ペロシ訪台と台湾海峡危機
「台湾有事」を煽っての戦争策動反対



 「火遊びをする者は必ず自らを焼く」――これは習近平・バイデン電話会談(七月二十八日)におけるペロシ米下院議長の訪台計画にたいする習近平の警告だった。四月にはペロシの訪台計画が浮上し、中国政府の度重なる懸念にもかかわらず、バイデンはこの訪台計画について「今はよいアイデアではないと軍は考えている」とまるで指導責任を放棄するような発言を行ない、三権分立の優位性を説きながら実質的にはこれを容認したのであった。
 こうして強硬姿勢を堅持しアジア歴訪に向かったペロシを乗せた軍用機は八月二日、南シナ海を迂回するようにインドネシア上空、フィリピン東沖を通る大回りのルートで今回最大の目的地、台北に向かった。沖縄嘉手納基地からはF15戦闘機八機と空中空輸機五機が警戒のため台湾に向かい、米原子力空母ロナルド・レーガンが太平洋側の台湾沖に控えた(NHK報道)。
 「一つの中国」原則と米中間における上海コミュニケ(一九七二年)に始まる三つの共同コミュニケの規定に重大な違反を犯し、中国の主権と領土の一体性を侵害し、「台湾独立」分離勢力にたいし誤ったシグナルを送ったペロシ訪台を糾弾する中国外交部声明(『新華社通信』八月二日)をわたしたちは断固支持する。声明は言う。「世界には一つの中国しかなく、台湾は中国の領土の不可分な部分であり、中華人民共和国政府は中国全体を代表する唯一の合法的な政府である。 これは、一九七一年の国連総会決議二七五八で明確にされた。 一九四九年中華人民共和国の設立以来、一八一か国は『一つの中国』原則に基づき、中国と外交関係を樹立」した。また今回のペロシ訪台については、「現在の米国議会指導者であり、いかなる理由であれ、台湾への彼女の活動は、米国と台湾の公式な交流をエスカレートさせる主要な政治的挑発であり、中国は決して受け入れない」と釘を刺した。台湾問題は中国の内政問題であり、それに介入し、台湾当局と米国が現状を変え続けるという根本的な理由で、新たな緊張と深刻な課題に直面しているという認識を示した。
 ペロシ訪台への対抗措置としての軍事演習を示唆していた中国軍東部戦区は訪台直後から「米国の後ろ向きな動きや『台湾独立勢力』への警告のため」(『朝日』)台湾海峡における実弾射撃訓練、ミサイル試射の「重要軍事演習」(四日~七日)開始を発表。台湾の周囲をぐるりと六つの範囲に設定し、それは日本の排他的経済水域(EEZ)にも重なった。中国が発射した弾道ミサイル九発のうち五発が日本が主張するEEZ内に落下した点を、日本政府は「安全に深刻な影響」と非難するとともに、「緊張を高め、地域を不安定化させる危険性がある」というG7外相会議共同声明に参画した。
 中国側は、演習を事前に通告した点と、「尖閣問題」など領土問題を背景として日中間にEEZについての合意はないことを指摘し、日本側のG7声明参加を理由に予定されていた日中外相会談をキャンセルした。
 今回の「重要軍事演習」は「第三次台湾海峡危機」(一九九五~九六年)を超える台湾海峡を封鎖する過去最大規模の演習だった。これは「一つの中国」原則を空洞化させようとする米日台の「台湾独立」勢力にたいする習近平指導部の強い意思を示したものだと考える。
現在の台湾海峡問題は、サンフランシスコ講和条約と日米安保条約、日華平和条約の戦後体制のなかで、「戦後未解決の諸問題」のひとつ、「台湾」処理問題に淵源がある。カイロ宣言、ポツダム宣言において明記された日本帝国主義が盗取した台湾ほかの中国政府への返還事項を、サ条約は、帰属先を明記せず、紛争の種を残した点と中国人民が国共内戦によって選択した中国革命の成就と中国合法政府承認問題を背景としている。
 最近公表された第三次「台湾白書」(八月十日)では、「大規模軍事演習は、武力統一のための準備にあるのではなく、あくまでも平和統一を実現するための手段と考えている」(岡田充)ということが首肯できる。
 「力による現状の一方的な変更は認められない」として、「台湾有事」は「日本有事」と煽り、「敵基地攻撃能力」の保有、憲法改悪と軍事費増大、軍拡路線と人民収奪の道を歩む支配権力の欺瞞性を暴く活動が喫緊の任務だ。台湾海峡危機を口実とする戦争策動を決して許さない闘いを、日中国交正常化五〇周年の年にこそ大きく前に進めよう。
                                                        【逢坂秀人】