『思想運動』千葉読者会での報告より
帝国主義コミュニティの外の声を聴く
現代のインターナショナリズムを求めて
   

以下は五月二十九日に開催の『思想運動』千葉読者会で行なった報告をまとめたもの。読者会では三月二十三日に公開のTBS「『ロシアを支援するのはベラルーシだけ』ルカシェンコ大統領インタビュー全編」が上映され、報告後、討論を行なった。

「国際社会」なる言葉

本紙六月一日号掲載のHOWS講演録「ウクライナ情勢と朝鮮――歴史的・大局的なものの見方の必要」で高演義さんは「国際社会? 真っ赤なウソです。言葉としてウソです。……共和国がロケットを打ち上げ、そして海に落ちますね。そうすると『国際社会と連携を深めながら北朝鮮に対処します』と必ず談話を発表します。……外務省の職員の応えは『外務省ではその国際社会という言葉について定義はなされておりません』でした。……『国際社会』は実はアメリカなのです。これにみんな騙されている。……帝国主義に反対して自主的に進もうという精神で第三世界の指導者たちが作り上げた非同盟運動というのがあります。……こういうところが国際社会ではないですか」と重要な問題提起をされています。
「国際社会」(International Community)なるものの権威が主張されるようになったきっかけは、コソボでした。その紛争を分析したダイアナ‐ジョンストンの本『愚者の十字軍――ユーゴスラヴィア、NATO、西側の妄想』(未邦訳)は、次のように記しています。「コソボ紛争は、国連の裁可なく行動するというNATOの意志を示した。国連(United Nations)の政治的権威は『国際社会』と呼ばれる曖昧な道徳的権威に取って代わられた。国連は規則と手続きに則り、あらゆる民族と国家に世界情勢に関する発言権を提供している。対して、「国際社会」はその構成も運営方法も曖昧である。……無形の価値で決定される国際社会というのは、むしろイギリスの紳士クラブのようなものでそのメンバーはかれらだけが理解すればよい曖昧な基準で決定される。富と権力を握るメンバーは何が正しく何が誤りかについて生来の道徳的感覚をもつと考えられ、かれらの基準に合わない人びとを排除し懲らしめるのに外部の権威を必要としないのである。……しばしば『国際社会』と呼ばれるものは新しい帝国主義的コンドミニアム〔分譲マンション〕の隠れ蓑である」(二五九頁)。
つまり、「国際社会」とは帝国主義コミュニティのことなのです。その中心にアメリカがいる。このコミュニティは国連憲章に違反し、「人道的介入」の名の下、ユーゴスラヴィア爆撃を行ないました。

壊憲危機はどこから

現在、憲法第九条の改悪という危機に瀕するわたしたちにとって次のジョンストンの指摘は重要です。「〔イタリアは〕この規則も定かではない排他的なクラブに入るためにイタリア共和国の規則を破ったのである。イタリア憲法第一一条は『国際紛争を解決する手段としての戦争を放棄する』と宣言している。……イタリアの憲法は『大国の高貴な輪』に入るために簡単に犠牲になる些細な紙くずでしかなかった」(二六一頁)。つまり「国際社会」の一員としてユーゴ空爆に加わるためにイタリアは、憲法第一一条を無視したのです。二〇一一年のリビア侵攻でも同様です。「国際社会」への接近は平和憲法の空洞化=壊憲をもたらす。日本でも、アフガニスタン・イラクに対する侵略への加担、東アジアでの朝鮮や中国に対する敵視政策によって、憲法第九条の空洞化が進んでいます。そしてそのいずれもが日本もその一員である「国際社会」との連帯の名の下に行なわれているのです。
イタリア憲法第一一条も、日本国憲法第九条も「再犯防止措置」です。つまり、エチオピアやリビアをイタリアの侵略から、中国や朝鮮を日本の侵略から守るためのものです。だからこそそれを遵守することこそ、過去の反省のうえに立つ立場だと言えます。二〇一五年八月十四日に閣議決定された安倍晋三の「戦後七〇年談話」は、要するに「国際社会」の一員になることこそが過去の反省だという論理であり、そこから改憲論も出てくるのですが、完全に倒錯しています。事実、「国際社会」とともに行なうことといえば、かつて侵略した朝鮮や中国に対する敵視政策なのですから。「七〇年談話」の論理は一部のリベラル・左翼にも見られ、それが「国際社会」から敵視される朝鮮や中国を「昔の日本と同じ」と非難するといういっそう深刻な倒錯につながっています。
アンジェロ‐デル=ボカというイタリアの歴史学者で活動家がいます。『ムッソリーニの毒ガス――植民地戦争におけるイタリアの化学戦』(大月書店、二〇〇二年)の著者ですが、日本の中国人に対する、ドイツのソ連軍捕虜やユダヤ人に対する悪魔的所業に匹敵する、イタリア・ファシストのエチオピア人に対する恐ろしい犯罪を告発した本です。そのデル=ボカは、二〇一一年にイタリアが「国際社会」の一員としてリビア攻撃に加わった際、一貫して反対の声をあげました。「国際社会」によってカダフィが悪魔化され、多くの「左翼」も同調する中で、鋭い歴史的視点をもったデル=ボカは、ムッソリーニの犯罪に対する再犯防止措置であるイタリア憲法を無視するリビア攻撃が、アフリカに対する再度の侵略だと見抜いたからです。こうした見方こそが求められます。

ルカシェンコのインタビューについて

本題に移ります。今回、上映の映像「『ロシアを支援するのはベラルーシだけ』ルカシェンコ大統領インタビュー全編」は二〇二二年三月十七日にTBSの金平茂紀キャスターが行ない、二十三日に公開されたものです。それ自体は貴重な仕事だと思います。
わたしはここでルカシェンコの受け答えについて評価を下すことはしません。ただ、こうした話を聴くうえでの基本的態度はどうあるべきかについて話したいと思います。
ルカシェンコはベロルシア(白ロシア)・ソビエト社会主義共和国出身で、一九九〇年にはその最高会議代議員選挙で当選しています。一九七九年から一九九一年までは、ソ連共産党の党員でした。ソ連「崩壊」後、一九九四年にベラルーシの大統領選に出馬し、当選します。
一九九八年にベラルーシは非同盟運動へ加盟します。加盟国の中でも重要なのは自律的発展のルートをたどる国々です。そうした国々は諸々の問題で独自の見解や行動をとりうるからです。キューバや朝鮮、イラン、エリトリアなどがそれにあたります。逆にとりえないのはインドネシアなどその他大勢の国です。
ベラルーシはその自律的発展の道をたどる国のひとつと考えられると思います。ソ連「崩壊」後、東ヨーロッパの多くの国がIMFや世界銀行の介入を通じた国有財産の民営化、社会福祉システムの解体、外国企業による資本投下で苦しむなか、ベラルーシでは「開放」政策が拒否され、過去数十年間のソ連時代に構築された包括的な福祉国家政策が維持されてきました。IMF関係者とともに作成され、二〇一八年二月二十日に発表された世界銀行の報告書『体系的国別診断――競争力のある、包括的で動的なベラルーシを目指して』によれば、二〇〇〇年代~二〇一〇年代前半までにルカシェンコ政権は、一日あたり五・五ドル(約七〇〇円)以下で生活する人が三八・三%だったのを人口の〇・四%、三・二ドル(約四〇〇円)以下で暮らす人を皆無にすることに成功しました。二〇一四年までに、「中流所得者」(世界銀行の定義では一日一〇ドル〔約一三〇〇円〕以上で生活できる人)は人口の二〇%未満から九〇%以上に増加しました。国民皆保険や社会保障つきの住宅提供も続きました。
ただ、財政上の問題で融資を得るために、二〇一五年に世界銀行の提言通りにルカシェンコが部分的に動いて以来、ベラルーシの人びとの生活状況に悪化傾向があるのは事実です。この決定を世界銀行は「心強い」と評価しています。
しかし、ベラルーシについてもっとも重要なのは西側帝国主義の標的であるという事実です。ほかの東ヨーロッパ諸国とは異なり、西側諸国の要求に臣従しなかったからです。二〇〇四年に「ベラルーシ民主主義法」なるものがブッシュ・ジュニア大統領の署名で成立しています。ベラルーシの野党、非政府組織、独立系メディアを支援することをアメリカの政府機関に許可する法律です。これは当時ベラルーシ側も述べたように、国連憲章・国際法における主権平等や内政不干渉といった原則に反しています。この原則は、「国連憲章に基づいた諸国家間の友好関係と協力に関する国際法の諸原則についての宣言」(一九七〇年十月二十四日)や「国家の内政問題における介入と干渉が認められないことについての宣言」(一九八一年十二月九日)といった国連総会決議で明確に確認されています。
二〇〇五年には、ブッシュ・ジュニアがルカシェンコを「ヨーロッパ最後の独裁者」と述べています(『CBCニュース』二〇〇五年五月七日付)。このルカシェンコを表すよく知られた言葉をつくったのはあの「対テロ戦争」を開始し、一三〇万人以上の犠牲(核戦争防止国際医師の会・ドイツ支部『対テロ戦争の十年後の犠牲者数――イラク、アフガニスタン、パキスタン』二〇一五年三月)をもたらした人物なのです。
以来、いわゆる「悪の枢軸」と言われたイラク、イラン、朝鮮と同様の敵視政策を被るのがベラルーシです。この政策は今も続いています。
つまり、ルカシェンコの言葉というのは、帝国主義コミュニティの外、「われわれ」の外にあって苦難の中で奮闘してきた国の政治家の言葉なのです。その言葉は、「われわれ」の外の人間がどう現在の世界を認識しているのかということの一例です。そうしたものとして聴く必要がある。

「国連憲章を守るための友の会」

こうした帝国主義による攻撃を阻止するためのベラルーシも参加する枠組みとして、二〇二一年七月六日に、「国連憲章を守るための友の会」(the Group of friends in defense of the Charter of the United Nations)の事実上の発足式が行なわれました。参加国はアルジェリア、アンゴラ、ベラルーシ、ボリビア、カンボジア、中国、キューバ、朝鮮民主主義人民共和国、赤道ギニア、エリトリア、イラン、ラオス人民民主共和国、ニカラグア、パレスチナ、ロシア、セントビンセント・グレナディーン諸島、シリア、ベネズエラ、ジンバブエで、国連ウェブテレビで式の様子が視聴できます。国連憲章の主権平等や内政不干渉の原則を確認し、帝国主義の横暴に抗してこれを守らせるための協力関係の強化を確認しています。こうした原則が要請されるのは国連憲章が元来、世界反ファシズム戦争の戦勝国が一つではなく複数であったことから戦後の多国間協調=平和共存のために必要とされたものだからです。
第二次大戦直後、一九四六年三月二十日付のAP通信の取材でスターリンは次のように話しましたが妥当な見解であり、アメリカの歴代で唯一まともな大統領で、ナチス・ドイツの侵略に抗するソ連に敬意を払う同盟者だったフランクリン‐ルーズベルトの構想とも一致していました。「わたしは国連が平和と国際安全保障の維持のための重要な手段である点で、非常に大切だと考えます。その強みは、国家間の平等の原則に基づき、一部の国が他の国を支配するという原則には基づかないことにあります。将来、国連がその原則を維持できれば、普遍的平和と安全を保証する上で、大きな役割を果たすことはまちがいありません。」
「国連憲章を守るための友の会」は、西側諸国がズタズタに破壊してしまったこの当初の理想を甦らせようという試みであり、キューバ、ベネズエラ、ニカラグア、朝鮮、中国といった帝国主義の包囲下で社会主義を志向し奮闘する国々が積極的に参加し役割を担っています。そしてそこにシリアやイラン、ロシアも加わる。こうした現存社会主義国もかかわる具体的な動きを踏まえ、わたしたちは現在の世界を見る必要があります。

グローバル・サウスの声

TBSのインタビューのタイトルに「ロシアを支援するのはベラルーシだけ」とありますが、そうではありません(そもそもこのタイトル自体がインタビュー内容の誤解を招くものです)。一例としてシリアのバシャール‐アサドのものがあります。シリアは非同盟運動加盟国です。
アサド大統領は二月二十五日に「ロシアは今日、自国のみならず世界、正義や人道といった原理を防衛している。混乱と流血の責任は西側諸国にある。それは諸国民を支配しようとする西側諸国の政策の結果だ。これらの国は、シリアでテロリストを、ウクライナなどさまざまな場所でナチスを支援する、汚い戦術をとっている。シリアは正しい姿勢をとりたいとの信念に基づき、ロシアに寄り添う」と声明を発表しています。
この十年間でもっとも帝国主義の介入・干渉に苦しめられている国がシリアです。ロシアの合法的な協力もあり、西側諸国が間接的に支援したイスラム国およびヌスラ戦線等のイスラム過激派による侵攻を食い止め、アレッポを奪還して以降は最悪の状況を脱したものの、現在もイスラエルが南部のゴラン高原、トルコが北部のイドリブ、アメリカと結託したクルド人主体の部隊がユーフラテス川東部のハサカを占拠しています。アメリカは主に油田を占拠し、二〇一一年当時政府歳入の四分の一を占めた石油の八〇%を握っています。いまだ経済封鎖も解除されていません。
プロレタリア国際主義を真に体現するキューバは近年、苦境にあるシリアとの協力関係を強化してきました。今年一月にはキューバがシリアにCovid‐19対策のワクチンを二四万回分提供した際、アナ‐テレシタ‐ゴンザレス外国貿易・外国投資副大臣が「今回の輸送は両国の関係の深さと強さを証明する」「キューバとシリアはともにアメリカによる不当な禁輸措置に直面しており、キューバはこのような困難な状況下で製薬産業やバイオテクノロジーに関する知識や経験を共有したい」(『オリノコ・トリビューン』二〇二二年一月十二日付)と述べています。
そのキューバ政府は二月二十六日に声明を発表して、「ロシア連邦による安全保障上の根拠のある要求を数十年間にわたって無視し、国家安全保障への直接的な脅威を前にして同国が無防備のままでいると想定してきたのは過ちであった。ロシアは自衛する権利を持っている。国家を包囲したり、追い詰めたりして平和を得ることはできない」と述べています。ロシアの動きを支持しているわけではありませんが、ロシアの要求は「根拠のある」ものであり、「自衛する権利を持っている」と指摘しています。同じラテンアメリカのベネズエラとニカラグアはドンバスの両人民共和国の独立を承認しました。社会主義をともに志向する三か国は近年、多くの分野でロシアとの協力を強化してきました。『ボイス・オブ・アメリカ』二月二十五日付のインタビューでアメリカ国家安全保障会議の西半球担当者ファン‐ゴンザレスは「対ロシア制裁の影響はこの三か国にもおよぶ。それは意図的なものだ」と話しましたが、実際にそうした関係がある。
朝鮮も同様です。朝鮮の外務省は「米国と西欧は法律的な安全担保を提供することを求めるロシアの合理的で正当な要求を無視したまま、是が非でもNATOの東方拡大を進め、攻撃兵器システムの配備まで露わにするなど、欧州での安全保障環境を体系的に破壊してきた」と二月二十八日に声明を発表しています。四月二十四日には「ロシアとの友好協力関係をすべての分野で全面的に拡大、発展させていく」と表明。翌日付の朝鮮労働党機関紙『労働新聞』は「朝ロ友好は帝国主義の侵略と戦争策動に反対する戦場で血潮で結ばれ、平和と安全を守るための闘争の過程に強化され発展してきた。双務関係をたえず強化し発展させていくのは両国首脳の確固たる意志であり、朝ロ人民の共通の要求である」と記しています。日本も含む西側帝国主義諸国の人民は、朝鮮人民の友たりえていない、という厳然たる事実とともにこの声明は覚えておくべきでしょう。
アフリカに目を移します。世界各国を飛び回り帝国主義がもたらす人びとの苦しみを取材し続けたアンドレ‐ヴルチェクというジャーナリストによって、「アフリカのキューバ」と評されたエリトリアの大統領、イサイアス‐アフェウェルキスは五月二十五日のエリトリア独立記念日の演説で「『西側』の支配エリートは、冷戦の終結を『歴史的好機』と認識していた。かれらはソ連崩壊後、『次の一〇〇〇年間は世界はわれわれのものになる……あらゆる分野におけるわれわれの優位は、いかなる勢力によっても争われることはない』と主張した。そして『そのような勢力の出現を許してはならない』と。このようにして当時主要な競争者と認識されていたロシアを、『封じ込め』る政策に乗り出したのである。戦術的にはロシアの国境に近接する東ヨーロッパ諸国が『封じ込め』の手段として選ばれた。宣戦布告にひとしいこの政策の落とし穴はあまりにも明白であった。その結果、現在のような危険な状況が生まれたのである」と言っています。また、南アフリカのシリル‐ラマフォサ大統領(ANC所属)は三月初旬の国連総会でのロシア非難決議を批判し、「南アフリカは国連決議が当事者間の対話の開始を何よりも歓迎し、そのための条件整備を求めるものだと期待していました。しかし、政治的対話による解決の呼びかけは最終的な文書の末尾に近い一文に追いやられている。これでは当事者が解決の努力を続けるための後押しや国際的な後ろ盾を提供することはできません」(『SAニュース』三月七日付)と述べています。非難決議や人権理事会除名決議に対して反対・棄権・欠席を行なった国の多くはアフリカ連合加盟国でした。

認められない理性

こうした声は、決して聴こえてこないわけではありません。しかし、かれらの考えは重要ではないものとして切り捨てられてしまいます。
そうした切り捨てを被った人物の一例としてネルソン‐マンデラが存在します。西側諸国でも人気で、わたしも尊敬している偉大な人物です。
マンデラはイギリスを訪問した際、ユーゴスラヴィア空爆について首相のブレアを猛烈に批判しました。『ガーディアン』二〇〇〇年四月五日付の報道によれば、「国連を踏みにじり、イラクとコソボに対する軍事行動に着手しようとしている英国と米国に怒りを表す」「このような国際的慣習の無視は、現在アフリカで起きていること以上に、国際平和にとって危険である」という内容でした。しかし、こうした理性的な批判は「国際社会」の誤った権威に何ら影響を与えませんでした。
また、マンデラは一九九七年十月二十二日にアメリカの反対を押し切ってリビアを訪問した際、「わたしがここにいるべきではないという人びとは道義をわきまえない人です。かれらの非道徳に与することはありません。この人物は、わたしたちが完全に孤立していたときに、つまりわたしがここに来るべきではないと言う人びとが敵に手を貸していた時にわたしたちを支援してくれたのです」と述べるなど、西側諸国による非難からカダフィを擁護し続けました。カダフィのアフリカの独立への貢献はマンデラのよく知るところでしたが、そうした事実に基づくマンデラの倫理的主張は相手にされないのです。かれのこうした言葉は無視されるのではない場合には「諭される」対象であり、リビアに行くたびマンデラはカダフィとの絶交を「諭された」のです。その理性は侮辱された。二〇一一年のリビア戦争時には、マンデラの言葉が思い起こされることはほとんどありませんでした。
マンデラの言葉でさえ相手にしない「国際社会」の内の人びとが、その外の声を聴くことができないのは当然のなりゆきなのかもしれません。

現ロシアと反ファシズム戦争の経験

ところでロシアに対してはどうでしょうか。第二次大戦終結直後の『ニューヨークタイムズ』一九四五年六月十日付にザウルズバーガーという人の記事「ロシア人が求めるもの、そしてその理由」”what the Russians Want –and Why ”があります。そこでかれは、ナチスの侵略を被ったソ連の人びとの苦しみについて、「その悲しみと苦しみ、痛みと不幸、勤労を美徳とする国において無駄に費やされた労力、そうした損失は計り知れないものである。その損失の大きさは、ほぼ無傷のアメリカには到底知りえない。……おそらくはロシア人自身にも完全には理解しきれないほどではないだろうか。……この甚大なる苦しみとかつてないほどの損害は、ソ連の人びとや土地に消えない傷痕を残すだけではなく、将来にわたる意思決定や政策、そして人びとの心理的な傾向にまで影響をおよぼすだろう」と記しています。そのうえでソ連が「東ヨーロッパに確実な味方を求めるようになるだろう」と指摘しています。
たしかに現ロシアは旧ソ連ではないし、ロシアだけが旧ソ連構成国だったのではありません。しかし、ロシアがナチス・ドイツの侵略を被った国であり、その国の人びとがロシア人であることに変わりはありません。その人類史上もっとも恐ろしい計画を遂行した悪魔を打ち負かすソ連のたたかいに最大の貢献をしたのがロシア人であったことも、終戦後、グルジア人スターリンが認めたところでした。それは同時に旧ソ連構成諸民族中、ロシア人がもっともファシストの恐怖を味わうことでもあったわけです。本紙四月一日号でわたしは「現在のロシアはソ連ではない」と書きましたが、「ソ連以前のロシアでもない」という留保も必要ではないかと思います。
ニュルンベルクで裁かれた人類史上最悪の侵略犯罪者たちによって深く傷つけられたロシアの経験を省みず、東ヨーロッパにおいて敵対的な(それも親ファシスト的な)政権を樹立するための干渉・介入を繰り返すことで、侵略的軍事同盟NATOを拡大させてきた西側諸国の無感覚が今回の事態をまねいたことは否定できません。わたしもロシアの選択は誤っていると思います。「友の会」構想も暗礁に乗り上げてしまった。でも、ふたたび国境で怪物に立ち向かわなくてはならないかもしれないという、ロシア人の恐怖はどうなるのでしょうか。いずれにしても必要なのは、中国・外交部の汪文斌報道官の言葉を借りれば「ウクライナ危機におけるみずからが取るべき責任についてしっかりと反省し、ロシアとの全面的な対話を早急に展開」(『中国国際放送局』二〇二二年五月二十七日付)することです。
東京裁判ではハサン湖・ハルハ河戦争、ナチス・ドイツへの軍事援助によるソ連侵略も罪状として正式に認定されています。日本の人びとはそのことを忘れてはならない。中国東北部を侵略した者たちの誤った被害者意識は、東京裁判の否定にもつながります。

被抑圧民族と対話を

話を戻しましょう。われわれが見るべきは、「国際社会」=帝国主義コミュニティの外でたたかう人びとがもつ世界についての認識が、現在「われわれ」の多くがもっているそれとは大いにかけ離れているということです。そこでのかれらの見方には非常に納得しがたい部分もあるのですが、むしろ帝国主義コミュニティの中にいる「われわれ」はそうした部分からこそ学ぶべきではないでしょうか。
「われわれ」の外にあって奮闘する人びとが何を見て何を語るのか。――今日のウクライナ事態をめぐっても、かれらが発する声に耳を傾けることが、本紙の冒頭にも掲げられる「被抑圧民族との団結」を実現するためには不可欠です。その多くは同時に現存社会主義国の声でもあるのですが、それを無視する西側左翼のうぬぼれ、偽りの国際連帯論、偽りのインターナショナリズムをわたしは拒みます。
東アジアではどうでしょうか。朝鮮の声は? 『朝鮮新報』二〇〇六年二月十四日付に「朝日国交正常化会談」朝鮮側団長のインタビューが掲載され、そこで国交正常化にあたって日本に求める過去清算の内容として、①日本が植民地時代に朝鮮人民に被らせた人的・物理的・精神的被害を補償すること、②在日朝鮮人の権利保障、③略奪した文化財を返還すること、の三つを絶対に譲れないものとして表明しています。中国の声は? 中国は日本による傀儡政権樹立方式(満州国、冀東防共自治政府、汪兆銘政権、蒙古連合自治政府)による中国植民地支配への再発防止として、日中共同声明などで確認された「一つの中国」原則の遵守を要求しています。
当面の目標は憲法第九条改悪阻止ですが、朝鮮や中国も含む「国際社会」の外の声を謙虚に聴くことなしには「国際社会」との連携の名の下で進む反動攻勢に押し込まれてしまうのではないでしょうか。
【大村歳一】
(『思想運動』1078号 2022年7月1日号)