基地は沖縄経済の阻害要因
沖縄の自立的発展阻んだ政府の振興策
                      

 沖縄へ座り込み参加のために通って切実に感じることは、国家権力による赤裸々な理不尽さだ。本土にいては、わたしには見えなかったことだ。
 故・翁長雄志前知事は「基地は沖縄経済発展の最大の阻害物」と喝破した。どういうことを意味するのか。
 沖縄県は四月一日、第六次となる沖縄振興計画(二〇二二~三一年度)の最終案を発表した。この沖縄振興策について考えてみたい。

振興開発がもたらしたもの

 日本政府は一九七二年、復帰した沖縄が置かれた四つの特殊な事情に鑑み「本土との格差是正」「自立的経済発展」を目標に掲げて沖縄振興策を始めた。①歴史的事情――沖縄戦で徹底的に破壊され、二七年間の米軍占領下でインフラだけでなく社会構造まで歪められた。②地理的事情――本土から遠隔にあり、広大な海域に多数の離島が点在している。③自然事情――わが国でも稀な亜熱帯地域にある。④社会的事情――米国は施政権の返還とひきかえに在日米軍基地の自由使用権(好き放題に使える)を獲得した。米軍基地は五〇年前五八・七%から現在は七〇・三%に増え、さらに辺野古新基地建設も強行されている。
 この五〇年の間に、振興開発、地域経済の活性化という名の下に、一三兆円の予算が投じられたが、それがもたらしたのは自然破壊以外のなにものでもなかった。幹線道路は舗装され、各地にリゾート地が作られ、高級ホテルが乱立し、海浜、砂浜は埋め立てられサンゴは殺されていった。

沖縄を「基地依存型経済」へ誘導

 一九七九年度からの四一年間で国が発注した県内公共事業のうち、受注額の半分近い四六・三%、金額で一兆一八五四億九四五二万円は本土企業が受注していた。
 国の予算が沖縄を素通りし、本土に富が蓄積する構造だ。その源流をたどると、敗戦直後の米軍基地工事に行き着く。
 一九四九年、米軍基地建設に向け、四六人の技術者が沖縄に来た。鹿島建設、間組、大林組など、いずれも本土の大手建設一〇社の社員で、翌年からの本格的な基地建設に向けた測量と設計のためGHQが選抜したメンバーだった。
 当時、米国とソ連の対立で「冷戦」の兆しが見え始め、四九年には中華人民共和国が建国した。GHQはアジア戦略を見据えた軍事拠点として沖縄を重視、沖縄の軍事施設の恒久的使用を決め一九五〇年二月に基地建設開始を発表した。清水建設や日立などが住居建設や電気設備、娯楽施設などの工事を請け負っている。
 米国が本土業者を重用した背景には、本土の経済復興の加速化がある。日本の資本主義を復活させ、ソ連など社会主義諸国封じ込め政策の一環として、米国は日本を資本主義陣営の一員として経済発展させることを狙った。
 この四年間で日本本土の業者が得たものは大きかった。五〇年、米議会は沖縄への基地予算として約七四〇〇万ドルの支出を認めた。五二会計年度では三億七八〇〇万ドルを計上、多額の資金を基地建設に投じた。が、米国は「沖縄返還」にあたって占領期に投資したすべてを回収するという方針を貫いて現在に至る。
 米国は沖縄で製造業の育成はせず、軍作業の対価としてドルを稼がせ、大量の物資を本土から輸入する経済政策をとった。五〇年四月の沖縄B円レートは「一ドル=一二〇B円」。輸出に不利で輸入を促す円上レートだ。米国は、日本は「高度成長」へ、沖縄は「基地依存型輸入経済」へと誘導した。
 労働現場は劣悪、凄まじい差別で、賃金は米人一〇とするとフィリピン人六、本土の日本人三、沖縄人一、と序列化された。
 経済的自立が道半ばな背景には、このような戦後の経済政策の影響が大きい。五〇年を経てなお所得は全国最低水準で子どもの貧困率も全国の倍、進学率も最低レベルだ。二〇一八年の産業別総生産に占める製造業の割合は、全国二〇・七%に対し、沖縄は四・三%にとどまる。

今後の方針では振興と安保をリンク

 政府は四月七日、今後一〇年間の沖縄振興の方向を示す基本方針案をまとめた。沖縄が国境に接する離島であることを念頭に、領海や排他的経済水域の保全の重要性を強調し、沖縄振興と「安全保障」をリンクさせた。
 「復帰」を挟んで一〇年間(一九六八~七八年)は革新の知事だった(屋良、平良県政)。七八年に保守の知事が誕生した(西銘県政)。その保守県政三期一二年で行なったことは、本土からの公共事業を積極的に誘致したことと、自衛官募集業務を開始したことだ。現在は、与那国島、宮古島、石垣島にまで自衛隊基地を増強しミサイルが配備された。琉球弧の島々が軍事要塞化され、日米両軍の基地の共同使用や一体化が進む。
 沖縄振興を進めるはずの社会的事情は改善されるどころか真逆となっている。
 玉城デニー知事が出した第六次振興計画案は、普天間飛行場の県外・国外移設を追求するとともに、県内に集中する米軍基地が振興を制約しているとして、その整備縮小を求めた。自立的発展と県民一人ひとりが豊かさを実感できる社会の実現を目標に掲げ二四五ページにわたり三六施策が述べられている。
 内閣府は四月内に沖縄振興審議会に基本方針案を諮問し、答申を踏まえ岸田文雄首相が四月中旬に方針を決定する。その方針に沿うかたちで県が五月中に第六次振興策を決定する。
 このシステムはいったいなんだ!
 基地は経済阻害要因である。沖縄の民意をこれでもかこれでもかと踏みにじり、振興名目での基地とカネの政策は構造的な沖縄差別だ。
【大館まゆみ】