ウクライナの事態がまねいた反戦平和運動崩壊の危
平和憲法の精神が放棄される運動状況

同調圧力に屈せず事実と向き合おう

高梨晃嘉(神奈川二区市民連絡会)                         

 戦後七七年を前にして日本の反戦平和の運動はいま深刻な分裂・解体の危機を迎えている。運動内部で、ロシア・ウクライナ戦争の歴史的な認識と憲法九条の認識をめぐって、かつてないほどの意見の違い、亀裂が生じているのだ。ロシア・ウクライナ戦争について「なぜ戦争になったのか」という点を考えないばかりか、戦争の背景などの話をすると「お前はロシアを支援するのか」と問われ、意見交換はそこで一方的に打ち切られてしまう。「どうしてそう考えるのか」と問いかけても口をつむぎ、「侵略したロシアが悪い、ロシア糾弾とウクライナからの撤退要求だけが問題なのだ」としか語らない。さらに、「武器供与をやめろ」「経済制裁やめろ」など自国政府に突きつけようと提案しても「そんなことを言ったら周りが引いてしまう。そんなことは言うべきではない」と言ってこれまた意見交換が一方的に打ち切られてしまう。こうした事態がいまわたしの所属する地域の市民連合の会議でも生まれている。
 市民連絡会などの大衆運動の現場での意見の対立を放置することは、これまでの運動の結集・拡がりという成果を反故にして運動の分断・分裂・縮小につながりかねず、資本支配層の思うつぼである。したがって、大衆運動の場で、共同行動の前に、意見交換や学習をどう継続させ、そのうえで問題意識や課題認識の共有をいかに作り出していくのかがいま直面しているわたしの課題だ。
 ウクライナ(ゼレンスキー政権)への武器供与が、「戦争を続けろ」「ロシアを撃退せよ」というメッセージにほかならず、武器供与が続く限り戦争は終わらない。ロシアの侵攻によって殺されるウクライナ人には同情しても「敵」として殺されるロシア兵士の方が圧倒的に多い事実はまったくかえりみられることはない。これらについて問題としない運動は果たして反戦運動と言えるのか。わたしの答えはNO! だ。

平和憲法と立憲主義の空洞化

 さらに、こうした運動のありかたが平和憲法の精神の放棄につながっている、とわたしは考える。反戦平和運動の中にも政権と同様に個別的自衛権や専守防衛、国家主権擁護さえ持ち出してウクライナ・ゼレンスキーの戦争行動を正当化する論が従来以上に目立ってきている。こうした論は、いまや平和憲法とその立憲主義のいずれをも空洞化するばかりか否定への道に踏み出している、とわたしは考える。
 戦争放棄と武力放棄(不保持)の憲法九条は、憲法前文と一体のもので、とくに「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した」といった文言が九条の規定につながっており、ここには個別的自衛権も専守防衛も否定されており、しかも常識化されている「軍事同盟による安全と生存の確保」さえ否定されている、とわたしは理解している。

日本の国際的位置

 反戦運動とはいかに平和をつくるのかという具体的な取り組みのことだ。いま、この国はアメリカと一体となって中国を「敵」として「台湾有事」を口実に沖縄・南西諸島への自衛隊およびミサイルの配備を強行している。この日本の状況はいまのウクライナの立ち位置とまったく同じに思えてならない。二〇一四年のマイダン革命からこの二月二十四日のロシアの侵攻の日まで(そしていまも)アメリカから膨大な武器供与等の軍事支援を受け、ロシアを「敵」として戦争準備を進めてきたという事実を軽視することはできない。またバイデンが三月一日の一般教書演説で「プーチンに立ち向かうためにわれわれは数か月かけて欧州や米州、アジア、アフリカ大陸の……国々と連合を形成し、周到に準備していた」と述べた。これらの事実からロシア・ウクライナ戦争がアメリカの仕掛けた戦争であることがわかる。そして、このロシア・ウクライナ戦争が東アジアではアメリカを後ろ盾に日本と中国の戦争として再現される危険性につながっていることがわかる。

何を訴えるべきか

 いま、わたしたちはロシア・ウクライナ戦争に日本政府も深く関わっていることに向き合い、「ウクライナに武器支援をやめろ」「ロシアへの経済制裁をやめろ」「アメリカ・NATOとの軍事演習をやめろ」「武力ではなく平和外交を行なえ」と訴えていかなければならない。加えて「台湾有事」を口実に憲法改悪と軍拡が進められている事実に向き合い、「中国と戦争するな」「沖縄を戦場とする日米共同作戦計画を撤回しろ」「敵基地攻撃能力保有・軍拡やめろ」を一体のものとして日本政府・自公政権に突き付けていく取り組みがますます求められている。そして、野党各党にもこうした立場に立つよう働きかけていくことも同時に強く求められている。
 わたしは、現象に流されず、感情に流されず、同調圧力にくみせず、事実に向き合い、これからも自国政府にこれらの要求と声をあげ続けていく。日本の反戦平和運動の再建への問題意識を携えて。