アジア太平洋版NATOを許すな
日中・日朝友好の旗をかかげよう
現在、六月二十九日から八月四日の期間にかけて、ハワイ諸島およびその近海で環太平洋合同軍事演習「リムパック2022」が行なわれている。主催はアメリカ海軍で、日本、オーストラリア、インドのクアッド参加国に加え、イギリスやドイツ、フランスなどNATO加盟国、イスラエルや韓国も含む合計二六か国が参加している。また、アメリカ、日本、韓国はその開催に合わせて、「北朝鮮の弾道ミサイルの探知・追尾訓練」として「パシフィック・ドラゴン」を予定する。
アメリカ海軍の五月三十一日の公式声明によれば、「リムパック2022」の目的は「自由で開かれたインド太平洋の促進」である。「リムパック」自体は以前から行なわれているが、「自由で開かれたインド太平洋」という言葉の登場は前回からである。
そもそも「自由で開かれたインド太平洋」とは何か。これは二〇一六年八月に安倍晋三が発表した構想で、アメリカをはじめとする他の西側諸国が賛同したものだ。この構想の本質は、かつての帝国主義列強およびそれに親和的な国をひとつに束ねて、貿易協定・多国籍企業・金融機関に有利な新植民地主義的経済秩序を推進することにある。そして、「リムパック2022」は社会主義や反帝自主の道を進もうとする国々にその構想を強制する「拳」として機能する軍事機構、すなわち「アジア太平洋版NATO」の結成のための前段階として行なわれているのである。
「リムパック2022」はどの国も標的にはしていないというのがアメリカの公式の言い分である。しかし、アメリカのジャーナリスト・アビー‐マーティンが自身の運営する独立系メディア『エンパイア・ファイル』に七月二十二日付でリークした軍事演習の映像は、別のことを物語っている。その映像では、アメリカ兵とおぼしき兵士が七月十八日に金正日と金正恩の肖像が飾られた朝鮮の民家に対し銃弾を撃ち込む訓練をしているのだ。また、アメリカ・インド太平洋軍の当時司令官フィリップ‐デイヴィッドソンが二〇一九年九月三十日の演説で「北京は、自由で開かれたインド太平洋を阻止するために権威主義的・共産主義的・社会主義的イデオロギーを拡散しようとしている」と言っていたように、この構想そのものが当初から中国を敵視しているのは明らかである。
中国と朝鮮の見方は厳しい。『人民網』は「中国封じ込めのためのNATOのアジア太平洋化とアジア太平洋のNATO化を推し進めるアメリカの戦略的企て」(七月五日付)、『朝鮮中央通信』は「アジア太平洋地域でアメリカと日本、南朝鮮が繰り広げる合同軍事演習は何よりもわれわれを狙ったもの」(六月三十日付)とそれぞれ指摘する。
いま、とくに警戒が必要なのは西側諸国の中国・台湾地区への干渉であり、台湾を中国に対して差し向けようとする動きが活発化していることだ。七月十四日にアメリカの下院で、二〇二四年の「リムパック」への台湾地区の「政権」の招待を明記した二〇二三年度予算案「国防権限法」が可決された。翌日には、トランプ時代の大規模な対台湾武器売却政策を引き継いだバイデン政権が、就任後五回目の武器売却を行なっている。日本でも、「台湾有事は日本有事」(安倍晋三)を合言葉に、台湾地区への干渉を強めようとする動きが続いている。
しかし、こうした動きはアメリカが一九七二年二月の上海コミュニケ等で、日本が同年九月の日中共同声明等で誓約した「一つの中国」原則に反するものだ。西側の台湾地区への干渉・介入は国連憲章違反であり、中国に対する侵略以外の何ものでもない。実際に国際的な約束を破っているのは「中国はルールに基づく国際秩序に反している」と言うアメリカや日本である。
こんにち帝国主義勢力は、中国や朝鮮をふたたび植民地にしようという野心を捨てず、この両国を中傷し、経済を破壊し、武力で脅し、屈従させようとしている。そして、日本の支配階級も「アジア太平洋版NATO」でもって、みずからの資本主義的・帝国主義的利害を追求し、歴史を繰り返そうとしているのだ。
来月は日中共同声明(一九七二年九月二十九日)五〇周年であり、また、日朝平壌宣言(二〇〇二年九月十七日)二〇周年でもある。その両方で、日本側は過去の侵略を反省すると約束した。われわれ労働者人民は、これを反故にする支配階級の野蛮な企図に抗して、日中友好・日朝友好の旗をはっきりとかかげよう。東アジアの平和はそれにかかっている。
【大村歳一】
(『思想運動』1079号 2022年8月1日号)
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