ウクライナ戦争が生み出した「翼賛」状況
「科学」による状況認識を
                         

闘争の武器として

 ロシアのウクライナ侵攻をうけ、保守反動から共産党も含めた平和勢力までもが「ロシアたたき」一辺倒の「翼賛」状況だ。このひどく冷静さを欠いた状況の原因は何なのか。花田清輝が「プロレタリアートの役にたつものは『善』であり、役にたたないものは、『悪』であって、なにが役にたち、なにが役にたたないかをきめてくれるものは、科学だけだ」(「世の中に歎きあり」『全集』第六巻、一九五六年初出)と強調してから七〇年が経とうとしている。しかし、いまだに「科学」が無視されているようにわたしには見える。元来、科学とは、人民の当たり前の感覚に訴える手法であり思想である。それゆえ支配階級のデマを暴く武器でもあった。
 といっても、何も特別なことではない。大きすぎたり小さすぎたり、遠すぎたり近すぎたり、早すぎたり遅すぎたりして直に「見えない」ときには、どうしても確かな情報から論理をもって仮説を立て、繰り返し確かめるほかはない。そのとき「みんなが言っている」からとの多数決では判断できない。たとえば計算問題を解くときには答えを多数決で決めたりしない。しばしば直感を裏切る結論が導かれるのも、「見えない」ものが見えるようになるためだ。

真理は少数派に宿る

 民衆の圧倒的多数の支持があって戦争は可能となる。ITの蔓延は今日の戦争における「情報戦」の役割を増大させた。虚実入り乱れ、意図的に情報が撹乱されているときに「みんなが言っている」では、正しい判断はできない。われわれはすでにNATO陣営の内にあるのだ。
 ロシアが軍事侵攻をする以前のことは「削除」され、抵抗するウクライナとそれを支援する米国やNATO関係諸国が「正義の味方」として宣伝され、バイデンはプーチンを「虐殺者」と批判する。しかし米国の歴史を少しでも思い返せば国家的虐殺行為は比べ物にならない。朝鮮戦争とベトナム戦争からアフガニスタン戦争、イラク戦争までもがその連続だ。それは検定教科書からさえわかる。ロシア軍が侵攻した同じ週に米国はソマリアで空爆を開始し、サウジアラビアはイエメンへの、また、イスラエルはシリアおよびガザのパレスチナ人への空爆を行なった。米国はそれらに対して一度たりとも謝罪も賠償もしたことはないし、「経済制裁」も「報復措置」もされない。それらに抗議する集会が報道されることもない。いっぽう、ロシアの侵略を非難する「反戦」集会やデモが、かつてないほどに商業メディアでも取り上げられている。そこではウクライナの国旗が振られ、国歌が歌われ、ウクライナ政府の主張が伝えられ、それを積極的に評価する声も上がる。しかし、ウクライナ国内では二〇一四年のクーデター後まもなく、共産党や労働者党が非合法とされ、その事務所が襲撃されたり党員や活動家が暴行されたり行方不明になっている。さらにゼレンスキーは三月二十二日にも左派野党一一党を非合法にした。
 それでも侵略されているウクライナの民衆の「人道的危機」を止めるために、ロシア批判に集中すべきだとの主張ばかりが目立つ。では、イラクやアフガニスタン戦争や、沖縄の反基地闘争や、今現在も繰り返される在日朝鮮人への差別と迫害や、日本による中国や朝鮮そしてアジアへの侵略や、日本軍性奴隷制度問題、つまり日本帝国主義の犯罪を「人道的危機」として報道することにあまりに消極的なのはなぜだろうか。

ミサイルは誰を狙う

 米国はミンスクⅡによるドンバス紛争の停戦を望まなかった。米国の独占資本はドンバスの緊張状態に乗じて巨大な利潤を上げていた。かれらは大砲やジャベリン対戦車ミサイルも含む数十億ドル規模の武器輸出を行ない、ウクライナ政府によるミンスク合意違反の重火器によるドンバスへの攻撃を支援したのである。そのためウクライナ東部では、この八年間で一万四〇〇〇人もが殺された。
 ロシアのウクライナ侵攻後、三月上旬にはベラルーシで、続いて三月二十九日にはイスタンブールで停戦交渉が行なわれ、その翌々日にロシア軍はブチャからの撤退を完了した。その直後、「ブチャでのジェノサイド」がロシア軍による戦争犯罪の動かぬ証拠だと世界中で報道された。一方で、ロシア軍による関与を否定する証拠もいくつか指摘されている。事実はわからないが、この報道をきっかけにして米国とNATO諸国によるウクライナへの大規模な追加的軍事援助が決まり、停戦交渉は暗礁に乗り上げた。
 戦争がさらに続くことが明らかになると、米国の軍事関連株は急上昇を見せた。たとえばロッキード・マーチン社はこの二か月で二割跳ね上がった。大規模経済制裁の影響でロシア株は「一人負け」の状況だという。世界の軍事予算の約四割は米国が占める。米国はさらに五ポイント引き上げてGDP比四%にすると発表した。日本も二%への倍増を政府自民党が計画しはじめ、ドイツはGDP比一・五%から二%以上になると発表している。つまり膨大な軍事費は労働者・民衆を殺し殺されることに使われ、その費用はめぐりめぐって労働者が支払う。そこに国の別はない。労働者階級の命と、資本家階級の莫大な利益とが、資本主義の生産関係を通じて取り引きされているということだ。
 しかし日本民衆の八九%が「中国の台湾への軍事侵攻に不安を感じている」と答え、六四%は「防衛予算」の増額に賛成している。ゼレンスキー大統領の国会演説が行なわれ(一部の議員を除いて)総立ちで拍手を送る。「貴国の人びとが命をも顧みず、祖国のために戦っている姿を拝見して、その勇気に感動しております」(山東昭子)と現職の国会議長が国のために死ぬことを賛美できる。SNSなどでは、ロシア軍のヘリコプターや戦車が最新兵器で破壊される映像を見て「いいね」が一〇万を超える。これが今の日本の世論状況である。それに乗じて政府自民党は「次は台湾だ」と恐怖を煽り改憲、軍事費倍増、「敵基地攻撃能力」(=侵略能力)、「核共有」(= 核武装)を一気に進めようとしている。
戦争政策を止めよう
 いま日本共産党までが、帝国主義戦争の情報戦の渦中にある民衆に向かい、「平和的手段」でのロシアたたき、「非軍事的」なウクライナ支援を呼びかけている。そればかりか「自衛隊の活用」まで容認する発言をしている(『しんぶん赤旗』四月八日)。それが労働者階級の「利益」に反することは明らかではないか。
 ミサイルが打ち込まれている側と、打ち込む側と、作る側とに労働者が分断されている仕組みそのものと闘わなくてはならない。資本主義の生産関係を終わらせる闘いが、戦争を終わらせる道である。たとえ、まだミサイルが打ち込まれていなくとも、膨大な税金が軍事費に注ぎ込まれ資本家の利益に交換されるおかげで、われわれの生活はいっそう惨めになり、窮乏へと、あるいはその恐怖へと追い詰められていく。それがまた戦争を準備する。この流れを止めるために、労働に従事する者は「市民」などにならずに「職場をわれわれのものとする」闘争をする必要がある。それがストライキというもっとも平和的な方法によって自国政府の戦争政策を止めることを可能とする。労働とは元来、平和的なものなのだ。
 戦争の責任は資本家階級とそれに独占された政府にあるが、それを止める責任はわれわれにある。
【藤原 晃】