状況2022・政治
世界と日本はいま、大転換期をむかえている
参議院選挙前後の政治状況からなにを教訓化すべきか
                  
   広野省三
 
 はじめに―コロナ禍が示す日本社会
 
 二年半以上にわたるCОⅤID‐19の広がりは、いまだ収束をみせず、七月半ばからはオミクロン株(BA・5)の急拡大により第七波に突入、感染大爆発が発生している。七月二十三日の感染者数は、全国で初めて一日二〇万人を超え二〇万九七五人、四日連続過去最高を更新し、東京でも三万二六九八人で三日連続三万人を超えた。発生当初からわれわれは、さまざまな医療関係者の意見を聞き、これの持つ非常に強い感染力と重症化(致死率の高さ)の危険性を認識し、「壊憲NО! 96条改悪反対連絡会議」の仲間とともに、医療体制を整備して「いつでも、どこでも、だれでも無料のPCR検査を実施」し、陽性者の早期発見と隔離、そして休業補償、社会的弱者や損害を受ける業種への支援を要求して活動してきた。徹底したPCR検査の実施こそが感染拡大を防ぐ最大の有効策、と確信していたからだ。しかし今もって政府はPCR検査を抑制している。これではいったいどれだけの人が感染しているのか実態のつかみようがない。検査数が少なければ当然、感染者数も少なく出る。社会経済を回すためには感染者・重傷者・死者が「ある程度」出ても仕方ない、「ウィズコロナ(コロナとの共生)」は西側資本主義国に共通の政策だが、PCR検査の抑制はそのなかでもきわめて異例である。
 自公政権(発生当時の首相は安倍晋三)は、勤労人民の切実な声に耳を傾けることなく、逼迫する病院・保健所の人手不足の解消も実現できず、PCR検査の実施能力向上の目標だけは掲げながら達成できず、小・中・高校の状況を理解し協力を求めることなく一斉休校を強要し現場を混乱させ、「アベノマスク」の全世帯配布などで「やってる感」を演出したが、結局「緊急事態宣言」を出して各人・各職場への自粛要請で乗り切ろうとした。
 安倍政権を引き継いだ菅前政権、岸田現政権も、基本的には安倍政権と同じ対応に終始した。現在の一日二〇万人超という感染大爆発の状況を前に、岸田政権は「社会経済活動を維持する」ためとして濃厚接触者の待機期間を原則七日から五日、最短三日に短縮することを決めた。そして経済界は一様にこれへの賛意を表明している。
 コロナ下の日本社会の状況をみてみよう。いま労働現場では非正規労働者が労働者全体の三七・二%(二〇二〇年時点)を占めている(一九八九年は約二〇%)。二〇二〇年時点の内訳では女性が五五・四%と圧倒的に多い。さらに二〇二〇年の日本の高齢者(六五歳以上)は約三六一二万人だが、このうち就業者数は九〇六万人と四人に一人が働き、そのうちの四人に三人が非正規労働者だ。金融商品をもつ金持ちが株高その他で大儲けしているいっぽう、「日本の賃金が上がらない。経済協力開発機構の調査によると、二〇二〇年の日本の平均賃金は約四二四万円で、主要三五か国のうち二二位。韓国は約四六二万円で、一五年に日本を抜いた。三〇年前と比べると、一位(約七六三万円)の米国は約一・五倍、韓国は約二倍に増えたが、日本はわずか一・〇四倍とほとんど横ばいだ。輸入に頼る食材や原油の価格が高騰する中、生活の苦しさだけが増している。」(『毎日新聞』七月五日付)。さらに国立大学の授業料は国立大学独立法人化でうなぎ上り、私学も上がり、数百万円の学資ローンを負わされる学生が激増している。そして日々親殺し、子殺し、いじめや自殺、不正と詐欺報道が横行する殺伐とした社会が生まれている。
 こうしたなかで、われわれは、新型コロナウイルス感染症対策に限らず、安倍政権をはじめとする自公長期政権の政策に共通する人民無視、憲法破壊、国会軽視の事案を幾度となく目撃してきた。しかし今回の参議院選挙での改憲勢力の三分の二議席以上の獲得という結果をみても一目瞭然のように、労働者政党、労働組合をはじめ政府批判を行なう組織の力は弱く、独占資本への有効な闘いが組める状況にない。しかし日本の労働者階級人民は、この困難な現状から目をそらさず、自らの生存権を賭けて、独占資本主義の搾取と横暴を拒否し、自分たち自身の政治権力を獲得する道を模索しつづけていかなければならない。
 われわれはそうした闘いの典型を、全国一般・全労働者組合(全労)、全国一般東京東部労組、全水道東京水道労働組合の呼びかけによる五月二十三日の反戦アピール労組共同行動に、また辺野古新基地建設反対闘争をはじめとする米軍基地撤去闘争・南西諸島への自衛隊配備・強化に反対する闘いを粘り強くつづける沖縄県民の闘い、さらに安倍に代表される民族排外主義者の不当な差別に屈せず毅然として闘う在日朝鮮人の闘いなどにみる。労働者階級人民の闘争力をたとえ部分からでも再生させること。沖縄県民の反基地闘争に学び、勝利の日まで決してあきらめないこと。在日朝鮮人の民主的権利を擁護しこれに連帯して闘うこと。そして米帝と日帝によって課せられている長期間の「制裁」と戦争挑発にも膝を屈せず、社会主義建設を推し進めるキューバ、朝鮮人民の闘いに学び、連帯してゆくこと。こうした地道な闘いの継続以外に、起死回生の特効薬はない。
 そうした意味で、今次参議院選挙における沖縄選挙区での伊波洋一候補の勝利、比例代表での社民党の福島瑞穂候補の当選(社民党は新社会党とも連携し政党要件を勝ち取ったし、沖縄県の比例得票率は自民の二七・一三%、公明の一四・七七%に次いで第三位の一〇・九九%を獲得している)。さらに立憲民主党の辻元清美候補の当選。これらは、危機に直面している改憲反対・反戦平和運動に再生・強化の足掛かりをのこした勝利として評価できる。
 
人民分断画策するイデオロギー攻撃
 
 運動再生を目指すときに重要な位置を占めるのが、敵のイデオロギー攻撃との闘いだ。支配階級はことあるごとに、西側先進資本主義国(そこには当然日本も入っている)の「普遍的価値観」=「民主主義」「法の支配」「人間の尊厳」といった言葉を自慢げに持ち出し、中国をはじめとする西側とは違う政治体制を採用する国を、「非民主的」「人権無視」の国として描き出す。しかし、各国それぞれに事情があろうが、おもな国の新型コロナの感染者数だけでもみれば、それがいかにデタラメかはすぐわかる。
 客観的には、図のような状況なのである。(図表参照=略)
 しかしかれらは、こうした客観的数字を無視して、「二〇二二年四月から六月の中国のGDPが〇・四%増と減速した」ことを捉え、「習近平政権が掲げる『ゼロコロナ』政策に基づく強権的な移動制限措置による打撃が鮮明となっている」(『産経新聞』七月十六日付)と揶揄し、日本の勤労人民の間に意図的に西欧資本主義のやり方がよく、中国式ではうまくいかないんだとの意識を刷り込み、反社会主義かつ、中国蔑視感情を広めようとしているのである。
 どちらが人民の命を第一としているか? 一目瞭然ではないか。黒を白といいくるめるやり方は安倍が得意としたやり方であり支配階級の常とう手段。やつらは日本の勤労人民のこれから先の労働と生活への不安と不満を中国に向けさせ、国内の矛盾から目をそらさせようと、連日、あることないこと目を皿のようにして探し出し、悪宣伝を繰り広げているのだ。支配階級は、中国・朝鮮・アジアの労働者階級人民と日本の労働者階級人民が国境を越えて団結することを極度に恐れている。これが成立すれば独占資本の手足は縛られ、闘いがすすめば日本帝国主義は打倒されるであろう。
 話は変わるが、六月末にマドリードで開かれたNATO首脳会議は、ロシアと中国への対決姿勢を明確に打ち出した今後約一〇年の指針「戦力概念」を採択したが、そこに日本の首相として初めて出席した岸田は、「ウクライナは明日の東アジアかもしれないという強い危機感を抱いている。力による一方的な現状変更の試みは、決して成功しないことを、国際社会は結束して示していかねばならない」と発言した。これに対してテレビでもお馴染みの趙立堅・中国外交部報道官は、「日本は実際には自らの軍備拡大や武力行使の口実を探っている。だれが見ても、前々から一目瞭然だ」と述べ「東アジアの明日を語る前に、東アジアの昨日に何が起こったのかを思い出して反省すべきだ。日本が心から東アジアの平和と安定を望むなら、自らの軍国主義による侵略の歴史を真剣に反省し、教訓を汲み取るべきだ。なすべきことは、あちこち火をつけて煽り立て、天下の混乱を切望することではない」と厳しく切り返している。
 
世界の基本構造と「米中対立の激化」
 
 先述したような、先がみえず、息ができないようなこんにちの日本社会はどのようにして出現したのか。一九九一年のソ連邦倒壊・社会主義世界体制倒壊後に「わが世の春」を謳歌した西側資本主義の三〇年後の現実はどうか。資本家階級=帝国主義陣営は、有効な投資先の欠如、経済成長率の鈍化、貧富の格差の拡大、際限のない利潤追求衝動にもとづく地球環境の破壊、先進資本主義国の一方的権益擁護システムの動揺といった、資本主義的グローバリズムが生み出した矛盾の噴出に直面している。
 そして中国をはじめ西側諸国がつくり出したシステムに唯々諾々と従わないBRICSや非同盟を志向する国々などの抵抗勢力が力をつけ、対抗関係を形成するまでに成長している。
 資本家階級はこうした現状に対する強烈な危機意識を持ち、資本主義(帝国主義)体制を維持するため、みずからの支配に抗う者に対する容赦ない懲罰(暴力と戦争、経済的「制裁」)を加えると同時に、同盟強化と「アメ」の政策を展開している。日本でのその発現形態が、とりわけ安倍政権以来の自公政権による改憲、右翼・軍事大国化路線の邁進であり、この路線こそが日本の労働者階級人民を労働と生活の現場で塗炭の苦しみにつき落としている張本人なのである。安倍、岸田らが公言するような軍事費のGDP比二%超えなどが実行されたら、人民生活は増税または社会保障費の削減などに直面させられる。
 マスコミで連日取り上げられているように、こんにちの世界情勢を特徴づけるのは「米中対立の激化」である。米国はこれまで、少なくとも一九七九年の米中国交樹立以来の約四〇年間、中ソ対立をも利用して一貫して対中国関与(融和)政策を展開してきた。しかし、ここにきて自分たちの足元、いや正面に中国が立っていることに気づかされている。「改革開放」「社会主義市場経済」路線をへて二〇〇一年のWTО加盟以後、中国経済は飛躍的に発展した。中国の政治・経済システムを社会主義と規定するかどうかは、世界革命の進路の検討、とりわけわれわれが日本社会の変革を展望するときに避けては通れない課題だ。それを十分な研究もなしに、ブルジョワ情報に依拠して「そうであるとか、そうでない」とかを拙速に決めつけるのは誤りだ。この問題は、われわれ自身の現在の歴史が大日本帝国による第二次世界大戦での侵略の歴史とつながっており、東アジアで平和と社会主義を実現しようとするわれわれの立場からいえば、「先進国」日本で反独占闘争をどう展開するのかという問題とストレートにつながっている。しかも中国自身は共産党の指導性を認め「中国の特色ある社会主義」を目指すと公言しているのだから、かれらの主張と現実を深く検討する必要がある。
 中国は二〇一〇年にGDPで日本を追い越し、現在は三倍以上。購買力平価ではすでに米国を追い抜いており二〇二〇年代中期以降には実質GDPでも米国を追い抜くだろうとの予測が西側の経済機関の間でも立てられている(もちろんこんにちの世界経済は構造的に相互依存の関係にあり、各国のGDPだけでその全容を捉えることはできないが)。
 ちなみに日本の貿易相手国は輸出入とも中国が第一位である。しかもGDPが三倍も四倍も違い、軍事力にも格段の開きがある。
 そんな国と本当に戦争できると考える者がいるのか。いや、過去には実際そういう愚か者がいたのだ。戦前の大日本帝国主義は無謀にも一九四一年十二月八日から太平洋、東南アジア地域を侵略し、アメリカ、イギリス、オランダなどの連合軍との戦争をつづけ、四五年八月十五日に無条件降伏した。日本帝国主義の敗北には、それ以前からの日本の侵略・植民地化に抗する中国、朝鮮、アジア各地の反日武装闘争が根本にあるのだが、この戦いでアジアの人民は二〇〇〇万人、日本人三一〇万人が犠牲となった。日本国憲法はこの犠牲の上に成立したものである。この歴史を反省しない、戦争の現実を知らない戦争好きの輩が、憲法を改悪し、今度はアメリカと手をくんでアジアで戦争を起こそうとしているのが現状なのだ。
 アジアの人民は歴史を忘れていないし、再び侵略されることを決して許さないだろう。いや日本帝国主義の手を縛り戦争をさせないこと、戦争への道を憲法上でも容認する改憲を許さないこと、このことこそが、いま、日本の労働者階級人民に課せられた最大の課題なのだ。
 中国は経済にとどまらず軍事的・政治的にも急伸している。世界的に影響力を拡大する中国を目の前にした資本家階級の危機感こそが米中対立激化の真因であり、現在の歴史的転換期を特徴づけている。しかし、客観的にみると、力関係はいまだに、金融・経済・軍事・科学技術・マスコミ・文化イデオロギー分野での支配をとおして、米国を先頭とする西側先進資本主義国(帝国主義陣営)優位の状況にある。帝国主義陣営はG7、NATO、米英豪の軍事同盟「オーカス」日米豪インドの四か国の枠組み「クアッド」、日米同盟、日米韓軍事同盟そのほかありとあらゆる機構を強化・新設し、中国包囲網の再編をはかっている。
 そうした点を踏まえたうえで、こんにちの世界構造をとらえるとき、西側帝国主義に搾取され、さまざまな攻撃をうけているアジア、中南米、中東、アフリカ諸国で中国が果たしている役割をきちんと見てゆく必要がある。われわれはそこに現代の反帝闘争の現実を見なければならない。もちろんそこに存在する矛盾も含めて。
 
ロシア軍によるウクライナへの侵攻
 
 二月二十四日にロシア軍によるウクライナへの侵攻が開始され、現在も戦闘が継続されている。われわれは、ロシアによる武力侵攻は是認されないし、ロシア軍は撤退すべきである、と主張する。しかし、それを口実にした日本を含む西側資本主義国(帝国主義陣営)の軍拡路線の拡大には断固反対する。西側諸国のウクライナへの軍事支援はとどまるところを知らず、米国をはじめとする軍事産業は人殺しでぼろもうけをしている。
 アメリカの軍事費は圧倒的で、世界全体の四割を占める。「殺し、殺される」戦争の悲惨な現実は振り返られることなく、「敵基地先制攻撃論」「核シェアリング」「軍事費のGDP比二%超え」、が日本国内で声高に叫ばれている。この間の、事ここに至った経緯を正確に捉えようとする努力抜きに、マスコミがたれ流す「西側情報」に基づいて「先に手を出したロシアが悪い」「超大国ロシアによるウクライナへの覇権主義に反対」の声が、「左翼」を含めて日本社会全体に広がった。いまは真相が少しずつ明らかにされ、そうした意見ばかりではなくなってきているようだが……。
 この背景には、米国が「人権」をキーワードに、香港、新疆ウイグル自治区、台湾問題を使って中国に揺さぶりをかけたが、うまくゆかなかったこと。そのために中ロ(BRICS、上海機構、非同盟運動をはじめとする欧米主導の「国際秩序」に不満を持つ途上国も含めた)の連携・団結に楔を打ち込む必要があったこと。そのための長い時間をかけた執拗なウクライナへの工作があったことなどがあげられる。西側諸国は、ロシアが軍事侵攻を選択せざるを得ないところまで追い込んだのである。
 日本のマスコミ報道をみていると、「国際社会」はロシア非難で団結しているようにみえるが、実際はそうではない。国連での対ロシア決議は、三月三日の「ロシア軍の即時撤退を求めた決議」では賛成一四一、反対五、棄権三五、無投票一二だったが、四月七日の「人権理事会からのロシア追放決議」は賛成九三、反対二四、棄権五八、無投票一八という結果である。アフリカやアジア、中南米の発展途上国、東南アジア諸国連合(ASEAN)の多くの国も棄権や反対に回った。こうした現実をみても現在は歴史的大転換期にあるのである。そしてこれに対応した日米同盟強化、東アジア版NATO形成の動き等が追求されているのである。
 
参院選と安倍の死
 
 自民党は、参院選終盤での銃撃による安倍の死を、「民主主義の破壊・テロ」と宣伝し、これをも利用して改憲政党(公明、維新、国民民主)と合わせて議席の三分の二以上を獲得し、圧勝した。憲法改悪への危機は極限に達している。『毎日新聞』と社会調査研究センターが七月十六、十七の両日実施した全国世論調査によると、安倍元首相が、参院選の街頭演説中に銃撃され死亡した事件が、参院選の結果に影響したと思うか」との質問では、「影響したと思う」が七一%に上り、「影響したとは思わない」は一九%にとどまった。岸田内閣の支持率は五二%で、六月の前回調査(四八%)から四ポイント上昇した。そして政府は二十二日の閣議で、安倍の首相在任八年八か月の功績を顕彰して、九月二十七日に日本武道館で「国葬」を行なうことを決めた。マスコミを総動員して厳粛な雰囲気をつくりだし、安倍と自公政権の悪行の数々を人民の記憶から葬り去そうとしているのだ。
 安倍の銃撃死と旧統一教会のかかわりが改めて指摘されているが、報道されている議員の名前も含め、マスコミ等が知らなかったはずはない。右翼政治と宗教の関係は世界を見渡しても根深い。イスラエルしかり、アメリカのトランプしかり。日本では、天皇制の下、靖国神社があり、神道政治連盟、生長の家を母体とする「日本会議」、あるいはキリスト教原理主義グループやその亜流などの右翼宗教勢力が、一貫して持ちつ持たれつ、自民党政治を支えてきたのだ。宗教法人による学校経営や病院経営などは、税制上の優遇処置などさまざまなメリットがあるのだろう。
 日本を現在の軍事大国化路線、不安と不満のまん延する社会状況に落とし込めた「アベ政治」の八年八か月については、具体的に検討したいが、紙幅が足りない。しかし、その動きを時系列で一瞥しただけでも、数々の反動立法の制定、安保法制はじめとした閣議決定の乱発、「モリ、カケ、サクラ」などうそを平気でまき散らす虚偽答弁、自民党議員に広がる汚職と選挙違反、そして突出する在日朝鮮人弾圧、教育・マスコミ・司法への介入等々、その悪事を挙げれば枚挙にいとまがない。こんにち日本社会にみられるモラルの崩壊は安倍政権の下で急伸したのは間違いない。うそを言っても、法律を破っても力を持っていれば「そのご指摘はあたりません」の一言で逃げおおせ、罰せられないで済む事例に事欠かないのだから。
 ではなぜ反安倍・反自民を掲げる政党、労働組合がこれに風穴を開けられなかったのか。マスコミなどで取り上げられている安倍およびその祖父岸信介らと旧統一教会の問題は、政治家と宗教の問題としてあるだけではない。それは本質的には旧統一教会と一体化した勝共連合とCIAもからむ国際反共同盟と安倍一族・自民党との関係なのだ。つまり安倍らは、自身の政治を徹底的に階級闘争としてとらえ、共産主義に打ち勝つために共産主義者は徹底的につぶし、共産主義勢力に加担するリベラル派は手なづけることを基本に、どうしても自分たちに逆らうものは容赦しないという対応を一貫して行なってきたのだ。こうした政策はなにも安倍らの専売特許ではない。CIAは世界各地でこうした政界工作を実行してきている。反安倍政治を掲げる側の敗北の原因は、この攻撃を、「民主主義の破壊」の問題としてのみ取り上げ、階級闘争の観点から取り上げることができなかったからだ。
 
独占が示す明確な方針との闘いの道
 
 参院選後、選挙報道の五大紙を一読したが、ほとんど読むべき記事はなかった。ただひとつ『日経』の七月十一日号一面下段に掲載された「民主主義 応える政治を」と題する政治部長・吉野直也名の囲み記事が目についた。「安倍晋三元首相へのテロの衝撃が示したのは民主主義の尊さと大切さである」(旧統一教会に家庭を崩壊させられたと考え、その教会を安倍が背後から支えていると考えた犯人が殺人を犯したことが、なせ「テロ」となるのか?)「民主主義の土台を支えるのは経済と安全保障である」(これもなんとなくとってつけたような言葉だ)。しかし次からはさすが『日経』。面目躍如だ。「構造改革」「電力需要の逼迫……原子力発電所の再稼働を」「人口減の対策」「東アジアの安保……ロシアのウクライナ侵攻は同じ強権国家、中国の台湾進攻を想起する」「日米同盟を強化進化させるためには日本独自の抑止力が必要……防衛予算の増額は科学技術や公共事業を含めた『国防』視点が重要」「日米の安保協力の再構築」「慰安婦合意を正式に認めるよう迫れ」「憲法改正」「サイバー攻撃などデジタル空間の脅威に対処できる憲法のあり方を検討せよ」。そしてとどめは、「『黄金の三年間』は民主主義を守るために政治に与えられた時間でもある」である。
 お見事。これは、岸田がどこかでやるだろう短いスピーチに使える、今日の日本独占とその政治的代理人に課せられている課題を列挙した、お手本のような五段二二行の文章だ。
 支配階級はしたたかだ。七月十四日、岸田は記者会見で「今冬、原発を最大九基再稼働させる」と表明した。階級闘争の観点、歴史的観点、国際的観点の貫徹。これこそ参院選前後の政治状況からわれわれが教訓化すべき事柄ではないか。(世界各地で労働組合を中心に果敢な闘いが展開されているが、この稿ではふれられなかった。国際欄の一読を。)七月二十五日記
                           (『思想運動』1079号 2022年8月1日号)