JR赤羽駅差別落書き事件
朝鮮学校へのヘイトクライムに抗する
                        
 最近、朝鮮学校を狙った嫌がらせやヘイトクライムが頻発している。悪辣なヘイトや脅迫はいまにはじまったことではないが、その犯行は過激さを増していて身の危険を感じるまでになっていることに非常な恐怖を感じている。
 朝鮮半島情勢や拉致問題などのニュースが報道されるたびに学校に脅迫電話がかかってきたり校門前にカッターの刃が五〇枚以上ばら撒かれたり、SNS上には匿名をいいことに学校や子どもたちを侮蔑する誹謗中傷の言葉が溢れるなど非常に卑劣で悪質になっている。どうしてこれほどまでに日本人や日本社会は朝鮮学校を敵視するのか。

官製の朝鮮学校差別
 朝鮮学校でウリマルや国語算数などの勉学に励む児童・生徒たちに国家間の問題を押しつけるのは筋違いも甚だしい。たとえ政治情勢の専門家でなくとも常識的な分別さえあればすぐに理解ができる単純な問題にさえ、日本人は冷静さを忘れてヒステリックに騒ぎ立てる。これらはすべて日本近代からこの国が抱える朝鮮嫌悪感情、蔑視感を剥き出しにした植民地主義という悪質な持病と故安倍晋三が政権発足時から事あるたびに朝鮮を憎悪・悪魔化するような排外的な言動や振舞いを行使してきたことに起因する。いわゆる官製ヘイトだ。二〇一〇年には高校無償化制度から排除し、国家権力が司法判断に露骨に介入して法の平等性をことごとく破壊して暗黒裁判を繰り返し、全国五か所の裁判はすべて不当敗訴に終わった。朝鮮学校差別に司法が事実上、お墨付きを与えるという蛮行を目にする結果となったのである。それだけでは飽き足らず、幼児教育の保育料無償化からも排除し、コロナ禍におけるさいたま市による朝鮮幼稚園へのマスク不支給問題が発覚するなど、安倍自民党政権は朝鮮学校に対して政権を挙げて弾圧してきた。しかし、朝鮮学校差別は制度や権利保障いっさいからの排除にとどまらず、ついに子どもたちのいのちを脅かす事態にまで深刻化してきた。これは到底、看過できない問題である。そして、実際に生徒の登下校で事件は起きた。

差別落書き事件
 歴九月九日、東京都北区のJR赤羽駅の埼京線ホーム八番乗り場に設置されてある点字ブロックを知らせる横断幕に「朝鮮人コロス会」という悪質な差別落書きがあるのを通学中の生徒が見つけた。同駅は隣駅の十条駅にある東京朝鮮中高級学校に通う多くの生徒が毎日利用する駅であり、一九九五年に通学中の女生徒のチマチョゴリが切り裂かれた事件が起きた駅である。
 朝鮮人を中傷する殺害予告ともとれる書き込みを見た生徒はショックを受けて「怖い」と保護者に打ち明けた。
 この事態に声を上げて行動を起こすべきだと思い至った同校保護者は、九月三十日の文科省前金曜行動の場で事件に対する怒りをアピールした。その場に衝撃が走った。
 事件を知った支援者はすぐに行動を開始、朝鮮学校を支援する東京純心大学教授の佐野通夫さんは赤羽駅に直行して落書きの現場を確認した。翌日、無償化連絡会の長谷川和男さんや一橋大名誉教授の田中宏さん、佐野さんらは同駅に要請行動、ホームに差別落書きが三週間以上も放置されている現状に抗議して、再発防止と駅ホームでの見回りの徹底などの要求を行なった。
 これに対して、駅側は「早期に落書きを発見できなかったことは申し訳なく思う」とコメントした。落書きは駅ホーム八番乗り場の階段脇の狭い通路側にあり頭上にある防犯カメラから死角になる。また、通学を急ぐ朝鮮学校の生徒らは次の十条駅で降りて改札まで向かう時間を少しでも減らすためにこの乗り場を頻繁に利用する。犯人は周到にそのような場所をリサーチしたとも考えられる。

駅側の不誠実な対応
 十月十三日、埼玉県で朝鮮学校支援やヘイトスピーチ問題などに取り組む三団体が赤羽駅へ要請行動を行なった。
 支援団体はこの事件を器物損壊として警察に被害届を出すよう要求したが、駅は保全すべき犯罪の証拠である落書きをあろうことか清掃業者を呼んでクレンザーで消すという失態をし、支援団体からの訴えに「証拠は消えてしまったから受け取れない」「口頭で受け取る」など頑なに拒否した。また赤羽署も被害届を受理しないとした。
 この事件が在日朝鮮人という特定の民族の生命をターゲットにしたヘイトクライムであり、深刻な人権問題である、という認識が駅と警察の両方に皆無であることはたいへん遺憾に感じる。チマチョゴリ切り裂き事件が同駅で起きた二七年前の悲劇の教訓と反省が生かされることもなく、この騒動に早く幕引きをはかりたいという駅側の魂胆は非常に不誠実極まりないものである。
 この事件を受けて外国人人権法連絡会と東京弁護士会はただちにヘイトクライムを止める具体的行動を求める声明を発表(別掲)、日本政府に対してヘイトクライム対策を含む人種差別撤廃法を制定し、緊急のヘイトクライム対策を講じるよう同連絡会のメンバーやヘイト問題に取り組む師岡康子弁護士や学校教員らが十月十八日、法務省人権擁護局に対してヘイトクライムの防止と対策を求める要望書を手渡した。

ヘイト生まぬ社会を
 二〇〇九年、排外主義団体「在日特権を許さない市民の会」(通称・在特会)が京都朝鮮第一初級学校を襲撃して以降、在日朝鮮人が多く住む地域やコリアンタウンを標的に差別街宣が頻繁に行なわれるようになりマイノリティの日常を脅かす事態がこんにちまで続いている。
 ヘイトの小さな火種を放置していれば、やがて京都のウトロ地区の放火事件やジェノサイドにまで繋がる。また社会の無関心が排外主義を助長させてもいる。このような由々しき現状を打開するためにいま実効性のある条例の制定が強く求められる。
 川崎市では日本で初めてヘイトスピーチに罰則規定を盛り込んだ条例ができた。制定後も排外主義者から脅迫ハガキが届いたり、駅前でのヘイトデモはいまだに行なわれているが、規模はかなり縮小されてきた。川崎市に続くように相模原市では排外主義者の度重なる脅迫に屈することなくヘイトスピーチ禁止を盛り込んだ画期的な条例の制定に向けた動きが高まってきている。この反差別の広がりはヘイトクライムが頻発する危機的な現状を変えていく運動を大いに勇気づけている。朝鮮学校のある各地域で実効性のある施策制定に向けた動きが活発化していくことがヘイトを撲滅するための第一歩となるだろう。幼い子どもが差別の矛で突き刺されるような恐怖体験を経て自分が在日朝鮮人であることを自覚するような社会はいい加減、もう終わらせなければならない。
 金曜行動の場で事件をアピールした保護者は「世論が動いていくよう訴える力を作っていくため、行動すること、闘うこと、知らせることがなによりも大切だ。学校を支える者同士が手をとり合って差別に抗い、朝鮮学校を知らない日本人民に向けてこれからも友好の種を蒔いていこう」と共生への強い願いを込めて語ってくれた。
 ヘイトが起きてから当事者が声を上げる社会ではなく、ヘイトそのものを生まない社会を作ることは日本人民の重大な責務である。 
【秋山真也(立川町田朝鮮学校支援ネットワーク・ウリの会)】