本最西端の沖縄県与那国島の民間の与那国空港に空輸された。MCVは空港から自衛隊駐屯地まで約六キロメートルの公道を走行し翌十八日に与那国を去ったが、駐屯地には米軍海兵隊員四〇人が入り、連絡所の設置訓練を行なった。住民の反対を押し切って陸自の与那国駐屯地が開設され六年を経、住民の自衛隊への抵抗感が薄れたとマスコミは書くが、ゲートから出てきたMCVに対して「島を戦場にするな」と、島民は抗議の声を上げた。誰も住民の反戦の声を消すことはできない。

 戦争は資本主義の生き残り戦略

 共同統合演習は全国各地で行なわれたが、それぞれの地で抗議行動が闘われた。十一月八日にはチャーターした民間船舶(PFI船)で沖縄県中城湾港に自衛隊七三車両と隊員が陸揚げされ、国道五八号線など一般道を使い、陸自那覇駐屯地などへ移動した。中城湾港で訓練に反対する市民が抗議の声を上げた(五面参照)。この演習は、民間港湾を使った訓練が県内で始まったことを示している。十一月十日、那覇軍港に陸揚げされ、駐機していた米海兵隊のMV22オスプレイ三機が離陸し、普天間飛行場まで飛行した。沖縄県は、日本復帰時に米軍基地の使用目的などを定めた日米合意(5・15メモ)に反するとして米軍に強く抗議したが、日本政府はこれを追認した。十一月十一日、長崎県五島列島の無人島津多羅島では陸上自衛隊が尖閣諸島での対処を想定した訓練を行なった。この訓練には沖縄県警警備部に属する「国境離島警備隊」が参加した。「国境離島警備隊」は、二〇二〇年四月に発足し、自動小銃やサブマシンガンなどを装備している。今回の訓練実施について、防衛省や県警はその詳細を公表していない。
 日米共同統合演習の意味するものはなにか。今回の演習は、日米の基地といわず民間施設といわず日本全土が戦場と想定されていることを明らかにした。ウクライナ情勢や「台湾有事」を煽って、何ゆえに日米両政府は東アジアに戦争の危機をもたらそうとするのか。日米の資本家階級は戦争または戦争の危機を通じてしか、それぞれの資本主義社会の「持続」が不可能なことを知っている。資本主義社会の生き残りに、それぞれの国の人民を巻き込んで犠牲にするのがかれらの戦略である。演習や軍事基地に反対するのは当然であり、全国的な反対行動を組織しなければならない。しかし、それだけでなく、戦争しなければ「持続」できない資本主義社会を打倒し、乗り越える、全国的な闘いがいま必要だ。
                                     【岡本茂樹】