2022 参院選
壊憲の流れに歯止めをかけるために
戦争拒否の意志を明確に示そう
反動化する世論
ウクライナ危機に便乗して日本の軍国主義化、壊憲の動きが一気に進んでいる。いまや戦争の放棄と陸海空軍その他の戦力、そして交戦権を否認した憲法九条を柱とする平和憲法は戦後最大の危機に瀕している。また日本の平和運動、改憲阻止運動も同じく戦後最大の試練に立たされている。
この間、客観性を欠いたロシア非難一辺倒の戦争報道(世論操作)が執拗に行なわれ、人びとの間にはきわめて好戦的な意識が埋め込まれた。ロシア側の主張は「フェイク」「プロパガンダ」としていっさい拒絶され、帝国主義の軍事機構NATOへの加入をやみくもに追求するウクライナ側の主張はすべて無批判に受け入れられる。その結果、「武器、武器、武器を」と叫ぶ同政権のミリタリックな主張に賛同する言論が日本社会全体を覆った。一連のロシア非難キャンペーンが反社会主義宣伝の役割も果たしていることに留意しよう。意図的に、ロシアの行動があたかも旧ソ連の社会主義政権を受け継いでいるものであるかのごとく喧伝された。
ロシア、朝鮮民主主義人民共和国(朝鮮)、中国をひとくくりにし、これらの「反民主主義」「専制・独裁国家」の「軍事的脅威」に対抗するためには軍事力の大幅な増強、改憲が必要だとの主張が急速に広がった。連日、政府とマスコミが一体となって日本の「防衛力の不備」キャンペーンを展開し、軍事面だけでなく「経済安保」の必要性も声高に叫ばれる。支配階級は人民のなかに反動的「国防意識」を植え付けることに成功したのである。
勢いづく改憲勢力
この状況を千載一遇の好機と捉え、改憲勢力は大攻勢に出ている。自民党は同党の憲法改正実現本部内に国民運動委員会を設置し、全国一一ブロックでの研修会や対話集会を展開中である。実現本部の本部長を務める古屋圭司は岐阜出身だが、そこでは先陣をきって「美しい日本の憲法をつくる岐阜県民の会」の下、「ぎふKAIKENサポーター」を集め始めている。さらに自民は連合の右派幹部に接近し、国民民主の改憲派への取り込みや立憲と共産党との離反工作を担わせている。大阪維新が壊憲攻撃の「突撃隊」の役割を演じていることは周知の通りだが、最近では「参政党」なる新手の右翼組織も登場し若い層の間で支持を広げている。侮りがたい動きであり警戒が必要だ。
四月二十六日に自民党が政府に出した安保提言には、「反撃能力」(「敵基地攻撃能力」の名称変更)が盛り込まれたが、その対象は相手国のミサイル基地に限定されず「指揮統制機能等」なども含まれるとされた(日本でいえば、市ヶ谷の防衛省や首相官邸を攻撃することを意味する。いきなり全面戦争を仕掛けることにほかならない)。「防衛費」は五年以内にGDP比二%以上を目指す、武器輸出の基準を緩和することも提言された。仮に該当予算が二%となった場合は日本の軍事費は一〇兆円を超え、現在の世界九位から三位にまで急上昇する。これを実現するには新たに年五兆円以上、約二倍の支出が必要で、教育や医療、社会保障関連予算の削減は必至であり、消費税のアップなど新たな増税も画策されている。「日本を取り巻く安全保障環境の悪化」を口実に軍事費が増大していけば、人民の負担は際限なく増加する。
憲法審査会での議論は改憲派ペースで急ピッチに進んでいる。昨年秋の衆院選での野党敗北で、衆院憲法審は、七会派のうち五会派(自民、維新、公明、国民、有志)の圧倒的多数が改憲派で占められた。少数意見尊重や予算委開催中は開催しないなどの従来の慣行は破られ、二月十日以降はほぼ毎週開催されている。五月十九日の衆院憲法審では、改憲四政党が九条改憲、自衛隊の明記を公然と主張した。審査会の回数が重ねられれば、改憲派は「議論は尽くされた」とし次のステップ(=改憲発議)をめざす。現在の憲法審は改憲前夜と言ってもよい状況にある。
立憲の安保政策
「憲法で国は守れない」「丸腰で侵略者と戦うのか」等の憲法闘争を貶める政治宣伝が強まるなかで、改憲反対闘争を担う部分からも、政府の「安保・防衛」政策と正面から闘わずにみずからの主張を後退させる動きが出ている。以下、野党へのきびしい指摘もするが、それは野党共闘の前進、憲法闘争の主体強化を願う立場からの批判である。忌憚のない批判と自己批判こそが、運動を発展させると考えるからだ。
立憲民主党が参院選に向けてまとめた「2022政策パンフレット」のなかの「3、着実な安全保障(対話による平和)」では、「弾道ミサイル等の脅威への抑止力と対処能力強化を重視し、日米同盟の役割分担を前提としつつ、専守防衛との整合性など多角的な観点から検討を行い、着実な防衛力整備を行います」とある。日米軍事同盟を前提とし、安倍の「爆買い」のようなやり方はしないが、朝鮮や中国の「軍事的脅威」には「着実に」軍事力を増強させ対抗する、と言っているのだ。「軍事対軍事」というスタンスは自民党と基本的に変わらない。
核共有は認めないとしているが、「我が国は日米同盟の強力な抑止力のもとにあり、現在の日米拡大抑止力協議の活用など、さらなる同盟関係の信頼、連携関係強化に取り組みます」とし、日本が核兵器を含むアメリカの軍事的な抑止力に頼ること、その関係を強化することを全面的に肯定している。また現行の安保法制についてはパンフの末尾の方に「違憲部分を廃止する」との表現は残されてはいるが、以前のように安保法制反対を主要政策の一つと位置づけてはいない。
この機に日本共産党が「自衛隊活用論」を持ち出したことは愚の骨頂というしかない。
共産党の「自衛隊活用論」をめぐって
「わが党が参加した民主的政権」と自衛隊が共存する時期に「急迫不正の侵害を受けた時には、国民の命と人権、国の主権と独立を守るために、自衛隊を含めあらゆる手段を活用します」と説明されているが、要するに軍隊(自衛隊)を使い戦争をすると公然と主張しているのだ。この論は戦争放棄、戦力不保持を掲げた平和憲法に違反しないか。共産党が今になってあらためてこんなことを言い出したのは、右派の政治宣伝(「共産党はいまだに自衛隊を違憲と捉え敵対している」)への屈服であり、選挙での票欲しさに「国防強化」を支持する反動的世論に迎合するためである。
そもそも共産党が守ると言っている日本の国家とはいかなる性格の国家なのか、共産党が活用するとしている自衛隊は「国民の命と人権」を守る組織・集団なのか。現在の日本は帝国主義国家であり、それが関わる戦争は基本的に資本家階級が帝国主義的利権を求める戦争以外ではありえず、われわれ労働者階級はかかる戦争においてけっしてこの国の「主権と独立」を守る立場に立ってはならない。また現在の自衛隊はまぎれもなく帝国主義の軍隊であり、支配階級の利益を守り、侵略戦争をも基本任務とする暴力組織である。この国家と軍隊の基本的性格は、日本共産党が参加するとしている「民主的政権」(日本共産党の現在の路線では当然ブルジョワ独裁も安保体制も維持される)においても変わることはない。
それから「急迫不正の侵害……」「敵が攻めてきたらどうする」という仮定を設けること自体が改憲論者の仕掛ける議論の土俵に乗ることだ。われわれがなすべきは、攻撃されるような事態に至る前にあらゆる外交手段を駆使し平和的解決の道を探ることだ。それこそが日本国憲法前文の精神とも合致する。
自衛隊をめぐっては、六月十四日、立憲の有志議員が、自衛隊員の処遇改善や施設整備などを野党の立場からも後押しするとして「自衛隊員応援議員連盟」を設立した。会長になった枝野前代表は「最前線で汗を流している隊員の皆さんが誇りと自信を持って仕事できる環境をつくることは、政権を目指す政党として大事な責任だ」と述べた。
この間、「台湾有事」や「弾道ミサイル」への対処に名を借りた自衛隊と米軍による中国、朝鮮に対する戦争挑発策動(合同演習)がエスカレートしている。日本の軍隊=自衛隊が米軍とともに敵基地を攻撃できる方針を示したことに対して朝鮮や中国をはじめとしたアジア諸国人民からはきびしい批判・反発の声があがっている。自衛隊の「活用」「応援」を口にする人たちはそれにどう答えるのか。
軍事要塞化の進む宮古島では、自衛隊のミサイル配備に対し運搬車両の前に座り込む実力闘争が展開された。南西諸島をはじめ自衛隊基地反対運動に取り組んでいる人たちは、自衛隊を「活用」し「応援」する動きをけっして是認はしないであろう。
憲法闘争の立脚点
改憲阻止闘争におけるわれわれの立脚点を確認したい。
●日本国憲法の平和条項は、第二次世界大戦に勝利した国際的な反ファシズム連合によって日本軍国主義を二度と復活させないための保障=再犯防止のための強制力として盛り込まれた。そこにはとりわけ、日本帝国主義の侵略により二〇〇〇万人もの犠牲を強いられた中国をはじめとするアジア諸国人民の、再び日本が侵略戦争を起こすことを断固として許さないという、苦難の歴史に裏打ちされた反帝国主義の意志が反映されている。その後米帝国主義の反共軍事戦略に沿って日本帝国主義は完全な復活を遂げ今や世界有数の軍事力を備えて再び侵略戦争(アジア地域も当然その主な対象に)に乗り出す体制を整えている。したがってわれわれの改憲反対の闘いは、アジア諸国人民の日本帝国主義に反対する課題をも共有するインターナショナルな闘いでもあるのだ。
●自衛の範囲内あるいは専守防衛を前提とした戦力の保持や武力行使、そのための自衛隊の活用を容認する論があるが、われわれは反対だ。戦後日本の再軍備・軍事大国化の過程は、憲法九条をめぐり自衛権や専守防衛の名のもとに限りなく拡大解釈が重ねられた歴史だ。日本は帝国主義国家であり軍事侵略をその本性とする。そのような国家に自衛権もそれを行使する軍隊(自衛隊)もぜったいに持たせてはならない。
●改憲には反対だが日米安保・日米同盟は必要だという意見にも反対である。日米安保の本質は、二つの帝国主義国家による反共軍事同盟であり、この体制のもとで日本が朝鮮戦争やベトナム戦争などの出撃拠点となった。それは「日本を守る」ためにあるのではなく、米日帝国主義が共同で侵略戦争を遂行するためにある。したがってその存在は本質的に平和憲法に反する。日本国憲法の理念の実現を阻んできたのはつねに日米安保と米軍基地の存在ではないか。沖縄の現実がそのことをもっとも端的に現わしている。
参院選をめぐって
来る参院選で改憲派が三分の二以上の議席を確保した場合、自民党の言うその後の「黄金の三年間」=われわれにとっては「地獄の三年間」(この間大きな国政選挙なし)に明文改憲(改憲発議→国民投票)が仕掛けられる危険性は非常に高い。自民党の茂木幹事長は「参院選後できるだけ早いタイミングで(憲法)改正原案の国会提出と発議を目指したい」とあけすけに改憲を進める意欲を語った(六月二十日)。早ければ来年四月の統一地方選に合わせて国民投票が強行されるという見方も出ている。七七年の戦後史のなかで、今次参院選は憲法改悪に直結する危険性がもっとも高い選挙となる。
改憲勢力の分断攻撃によって野党共闘の結束は弱まっている。前回二〇一九年の参院選では、三二の一人区のすべてで統一候補を擁立でき一〇地区で勝利した。昨年の衆院選では全二八九の小選挙区の七割以上にあたる二一三地区で候補を一本化した。しかし今次の参院選では三二の一人区のうち候補一本化はまだ一二地区にとどまる。
そうしたなかでの朗報。六月十九日の東京・杉並区の区長選で無所属新人の岸本聡子氏(立憲、共産、社民、れいわ、生活者ネット、緑の党、新社会推薦)が自民、公明などに推された田中良現区長を破り初当選した。道路の拡幅、児童館や高齢者施設の廃止計画の見直しを求める区民の運動とむすびついての勝利であり、昨秋の衆院選で石原伸晃を破り吉田晴美氏を当選させた野党共闘のネットワークが今次選挙の勝利にも大きく寄与した。
従来、国政選挙で憲法、とりわけ第九条が争点の中心になることは少なかった。日々のくらしをどうするのかに最大の関心が寄せられ、今回もまた、とどまることのない物価高、消費税の負担、生活苦にあえぐ人びとの怒りと「期待」が示されるだろう。しかし、改憲勢力はウクライナ戦争で生まれた反動的方向への世論の変化をうけて、国防、改憲、自衛隊というテーマをメインに据えようとしている。われわれはあらためて固く「政府の行為によって再び戦争の惨禍が起こることのないようにすることを決意し」中国、朝鮮との戦争準備に反対する。日本国憲法は、生存権とそれを向上させるための国の義務を定めている。戦争は最大の人災であり、政治家の最大の任務は戦争を起こさせないことである。ウクライナ戦争でのウクライナ、ロシア双方の厖大な死者、負傷者、住民の生活の拠点の破壊という悲惨な現状はそのことを如実に示している。アジアの人民の戦争被害、沖縄戦、ヒロシマ・ナガサキの悲劇を知るわれわれは、来る参院選では改憲勢力、戦争を起こそうとしている勢力の議席を一つでも多く減らすことを最優先の目標とし、野党共闘に結集している政党およびれいわ新選組への投票を呼びかける。
【大山歩】
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