〈世界の労働運動〉
支配階級の攻撃に抗うイギリス労働者
闘うことによって権利を守ることができる
                  

 東京水道労組の諸隈書記長は「戦争や飢餓が発生したり、自然環境の破壊や権力による支配・抑圧・搾取が強まったら、くらしそのものが成り立たない」(本紙七月一日号)と述べた。生活を守る闘い、労働者の権利を守る闘いが、反戦・平和を求める闘いにつながる。
 いま、NATO諸国のウクライナへの介入と巨大な軍事支援、そしてロシアへの制裁によるエネルギー危機により、欧州諸国の人びとはすさまじい生活苦を強いられている。

日本の現状と闘いが広がる欧州

 参院選投票日前六月二十六日、「NHK日曜討論」で自民党茂木幹事長は「ガソリン価格の激変緩和措置などにより日本の消費者物価指数は二・一%と低いが、欧米は八%、九%と高騰」と述べた。
 実状は、総務省発表の五月の消費者物価指数で食料品や水光熱費などの基礎的支出項目は、前年同月比四・七%増。パン八・二%増、生鮮魚介一二・二%増、生鮮野菜一三・二%増、電気代一八・六%増、ガス代一七%増。今後の値上げラッシュが調査から明らかになっている。
 「笑い茸」(本紙七月一日号)は川柳で「レシートを睨みつけてる隣でも」と詠んだ。そうだ。われわれは心底怒っているのだ。しかし、いま、日本ではこの怒りを、生活を守り、権利を守る闘いへと組織できていない。
 欧州では、労働者の闘いが広範に組織され、成果もでている。
 ドイツ最大の産業別労組・IGメタル(金属産業別労組)の鉄鋼製鉄部門の労働者たちは、六月に複数回の警告ストライキ闘争を闘い抜き、三万四〇〇〇人の労働者を対象に、八月から六・五%賃上げと一時金五〇〇ユーロ(七万七〇〇円)を勝ち取り製鉄産業でこの三〇年間で最大の賃上げとなった。
 また、IGメタルは、金属産業の派遣労働者を対象にした団体交渉で、もっとも低いクラスの労働者の時給を最大一四%増で、十月から一二・四四ユーロ(一七六〇円)、来年一月から一三・五ユーロ(一九一〇円)を獲得した。これはドイツ政府の立法措置で最低賃金が十月から時給一二ユーロに引き上げられるため、それを上回る賃上げを勝ち取ることを目指して交渉した成果である。
 
成果もあるが厳しい闘いが続く

 英国でも少なくない成果が闘い取られている。広範な職種の労働者を組織するユナイト(一二〇万人)の闘いを二つ紹介する。
 チョコレート製造大手キャドバリーで働く一〇〇〇人以上の労働者は、七月上旬、賃上げ一七・五%、別途、休日手当二五%増を勝ち取った。この二年間の労働協約は、三か月間にわたって交渉が行なわれ、組合員は八〇%の賛成投票で承認した。
 イングランド地方オックスフォードのドイツBMWミニ製造工場で働く三五〇〇人の労働者は、二月上旬、三年間の賃金協定を締結し、実質二六%の賃上げを勝ち取った。この協定は、二〇二二年一月一日に遡及される。
 五月下旬、TUC(イギリス労働組合会議)は、二〇二二年三月末までの一年間のストライキ件数が三〇〇件でさらに増加中であると発表した。二〇二一年十月から二〇二二年三月までの六か月間に、GMB(全国一般労組)のストライキ件数は四二件で前年同時期の七倍に、ユナイトのストライキ件数は三〇件で前年同時期の四倍になった。
 成果もあるが、しかし、労働現場では厳しい闘いが続いている。
 英国の大手海運会社P&Oフェリーが、三月中旬、新型コロナウイルス感染拡大による経営不振を理由に、船員八〇〇人を一方的に即時解雇し、低賃金の外国人派遣労働者に置き換えた。P&Oフェリーは、中東ドバイの港湾企業DPワールドの子会社で、英国やフランス、アイルランド、北欧を結ぶフェリーを運航している。
 同社は労働者たちに即時解雇を通告し同時に劣悪な労働条件での再雇用を提示した。大量解雇にあたって義務づけられている労働組合との事前協議も行なっていない。
 英国保守党政権は、簡単なコメントを出すのみで、何らこの違法行為に介入しようとしていない。経営者たちは、P&Oフェリーのやり方が労働組合に対する最適の対処方法だと考えるであろう。
 以下、六月に三〇年ぶりの大規模ストライキを実施した鉄道労働者の闘いと、郵便労働者の闘いに焦点をあて英国労働運動の現状をみていく。

鉄道労働者の闘い

 六月二十一日、鉄道網設備を所有する管理会社ネットワークレールと一三の列車運行会社で、四万人のRMT(鉄道海運運輸労組)所属の清掃員、信号係、保守係、駅職員などが七%の賃上げ、解雇撤回などを要求しストライキを実行した。同日、ロンドン地下鉄のRMT組合員が、雇用と年金をめぐるロンドン地下鉄との継続的な争議の一環として上記の闘いに参加。一九八九年以来の最大規模の闘争となり、首都圏を中心にまったく列車が動かない事態となった。
 鉄道労働者たちの闘いは、六月二十三日と二十五日にも行なわれ、三日間にわたり英国全土で大半の列車を止めるスト闘争が展開された。
 ネットワークレールはRMTに対し、二%の賃上げ、二九〇〇人の解雇、乗務員を現行の五~六人から四人に減らすことなどを提示していた。
 なお、英国の鉄道は、一九九三年の国鉄分割民営化により、国が管理するインフラ会社ネットワークレールと二〇数社の民間列車運行会社で運用されている。
 RMTはこのストライキに先立ち五月下旬、四万人の組合員の七一%が参加した投票で、八九%のストライキ賛成でこの闘いを準備した。
 英国では、二〇一六年保守党政権が導入したストライキ制限規定により、スト承認には組合員の半数以上の投票と過半数の賛成が義務づけられている。そのうえで、運輸交通や医療・教育などの重要な公共サービスでは、スト賛成が全組合員の四〇%以上になる必要があるとした。
 これらの争議は、保守党の政策が原因である。保守党は、交通システムから四〇億ポンド(六六三〇億円、国鉄からニ〇億ポンド、ロンドン交通局から二〇億ポンド)の資金を削減しようとしている。
 保守党政権はこのRMTの闘いに対し「政府は賃上げをめぐる労組との長期にわたる対立に備える用意がある。政府は組合がこの議論に勝つことを許さない」と述べ、シャップス運輸相は民間列車運行会社経営者に「組合の条件で解決しないように」と釘をさした。
 いっぽう、イギリス労働党は、スト労働者たちへの支持を拒否した。労働党のスターマー党首は、労働党の国会議員たちに今週のピケに参加しないように述べた。大半の議員はこの指示に従ったが、影の内閣メンバーを含む二五人は従わずピケの隊列に参加した。ダイアン‐アボット、ジョン‐マクドネル、アンジェラ‐レイナー副党首、そして労働党員だが労働党の議会党から追放されているジェレミー‐コービンなどである。
 メディアのRMTへの攻撃も続いている。三月上旬のロンドン地下鉄の四八時間ストの際、『デーリーテレグラフ』は、RMTに対し「地下鉄に潜む敵」と呼び、「プーチンの擁護者たちがロンドンを混乱させた」と攻撃した。RMTは反戦団体「戦争阻止連合」に参加し、この間NATO拡大に反対し声明を発し集会を組織してきた。七月十三日、RMTとTSSA(運輸従業員労組)は、七月二十七日に、ネットワークレールと一四の列車運行会社でストライキを行なうと発表した。
 ネットワークレールは、鉄道労働者たちに対し四%の賃上げを提案し、労働者たちが契約変更を受け入れる場合には来年も四%の賃上げが可能と提示してきた。
 英国のインフレ率は今年後半には一〇%を超える見込みである。
 RMTは、「ネットワークレールの提案は実質的な給与カットである上、わずかな賃上げのために労働者は労働条件の大きな変化を受け入れることが求められている。ストライキはこの争議がいつまでも続くことを鉄道業界と政府に理解させるための唯一の手段だ」と述べた。
 シャップス運輸相は、賃金提示を拒否したRMTに対し「さらなる混乱を全土で起こそうとしている」と攻撃した。
 翌七月十四日、ASLEF(鉄道運転士労組)は、八社の民間列車運行会社の運転士五五〇〇人が七月三〇日に全国ストライキを行なうと発表した。複数の列車運行会社の運転士が共同で全国ストライキを行なうのは二七年ぶりとなる。
 同日、RMTは、七月二十七日だけではなく、さらに、八月十八日と二十日の二日間にも、ネットワークレールと一四の列車運行会社でストライキ闘争を行なうと発表した。

郵便労働者の闘い

 最後に郵便労働者の闘いを簡単に紹介する。
 英国のCWU(通信産業労組)の労働者たちは、今年五月、六月、七月と三度にわたり組合員一一万五〇〇〇人の賃上げを要求しストライキ闘争を行なった。
 七月の場合、七月十一日に、ロイヤルメール直営の一一四郵便局の職員が二四時間ストを実施し、直営の全郵便局が閉鎖となった。そして、七月十四日には、現金や貴重品などの集荷や配送を担当する労働者と管理労働者がストを行ない、小売店内などに併設される英国全土の一万一五〇〇か所の準郵便局の現金輸送や集荷業務がすべてストップした。六月、五月の闘いも同様であった。
 ロイヤルメール社は、CWUに対し、当初二%の賃上げと五〇〇ポンド(八万三〇〇〇円)、以後、二・五%と五〇〇ポンド、三%と五〇〇ポンドと侮蔑的な実質賃金カットの提案を繰り返し、そしていずれも、病欠手当の削減、日曜定時勤務、生産性の向上、給与等級の引き下げなどの「ひも付き」の賃上げ提案だった。
 ロイヤルメール社はグループ全体で、七億五八〇〇万ポンド(一二五五億円)の利益を計上。その際、同社役員は業績好転の理由は「CWU組合員の国民へのなみなみならぬ献身と奉仕にある。敬意を表し尊敬する」と述べた。
 また、二〇二一年七月以降、株主に五憶ポンドを支払い、この八月にさらに一億三〇〇〇万ポンドを支払おうとしている。そして、この夏、上級幹部には多額の賞与が出る予定である。
 この七月のストの際、現場労働者は郵便局のボスに「わたしたちがあなたたちよりも価値がないとはどういうことなのか」と詰め寄った。
 支配階級が行なうことは古今東西いずこも同じである。結局は同じことを手を変え品を変え攻撃をしかけてくる。われわれ労働者は、闘いを組織し闘っていくことで、われわれの権利と生活を守ることができるのである。
                                 (二〇二二年七月二十日記)
                                        【沖江和博】
                           (『思想運動』1079号 2022年8月1日号)